第791話 やっちゃえ!

取り敢えず、刑事さんの指を休ませる為にも莉花さんが言っていた箱を漁ってUSBドライブを探してみたら、言われた通りに出てきた。

ついでに遺書らしきものも。


まあ、『全て妹の麗花に残します。後始末を押し付けちゃってごめんね』と言う単純なもので、あっても無くてもあまり変わらない気がしたが。

家の奥にあったデスクトップ型PCのログインIDとパスワードを霊に教わり立ち上げてUSBドライブを差し込み、中身を確認したらかなり詳細に谷口に関しての悪事が記載されていた。

別のフォルダに自分の財産とかオンラインアカウントのパスワードとかも載っていたが・・・これって警察にUSBドライブを持っていかれたら困らない?


「ちなみにこの部屋の中の物とかもう麗花さんが相続して使えるんですか?」

刑事さんに尋ねる。


「まあ、そうですが・・・事件現場なので後数日はここへの立ち入りは禁止されると思いますよ」


ふむ。

でも、数日で戻るのか。

「このドライブって警察に提出するんですよね?

だったら中身をPCの方にコピーしておきます?

遺産相続して莉花さんの口座を閉めたり詳細を確認したりするのに必要なのでは?」

妹さんに聞いておく。


「・・・そうですね、お願いします」

ちょっと呆然とした顔でPCを覗き込んでいた妹さんが頷いたので、データをコピーしてUSBドライブを刑事さんに渡した。


「この情報で谷口氏の自宅を捜索できますか?」

「・・・そうですね、殺人事件の容疑者でもありますし、動機に繋がる情報が出てきたとなったらそれの裏付けは必要ですから、家宅捜索の令状も直ぐに出るでしょう」

刑事さんが頷いた。


「ちなみに、そう言った手続きをする際に、被害者の霊を呼び出して情報を得たって言うんですか?」

裁判で霊の言動に証言能力は無いが、捜査令状の要請には書き込むのかな?


「いえ、そう言う場合でも他の情報を根拠理由にします」


そっか。

ならば。

「莉花さん。

谷口が貴女の死の原因だって言うのは分かったけど、物理的にナイフを刺したのは彼だったの?」

莉花さんの霊の方へ振り返り、違和感を感じていた部分を確認する。


『死に至らしめた』って変な言い回しだし、どう考えても自分が殺したんだったら退魔協会に霊の召喚を依頼したのはおかしい。


『・・・あいつのせいで私は死んだの』

ぐぐっと霊から抵抗を感じる。


動物の霊とかって基本的に素直なんだけど、人間の霊って『真実を語れ』って制限をつけなきゃ嘘をつくし、制限をつけてもそれを迂回しようとするんだよねぇ。


「私の質問に答えて」


『・・・ナイフを刺したのは私よ!

そうでもしないと、あいつを殺人罪で裁く事が出来ないじゃない!!

何か電話が掛かってきて慌てて帰っていったから、やっと証拠が色々と揃ったところだったし丁度いい機会だったのよ!』

苛立ったように手を振り上げて莉花さんが答えた。


「姉さん?!」

妹さんが悲鳴のような声をあげた。


あ〜、やっぱそうかぁ。

キリスト教なんかだと自殺は神に逆らう罪って事でかなりハードルが高いらしいけど、日本人って切腹が名誉を保つ為の手段として存在した歴史のせいか、自殺も手段の一つとして意外と普通に思いついちゃうっぽいなぁ。


それでも親にしてみれば自分たちが殺された上に娘の一人がそれを引き摺って敵の情報を探る為にそいつの愛人になり、最終的に自殺までしたなんて事になったら恨んでも恨みきれないぐらい、辛いだろうに。


はっきり言って、親からすれば谷口が裁かれる事よりも、娘達が幸せになることの方が遥かに重要だっただろう。

それこそクソッタレな親だったら仇を取ってもらう方が子供の幸せよりも重要かも知れないが、そんな誠実すぎて邪魔になって殺されるような人だったら絶対子供の幸せの方が重要だと言う筈だ。


まあ、今それを死んじゃった莉花さんに言った所でしょうがないけど。


なんかねぇ。

命を賭けて親の仇を嵌めようとしたんだから成功させてあげたい気もしたけど、流石に霊に騙されましたって嘘の情報で裁判までいかせる訳にはいかないからねぇ。

それこそナイフ傷にしても本人が刺したのと成人男性に正面から刺されたのでは角度とか力とかに違いがあるだろう。谷口の衣類に血が付いていないのもマイナス要因だろうし。もしもこの召喚での結果に納得がいかないって谷口が主張して別の退魔師にもう一度召喚させて『誰がナイフを手に持って刺したのか?』と尋ねさせたらばれちゃうからね。


嘘がそのまま通る可能性が低いとなると、私の信用性を落とすような失敗は看過出来ないんだ。

ごめんね。


でも、政治家みたいな権力も金もある相手が容疑者だったら多分傷口の鑑定とかも一流の専門家とかを必要とあったら海外から呼び出してでも調べさせるだろうから、被害者による冤罪は難しかったと思ううよ?


だが一応殺人事件の名目で証拠の確認って名目で谷口の自宅も家宅捜査してくれるだろうから、狙いはある程度以上は果たせるでしょう。


「・・・命を犠牲にしてまでも汚い政治家の罪を暴いたのですから、被害者の想いを汲んで最大限の捜査と追及はして貰えますよね?」

刑事さんの方を見て尋ねる。


「ええ。

政治家に買収されている司法側の人間を排除できる良い機会ですから。

握りつぶしたら命を賭けて告発しようとした被害者の霊に祟られる可能性があると言って聞かせて、皆で精一杯正義を全うするよう念を押しておきますね」

にっこりと良い笑顔で刑事さんおっさんが応じた。









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