第798話 The moment of truth

「これから実際に探すんでしょ?

一緒に行こうか?」

何度かボス氏相手に迷探しの術を試し、ギリギリなんとかなりそうだから家の方に戻って探すと言ってきた蓮君に提案する。


もう暗くなっているからねぇ。

高校生で未成年とはいえ、蓮君もそれなりに育ってはいるから一人暮らしの女性のところにでもコムギねこちゃんが匿われていた場合、女性が一緒にでも居ないと警戒されて話をするのも難しい可能性がある。


悪人は女性にだっているんだけどね。

だが最近のテレビなんかでの報道を見るに、闇バイトの下っぱとして押し込み強盗とかやっているのは若い男性が多いみたいだから、女性が一緒の方がまだマシだろう。


それに私が一緒だったらこっそりクルミに家の中を探らせて猫がいるか確認できるしね。


「今日は既に色々と手伝って貰ったのに、良いのか?」

ちょっと蓮君が遠慮がちに聞いてきた。


「猫の為だからね〜。

お互い様って事で。

もしもうちの猫が攫われたりしたら、その時は宜しくね」

外に連れ出す時はGPSトラッカー付きの首輪をしているから迷子はないと思うけど、あまりの可愛さに車を離れた一瞬の隙をついて誘拐される可能性はゼロでは無いかもだから。


「一応怪我している場合のことも考えて、私も一緒に行くわ。

何と言っても、治せない病気も怪我もないペット専門のカリスマ祈祷師様ですからね!」

笑いながら碧が言った。


そうだよね。

どっかで怪我をして身動き取れなくなっているなら碧がいる方が良い。


「そう言えば、コムギちゃんってGPSトラッカー付きの首輪とか、マイクロチップとかは付けてなかったんだ?」

首輪は付けていたらもう見つかっているだろう。

まあ、父親が死んで経済的に苦しいから高校生なのに退魔師なんてやっているのだ。

学校での生活もある事を考えると仕事の量も必然的に制限されてしまうから、お金はちょっと厳しくてGPSトラッカー付き首輪は無理だったのかな?


「マイクロチップは付けてあるけどあれは獣医や保健所に保護されて調べてくれたら連絡が来るだけだから・・・。

首輪は嫌がるからつけてないんだ」

駅に向かって歩きながら蓮君が説明した。

あ〜。

首輪って気になる子は気にするらしいからねぇ。


うちは外に源之助を連れ出す時はこっそり首輪に認識阻害を付けて嵌めている。

首の辺を後ろ足で掻いた時に引っ掛かって『あれ??』って顔を時々されるけど、術の効果ですぐに忘れるので問題なく付けていてくれる。


それでも毛皮が擦れちゃったりしたら可哀想って事で家にいる間はつけてないけどね。

そう考えると、『家の中では大丈夫』って油断していて逃げられると痛いけど、マンション4階から逃げられたらどちらにせよヤバいし。


散歩と言う下心で首輪を受け入れてくれる犬の方が、GPSトラッカー付きの首輪には向いてそう。

とは言え、犬は迷子になっても自力で戻ってくることが多いらしいから切実に必要なのは猫なんだけどね〜。


そんな事を話している間に高木家の最寄駅に着いた。

「ちなみに、猫を探してますって言うポスターとか、持ってる?

見つけた時に人んちの庭とかに隠れている場合、ポスターを見せて入らせてくれって言う方が説得力があるかも?」

碧が聞いた。


「なるほど。

そんな事は考えてなかったけど、駅とかで配ろうかと思ってポスターは持っているから大丈夫」

蓮君が言った。


猫を探してますってポスターが電信柱とかに貼ってあるのは時折見るけど、駅でそんなポスターを配っているのは見た事は無い。

いや、基本的に駅で声をかけてくる連中なんてヤバい宗教関係か、どっかに連れ込んで高額購入の契約をするまで出そうとしない様な詐欺まがいのセールスだと思って無視しているから、もしかしたら無視した連中の中には迷子猫を探す人も居たのかもなぁ。


ちょっと悪いことしたかも?

まあ、私には迷子猫と野良猫との違いが分からないし、最近は野良猫すら見た記憶が無いからどちらにせよ助けにはならなかっただろうから関係ないけど。


「取り敢えず、術を試してみる」

駅から少し進んだ先で裏道に入り、鞄からタオルを取り出して手に持った蓮君は集中する為に目を閉じた。


さて。

上手くいくかな?


薄っすらと均等な魔力が蓮君から広がっていくのをどうなるかな〜と眺めていたら、ばちっと目を開いた蓮君と目が合った。

「こっちだと思う」


お!

見つかりそう??

ウン万円払って迷子探しの符と急造オンライン講習を受けた価値があった?!



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