第801話 下僕ですか〜
「美香〜?
猫ちゃんの飼い主らしき方がいらしたの。
降りていらっしゃい!」
家の中の案内され、玄関を閉めたところで女性が2階に声を掛けた。
暫し何の反応も無かったが、やがて扉が開く音がしたと思ったらすぐに閉まり、小さな足音が階段を降りて来た。
猫は部屋に閉じ込めたままかな〜。
母親の方はほぼ納得しているみたいだけど、娘の説得が必要か。
「キララはウチの子だよ?」
降りて来た小学生ぐらいの子が不満げに母親を睨みながら言った。
「キララちゃんが居なくなったのはもう半年も前でしょう?
あんなに元気で綺麗な格好で半年も外で暮らすなんて無理だったと思うから、あの猫はキララちゃんとは似ているけど、別のこの人の家の仔だったんじゃないかしら?」
女性がコムギちゃん探しのポスターを美香ちゃん(多分)に見せながら言った。
渋々とポスターを受け取った推定美香ちゃんがじっと写真を睨みつける。
「でも・・・折角帰って来たのに」
いや、帰って来たんじゃないよ?
と言うか、キララちゃんは既に帰って来て、今も足元ですりすりしてるよ?
すり抜けちゃってるけど。
今晩あたりにでも、夢で話し合える様にでもしてあげるかなぁ。
呪いならまだしも、夢を繋ぐ術は時間差操作みたいのは出来ないから今晩遅くか明日の朝ぐらいに来なきゃならないんで面倒だけど。
いや、キララちゃんに多めに魔力を渡しといたら一瞬だけ声を掛ける程度の事はできるかな?
クルミ経由で何とかならないかなぁ。
流石に直接関係ない赤の他人の為に寒い最中にここまで始発で来る気はいまいち起きない。
「ほら、ここら辺の模様がよく見たらキララちゃんと違うじゃない?
考えてみたら、昨日連れて来た子はキララちゃんよりもこの写真に近いわよね」
母親が自分の携帯の写真をポスターの横に据えて顔の辺の違いを指摘した。
「でも・・・」
美香ちゃんがぐずる。
「俺もだけど、妹と弟がコムギの事を凄い心配していたんだ。
保護してくれてありがとう。
何だったら今度うちに遊びに来てまたコムギと遊んでやってくれないか?」
蓮君が声を掛ける。
お。
上手いね。
妹さんや弟さんと美香ちゃんの相性がどうだか知らないけど。
まあ、比較的近所に住んでいるんだし、1、2回遊びに行ってコムギちゃんが元気にしているのを見たら満足してくれるかも?
でも遊びに来ても猫って隠れちゃう事が多いけどね〜。
この際、諦めてキララの次の猫を飼ったらどうかね?
死んだ事を認めたく無かったから次にいけなかったのかもだが、今晩にでも夢でキララと話せたら少しは踏ん切りが付くかな?
「・・・分かった。
取り敢えず、本当にあの子がコムギちゃんか、確認してみよう」
娘の心境に同情はしているが言い聞かせモードな母親の顔を見てどうやら味方はいないと悟ったのか、重い溜め息を零して美香ちゃんが提案した。
「ありがとう」
蓮君がほっとした様子でお礼を言ったが・・・これでコムギちゃんが知らない家に興奮していてシャー!とか威嚇しちゃったらどうなるんだろ?
そんな事を考えていたのだが、2階に上がった美香ちゃんがニャンコを抱いて部屋から出て来たらその猫がぐにゃっと体を動かして腕の中から飛び出し、階段を駆け降りて来て蓮君に飛びついた。
おお??
意外にも愛情深いみたいじゃん?!
源之助は出迎えることはあっても碧にすら飛びつくことなんて殆どないよ??
『さっさとエリちゃんのところへ連れて行けって言っているにゃ』
ピシピシと抱き上げた蓮君の腕を尻尾で叩いているコムギちゃんのコメントを、私の横に現れたクルミがそっと教えてくれた。
なるほど。
妹さんが大切なお母さんかお姉さんで、蓮君は下僕扱いなのね。
でもまあ美香ちゃんのガッカリした顔を見るに、納得はしたっぽいから良かった。
『ねえクルミ、キララちゃんの霊に多めに魔力をあげたらちょっとぐらい美香ちゃんと夢の中で話せると思う?』
クルミに尋ねる。
術を使わないで魔力だけの力押しとなると死霊側と人間側両方の資質の問題があるからなぁ。
『たっぷり魔力をくれたら、クルミが夢を繋げるのは可能かもにゃ?』
クルミが提案して来た。
ふむ。
それもありか。
魔力をたっぷりあげておいた隠密型クルミの躯体をこっちに残して明け方にでも夢を繋いで貰い、明日の朝食時にでも召喚してクルミを手元に戻せば良いよね。
『じゃあ、今のうちにどっか家の中に隠れといて、明日の明け方ぐらいにでも夢をつないでキララちゃんが死んだことと、特に問題はないからさっさと次の猫を飼うなり高木家と仲良くしてコムギちゃんと遊ぶなり、前向きに生きろって伝えさせてあげて?』
隠密型クルミの躯体を亜空間から取り出してこっそり魔力を注ぎ込みながら頼む。
猫は刹那的だからね〜。
生きている時ならまだしも、死んだ後だったらさっさと乗り越えて明日を生きろってスタンスでしょう。
外で会った時も別にコムギちゃんの事を嫉妬していなかったし。
取り敢えず、これで早朝や深夜にこっちに来なくて済むし、一件落着だね!
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