第794話 便利な術は羨ましい
「迷子って・・・妹さん?弟さん?
携帯を持っていないの?」
今時の携帯だったらサイレントモードにでもしていて着信に気付かなくてもGPSで迷子を探せそうだし、携帯がなくても普通に本人が大人へ声を掛ければなんとかなりそうなもんだけど。
「いや、ウチの猫なんだ。
昨日うっかり妹が窓から逃しちゃって・・・。
帰ってこないから、何か風の術で迷子のペットを探す方法を教えてもらうか、それが出来る術師に依頼を出したいって言っているのに、退魔師をバカにするなって相手にもして貰えなかった」
悔しそうに受付の方を睨みながら蓮君が答えた。
ああ〜。
退魔協会の幹部だけでなく、受付も退魔師に関して意味もなく誇りを感じているからねぇ。
迷子なペット探しはやってくれなそう。
単なる職業でしかないのに、魔術師(退魔師も)やその周辺の人間って時々『自分たちは選ばれた存在だ』って勘違いするのがいるんだよねぇ。
確かに適性がないと退魔師にはなれないけど、音楽家やアスリートだって才能がなきゃなれないし、大工とかデザイナーとかだってそれなりに適性がないと食っていけるレベルでは仕事にならないんだから、ある程度以上の仕事をする為にはその職種に向いた適性が必要なのはどの職業だって同じだろうに。
受付にしたって、これが大富豪や政治家のペットだったら話は別だろうし。
結局、あれって単に弱者を見下して自分の自尊心を満足させているだけだ。
だが、それはともかく。
「ちなみに、蓮君が住んでいる家ってマンション?
マンションの窓から出ちゃったんだったら、2階以上なら猫の死霊を探す方が現実的だと思うけど・・・」
と言うか、戸建でも道に出た猫が車に轢かれて死んでいる可能性は高いだろうなぁ。
私に生きた猫を探すのは無理だけど、家の周りで新しい猫の霊が増えてないか聞き込みしてもいいよ?
まあ、死んだと確定させちゃうよりはどっかの家に入り込んでそこでのんびり家猫になっていると信じる方が、うっかり逃しちゃった妹さんにとっては良いかもだけど。
「うちは古い住宅街の奥にある戸建だから、まだ生きている可能性はそれなりに高い筈なんだ。だが近所の動物病院も、保健所も、清掃局にも連絡して聞いて回ったけどコムギはどこにも発見されていないみたいで。
何か無くしものを探す術って無いのかな?
折角風の能力があるんだから、術さえわかればなんとかなると思うんだけど」
髪の毛をかき乱しながら連君が言った。
妹さんだけじゃなくて蓮君も猫を大切にしていたのか、髪の毛がすっかりボサボサになっている。
「う〜ん、何か知ってる?」
碧の方が実家に何か術があるかも?
私が出来ることと言ったら近所のカラスか雀か野良猫の死霊に聞くぐらいだからなぁ。
最悪、それをやっても良いけどあまりそこまで口を出したく無い。
本人が術を学んで探したいと言うなら、それが一番だろう。
「蓮君って風系の術が得意なんだ?」
碧が確認っぽい口調で尋ねる。
そう言えば、兄貴の彼女の怜子さんも高木って苗字で風系の才能持ちなんだよねぇ。
別に適性が確実に一族で同じになる訳じゃあないけど、多く出てくる家系もあるからもしかしたら高木家って風の退魔師系の家系なのかも?
母親が一般人だから、退魔師の旧家出身な父親が結婚しようとしたら反対されて勘当だって言われたと言う話だけど、3人の子供のうち2人が才能持ちって中々適性出現確率が高いよね。
「ああ。
だけど退魔師としての基本的な技術程度しか教わっていないんだ。
通常の依頼とか生活で使わない術は追々って言っていたら交通事故で死んじゃって。
部屋の埃を掃除する術は知っているんだが迷子の猫を探す術は知らない」
蓮君が困った様に言う。
掃除用の術を教えて貰ったんだ〜。
実用的で良いねぇ。
奥さんには(母親にも)喜ばれる術だろうなぁ。
水系の適性持ちだと水洗いとか洗濯の術もあるんかな?
碧の実家の符のサンプルを漁ったらそう言うのも出てくるのかなぁ。
まあ、出てきたところで私には使えないし、今だったら普通に洗濯機を使えば良いんだけど。
寒村時代には凍えそうに冷たい水で洗濯・掃除をする羽目になっていた身としてはちょっと羨ましい。
やっぱ魔術師の才能は水系が一番だよねぇ。
風も情報収集とか涼むのとかには良いけど。
霊の使い魔を使うとか、死霊から情報収集するなら黒魔術系も十分実用性は高いけど、元主婦だった身からすると掃除洗濯に向いた能力は羨ましい。
原始的な寒村だと水汲みも大変だし。
もっとも、現代日本じゃあ家電が便利すぎるから黒魔術系の方がまだ使い道は多いかもだけど。
それはさておき。
「う〜ん、実家の倉庫を探せば色々と符があるからそれから学べるかも知れないけど、数百年分に記録を探し回る暇は無いだろうし、あまり使わない術関連は古い文字のままだから読みにくいんだよねぇ。
ちょっと北海道の方にいる風系の術師の従姉妹に連絡して聞いてみるね」
碧が携帯を取り出しながら言った。
猫探しの為か、随分と親身になってるね〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます