第796話 取り敢えず、試そう

「これが術の紋様かぁ」

聖子さんから送られてきた符の映像を見ながら、蓮君が集中している。

癖なのか、集中すると眉間に皺が寄ってるよ?


まあ、男性なら多少の皺は構わないのかもだけど。


「使えそう?」

碧が尋ねる。


こちらの世界では呪文で術を発動する方法もあるらしいが、符から習得する場合は単に符に魔力を通せば良い訳ではなく、自分の魔力で紋様を脳裏に描いて術を起動しなきゃいけないから紋様を覚えなきゃいけないし、それを描き切るだけの魔力も必要なんだよね。

送られてきた紋様を元に符を描いてそれを使うと言う手も一応あるが、習得していない符は形だけなぞって描いても起動しない不良品になることが多いそうだ。

ちなみに手探りで呪文から学ぶよりは紋様で学ぶ方が楽で確実性があるらしい。


前世では基本的に紋様メインで術を学んだが、その際に本人のやる気と言うか願望と言うかも学ぶ速度にかなり影響があると学院では教えていたから、猫を探そうと必死になっている今だったら術を身に付けるのは早そうだ。


「う〜ん、何とかなりそう、かも?」

蓮君から魔力が流れ出た。

お?

風が吹くのとは違うけど、何か風の魔力がぶわっと広がった感じ?

でも、今の広がり方じゃあそんなに広い範囲はカバーできそうに無い気がする。


山での遭難者迷子探しに使える程なんだから、習熟すれば山の一斜面ぐらいはカバー出来るんじゃ無いかと思うから、もっと頑張って慣れないとだね。


・・・もしかしてこれは、起動出来るようになってから実用レベルになるまでにかなり頑張らなきゃいけないタイプの術かな?


「人間を探す術として設計されていると思うから、何度か私か碧を対象として探すのをやってみて、コツが掴めたらその迷子猫を対象に術を放ってみたら?

ちなみに、猫を対象に起動できそう?」

人間用の術を猫に使えるのかは重要なポイントだよね。

黒魔術はそれなりに知性があればネズミや猫が相手でも掛けられる術が多いが、風の術はどうなんだろう?

迷子探しの術が何を元に人を探しているのかも微妙に不明だし。


「ちょっとじゃあ、外で凛さんを対象に術を掛けて良い?」

蓮君が聞いてきた。


「良いよ。

取り敢えず退魔協会の敷地の庭部分でやってみようか?」

あそこだったら野良猫も居るかもだし。

いたらそっちも対象にして試してみたら、蓮君の家の周りで術を使った時の参考になるだろう。


私たちの家のそばだったら源之助をターゲットにして試せばいいが、確か以前ちらっと聞いた話ではそれなりに離れている所に住んでいる筈。


「頼む!」

との事だったので、カラオケを精算し退魔協会の敷地へ。


「それじゃあ裏の方に行ってるね」

こう言う時に携帯があると打ち切る際の合図も素早くできて楽で良いよね〜。


『クルミ、どっか近くに猫はいないか、探してくれる?』

最近は戸建てでも猫は家猫にしている家が多いみたいだから、外を彷徨いている猫は野良猫だろうと思うけど、そうじゃ無い可能性もあるから『猫』ということで探してもらう。


・・・考えてみたら外にいる猫って指定しなかったけど、そこら辺は分かってくれてるよね??

それとも蓮君との話とかを無視していたなら駄目かな?


まあ、猫を見つけたと言われた際に確認すれば良いや。

退魔協会の裏にはそれなりに立派っぽい日本庭園があるのでそちらに行く。

日本庭園って花がなくても良いから冬でも綺麗だよね。

夏休みにイギリスへ遊びに行った友人がイングリッシュガーデンって良いわ〜〜!って言っていたけど、そう言うのはきっと冬だったら味気なさそう。

まあ、葉っぱの色とかが綺麗なのを選んで植えておけばそれなりに見応えあるのかもだけど。


最近は日本の夏って酷暑が多いから、緑を楽しむタイプの庭って夏も駄目になってる所も多そうだなぁ。

そう考えると石と松とかだけで良い日本庭園って便利だよね。

とは言え、松もあまり暑かったら枯れるかもだけど。

松って南国には生えていないイメージだから、温暖化が進みすぎたら本州から駆逐されちゃうかも?


どうなんだろ?


そんな事を考えつつフラフラ歩いていたら、クルミが帰ってきた。

『こっちにボスがいるにゃ』


ボス?

野良のボス的な存在なのか、単に名前がボスなのか。

どっちかな?


そんな事を考えながら敷地の端の方へ行く。

庭園部分から外れると止められるかも知れないから、いざとなったらそのボスを呼んでもらうかな〜なんて思っていたら、壁に行き当たってしまった。


え。

壁を越えた向こうとかまで行くのは無理なんだけど。

呼んだら来てくれるかな?

碧がチュールでも持ち歩いていたらそれで買収出来るかもだけど、源之助が家にいるのに態々持ち歩いているって事は無さそうだなぁ。


『こっちにゃ』

クルミに呼ばれて壁沿いに左へ進んだら物置みたいな場所があった。

おお。

どうやら壁を乗り越えた向こうじゃ無いみたい?

物置の鍵が掛かっていたら出てきてもらわきゃならないのに変わりはないけど。


が。

よく見たら物置の屋根の上から見下ろしている猫を発見。

「やっほ」


生きている猫だと意思の疎通って難しいんだよねぇ。

一度近くへ来てもらわないと迷子探しの術を使えないんだったら、クルミに接近を許すよう説得して貰わないとなんだが・・・取り敢えず、蓮君を呼ぶか。












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