第800話 納得してくれそう?
ピンポ〜ン。
小さくインターフォンが鳴っている音が聞こえる。
これってちゃんと家の中で鳴りましたよって言うのを示す為なんだろうけど、壊れて家の中で鳴らなかった場合にこっちもちゃんと鳴らなくなるんかね?
鳴っているって安心感を与えてピンポンピンポン連続で押し続けない様にしているだけな気もする。
『はい』
女性の声が聞こえた。
お、良かった。
少なくとも『美香ちゃん』とやら以外の大人が居るっぽい。
まあ、『美香ちゃん』が成人しても家に住んでいる娘の可能性もあるが。
流石に一人暮らしの働いている女性だったら戸建てに住まないだろうし、住むにしても自分の事を『美香ちゃん』とは呼ばないだろう。
「すいません、2丁目に住んでいる高木と申す者なのですが、昨日の夕方に猫がうっかり窓から出ちゃって、探していました。
そちらの窓辺にウチのコムギがいるのが見えたので迎えに来ました。保護していただいてありがとうございます!」
断られる危機感なんぞ微塵も見せず、明るく嬉しそうに蓮君がインターフォンに向かって話しかけた。
さて。
ここでシラを切られたら痛い。
『え。
・・・猫ですか』
向こうの人も流石に知らんとシラを切るほどの思い切りは無かったようだ。
「ええ。
チラシをお見せしましょうか?
買った時の血統書は持ってきていませんが、家での写真は色々と携帯にありますよ?」
蓮君が付け足す。
おお〜。
血統書付きだって言うのはちょっと意外だったけど、保護猫じゃな無くてペットショップやブリーダーのところで買ったんだったら一応血統書はあるよね。
血統書にどんな意味があるのかは微妙に不明だが。
はっきり言って、可愛くて雑種な方が健康で強い個体になって良いだろうけど、売る側にとっては金を貰うからには純血種だと言う名目が必要なんだろうねぇ。
何をどうやったら純血種と言う定義になるのかもちょっと不明だが。
猫の種類によっては突然変異を起こした1匹の猫の子孫って言う小さな遺伝子プールの中の仔ですよって証明しているだけで、遺伝子異常の可能性の高さを示しているだけな気もする。
とは言え、猫って大人になるまでに毛の模様や色が変わったりすることもあるからねぇ。
そう考えると、純血種って成猫になった際の見た目に対する予想がつきやすいって言う利点があるか。
まあ、それはともかく。
血統書もあるって言及することで保護した個体を猫ババしたら窃盗になるかもと思わせる効果がありそうだね。
『え〜と・・・ちょっと待って下さいね』
家の中の人がそう言ってプツッとインターフォンが切れた。
「あれ、そう言えばキャリーケースを持ってないけど猫を受け取ったら抱いて帰るの?
うっかり逃げられたらまたもや探す羽目にならない?」
源之助は抱っこされるのって嫌いじゃないけど、暫くしたら腕の中から出て好きにしたがるんだよね。
蓮君の家までここからどれだけ距離があるのか知らないけど、ずっと抱いて歩いても逃げない距離なのかな?
いざとなったら私が眠らせちゃうって手もあるけど。
「大丈夫。
一応抱いて持ち歩ける様に大きな洗濯ネットとタオルを持っているから」
蓮君が言った。
ああ〜。
そう言えば、獣医とかで暴れそうな仔も洗濯ネットに入れていけば良いって話を聞いたね。
洗濯ネットに入れれば逃げられないし、タオルに包めば暴れない可能性が高いか。
「ええっと、娘が以前家出しちゃって行方不明になった猫を昨日見つけて連れ帰って来ましたが・・・その子が高木さんの猫だと仰るのですか?
窓から見えたとの話ですが・・・」
玄関から出て来た女性が家の方を振り返って自分の家の窓を疑わしげに眺めた。
レースのカーテンが閉まっているけど電気が点いているのでちょっとは中が見えるが、窓辺にいたところで猫の模様とかがはっきり見えるかは怪しいだろう。
とは言え、猫を持って帰って来たのは事実なので、ちょっと反応に困っているのかな?
「愛がありますから!
一目で分かりましたよ!」
ニッカリと笑いながら蓮君がゴリ押した。
『愛』じゃ無くて『迷子探しの術』だけど、退魔の術だなんて説明するよりは愛で押し通す方が簡単ではあるよね。
「こちらがポスターなのですが、毛皮の模様とか、この通りではありませんか?
なんでしたら、そちらの行方不明になった猫ちゃんの写真と実際にコムギちゃんを比べたら違いが分かると思いますが」
蓮君から渡されたままだったポスターを女性に突き出して指先で顔の辺の模様へ注意を引く。
どちらもアメショーっぽいからコムギちゃんとキララの霊は似た感じではあるけど、よく見ると目の周りなんかが違うんだよね。
行方不明っていうか死んじゃってから暫く経ったせいで記憶がボヤけていたんだろうけど。
しっかし、キララちゃんは家からうっかり飛び出して交通事故にでも遭って死んだんかね?
猫って死ぬ前に姿を消すなんて話があるけど、それは外猫とか野良な場合だけだろう。
家猫でしっかりガードされている猫が死ぬ直前に飛び出す体力があるとは思えない。
死んだ後に戻って来てここでまったりしているんだから、それなりにキララちゃんも大切にされていたっぽいし。うっかり出ていっちゃったのもアクシデントだったんだろうなぁ。
「・・・確かにそうかも知れませんね」
ポケットから携帯を取り出して何やら写真を確認し始めた女性が溜め息を吐いて言った。
どうやら彼女は納得しつつあるみたいだ。
そうなると今度は娘の説得が面倒だと思っているんかな?
「外に猫ちゃんを連れて来て逃げられてしまったら困りますし、一度中へ入ってお互いによく見て確認しましょう」
門を開けて招いてくれた。
お。
良い感じに話が進みそうだね。
クルミを送り込む必要は無かったかな?
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