第797話 頑張れ!

携帯で蓮君の番号を鳴らす。

『もしもし?』


「あ、凛よ。

上手くいった?」

人間相手でも上手くいかないなら猫相手はまだ早いと思うんだが。


黒魔術系の探索術だったら探索対象とされて察知されたらこっちも分かるんだけど、風系の術だとイマイチ分からない。

もしくはまだ単に成功していないだけなのかもだけど。


『一応辛うじてって感じかなぁ。

微かに感知出来るけど方向はまだしも距離が分からない』


へぇぇ、一応上手くいったんだ。

と言うか、この術って方向と距離も分かるんだ?

だったら慣れてきたら地図で相手が何処にいるかも示せるじゃん。

黒魔術系の探知で呪詛から呪師を探るより精度が良いなぁ。


ちょっと羨ましい。

まあ、呪師探しだって二か所から探って三角測量っぽくすれば地図で大体の場所を推測できるけどさ。

やっぱ元素系の術の方が物理的な結果に関しては強い感じだなぁ。


それはさておき。

「あ、じゃあこっちで猫を見つけたから、ちょっとその子に会ってみて術で探せるか試してみたらどう?」


『是非!!

退魔協会の裏に居るんだよな?!』

意気込んだ感じの返事が返ってきた。


「ええ、日本庭園を抜けて奥の方を左に曲がった物置のそばよ」

口頭の指示で分からなくても、近づいてからもう一度あの迷子探しの術を使えば何とかんなるだろう。


その間に、ボス氏に協力をお願いしないと。

『クルミ、そのボス氏にちょっとこれから来る人が一瞬触れるかかなり近づくのを許可して貰えないか、説得してくれない?』

私が近づいてもそれほど警戒した様子は見えないけど。地域猫って奴なのかな?


飼い猫でもある程度大人になると来客があると逃げる猫が多いし、野良猫も警戒心はかなり強い。

この猫は意外と図太い感じでこっちを静観してるから、人から餌を貰うのに慣れてる地域猫かも。

なんかよく見たら耳がちょっと切れてるし。

あれって避妊手術か去勢手術した印かも?


しっかし。

猫を安全な室内で家猫として飼うことを勧める雑誌なんかは猫は家の中でも上下運動とかが出来ればそれほどストレスなく生活できるって書いてあるけど、外でのんびりしている猫を見るとこれが自然なあるべき姿なんじゃ無いかと言う気もしちゃうんだよねぇ。

クルミが脱走したのはブラック企業に雇用されちゃった飼い主が殆ど帰ってこなくなってネグレクト気味になった為らしいから、極端に外への憧れがあった訳では無いらしいけど。


猫にとって、夏にはクーラーのついた涼しい部屋で過ごせて冬には暖かい暖房付きの部屋で眠れる上に、毎日しっかり栄養バランスの取れた餌を下僕が出してくる生活も悪くは無いと思いたいけどね〜。


考えてみたら、野良猫って35度を超す様な猛暑日でも熱中症にならないんかね?

マンションでは源之助が困らない様に常に28度以下になる様にエアコンを付けてるか、碧が華炎に温度管理を頼んでいるんだけど。


『後でオヤツをくれるなら良いって言ってるにゃ』

野良猫ライフに関して考えていたら、ボス氏と交渉出来たらしきクルミが戻ってきた。


「明日か明後日にでも、蓮君にオヤツを持ってくる様に言っておくよ」

オヤツの存在を知っているって事はやっぱ地域猫か飼い猫っぽいね。


しっかし、自分の猫じゃ無いのにオヤツや餌を捧げる地域猫のサポーターの人って結局何を考えているんだろ?

どうせなら猫が人に慣れてきたら家に迎えて飼えばいいのに。

ペット禁止な賃貸にでも住んでるのかな?

もしくは長期出張が多いとか?


一人暮らしで猫を飼うと旅行や出張の時に困るからねぇ。

それだったら他にも餌をやる人がいる地域猫を可愛がる方が良いのかな?


「お待たせ!」

蓮君がちょっと息を切らせながら走ってきた。

後ろから碧も『しょうがないなぁ』と言う顔をして付いてきている。

今日の靴はあまり走るのに向いていないだろうに。

やっぱ猫の話となると親身だよね〜。


まあ、碧なら靴擦れになってもさっさと治せるけど。


「そっちがボス氏ね。

協力する対価に後日オヤツを求めるって。

ちなみにその術をやるのにどんな情報が必要なの?」


「分かった!

コムギが見つかり次第、お礼にチュールを持ってくるから!

術に関しては、毛とかがあると成功しやすいかもな感じかな?

知っている人なら個人的な知識で出来そうだけど」

蓮君が言った。


だよね。

私の髪の毛はあげてないもん。


迷子探しの場合ってその人の持ち物とかが無かったらどうするんだろ?

個人情報でなんとかターゲットに出来るんかね?


・・・迷子探しの術って、名前とか、何処にいたのか・何処を目指していたのか程度の情報で人を探せるとしたら、究極のストーカー用な術になっちゃいそうだな。


まあ、魔術師がストーカーになったら諦めるか退魔協会経由で圧力を掛けるかする以外、元々対処は難しいだろうけど。


「では、ちょっと失礼」

そっと蓮君がボス氏に近づき、ゆっくりと手を出して臭いを嗅がせたあと、そっと撫でた。

あれで何とかなるのかぁ。


だったらマジで電車で一緒になったとかすれ違っただけの人でも探せそうだねぇ。


取り敢えず今は猫探しが上手くできるかが問題だけど。


「じゃあ、ちょっと離れて術を試してみるよ」

蓮君がそう言って日本庭園の方へ走って行った。


上手くいくといいね〜。

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