迷子猫

第793話 迷子探し?

「では、『自分を死に至らしめたのは谷口』と言った後はひたすら谷口氏の悪事を暴露し、実際にナイフを刺したのが誰かを再度尋ねたら『谷口のせいで自分は死んだ』と主張、更に詳しく正確な死亡時の状況を聞こうとしたら命令に抵抗して苦しみ始めたので依頼人がもう止めてくれと指示してきた為、それ以上は聞けずと言う事なのですね?」

こちらがメールで送った莉花さん召喚の詳細を、プリントアウトした紙らしきものを見ながら退魔協会の職員が確認してきた。


「ええ。

実際は本当の依頼人は谷口氏であろうと、法律上の合法的な依頼主は妹さんですから。

警察が見ている状況で依頼主の指示を無視するのは不味いでしょう?莉花さんの直接的な死因は谷口氏による暴力ではない可能性が高いとは思いましたが、それ以上は聞けませんでした」

碧が応じる。


今日は退魔協会に来て先日の莉花さん召喚について確認の為の聞き取りが行われている。

メールで詳細を送ったんだから後は質問があるならメールなり電話なりで良いじゃないかとも思うのだが、退魔協会としては本来の依頼主である谷口の希望に添える様な結果が出てこなかっただけに、出来る事はやってますと言うアピールが必要なのだろう。


無理やり死んだ時の状況を詳しく聞こうとしたら莉花さんが抵抗して苦しんだから、それ以上やるなと妹さんが指示したので止めざるを得なかったと言うのが刑事さんと妹さんと私たちで口裏を合わせた筋書きだ。

死に至らしめたと言うセリフがあるけど詳しい状況を話さなかったので、谷口が実際に手を下した可能性は低いが確実に他殺偽装の自殺とも言い切れないと言った警察もお手上げな曖昧さを残すのに丁度いい塩梅だろう。


はぁぁ。

職員が深く溜め息を吐いた。

「谷口氏は退魔協会が冤罪に手を貸しているって激怒しているんですよ・・・」

まあ、谷口にしてみれば実際のところ莉花さんは殺していないんだから冤罪に見えるだろうねぇ。

とは言え、絶対に起訴されないんだから冤罪!って叫ぶのはまだ早い。

単に面白おかしく容疑を書き立てられて風評被害が凄いことになり、それに気を取られている間に他の悪事で立件されるだけで。


「被害者は多分自殺してまでして谷口の悪事を暴こうとしているんですから、無理に彼の無罪を証明しようとしたら今度は悪霊化して祟り殺そうとするかもですよ?

警察も莉花さんの殺人で逮捕するのは諦めて他の犯罪に関して集中している様ですから、退魔協会は彼から手を引いておくのが一番では?

莉花さんが集めた証拠を我々も現場で見ましたが、当局側の賄賂の受け取りや恐喝用の情報なども色々とあったので、いくら有力な政治家でも過去の悪事に関して無罪放免は難しいでしょう。

それよりも彼の悪事に加担していたり便宜を図ってもらう代わりに悪事を見ぬふりをした人間たちが一斉に彼と共に起訴される可能性が高いので、もしも協会の人間が谷口からお金を受け取っているならそれが完璧に合法であることを確認しておく方が無難でしょうね」

お得意様だとしても、退魔協会が谷口の為に行動しようとすると一緒に泥沼に嵌ることになりそうだよ?

退魔師全体がメディアに出ることを嫌う傾向が強いことを考えると、下手に退魔協会が巻き込まれたら誰かが責任を問われることになりそうだ。


「・・・そうですか。

では、しようがありませんね」

どうやら谷口を守りそうな人物の泥まで提供されているとは聞いていなかったのか、職員の顔が引き攣った。


おやぁ?

もしかして、退魔協会も後ろ暗いことを谷口とやっていたのかな?

ざっと見た情報では気付かなかったけど。


取り敢えず、もうそろそろ解放して貰えそうかな?


◆◆◆◆


「だから、依頼を出すって言っているだろ!」

顔色の悪くなった職員と別れて碧と私が受付に戻ってきたら、何やら聞き覚えのある声が怒鳴っていた。


あれ?

高木蓮君じゃん。

なんで退魔師側の彼が依頼を出すんだ?


「ちょっと彼の話を聞いていい?

なんか知り合いが困っているっぽいから」

碧に声を掛けて受け付けの前で頭を抱えている蓮君の所へ行った。


「お久しぶり。

どうしたの?」


蓮君が顔を上げた。

「ああ、お久しぶり。

・・・ねえ、もしかして迷子探しの術とか、知らないかな?」


迷子探し??




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