第790話 計画的?
案内された高級マンションのエレベーターには防犯カメラがついていた。
これだったら政治家が慌てて出て行った様子もしっかり証拠に残ってそうだね。
しかも入り口はオートロックなんだし、いくら政治家が慌てて出て行って玄関の鍵を閉めなかったとしても、空き巣狙いな人間が偶然入り込んで被害者と揉み合いになって殺してしまったって言うのは無理があるんじゃない??
確かにオートロックだって人が出入りするのを見張っていれば開いたところをすいっと入り込めるけど、入ってもマンションの中で玄関の鍵を閉めていない家を探し回るのは至難の技だろうに。
片っ端から人んちの玄関を開けようと試すにしても、被害者の部屋は比較的真ん中の方だから直ぐに行き当たる部屋じゃあ無い。
内廊下だから政治家が出てきた所を外から見えていた訳でも無いんだし。
そんな事を考えながら被害者の部屋へと案内される。
床に残る赤黒い染みが生々しい。
これだけの量の血痕なんて、前世では時々見たけど今世は初かも?
「姉さん・・・」
妹さんが顔を歪めながら部屋を見回す。
考えてみたら、被害者が住んでいた部屋だから警察が捜査を終えたらここの清掃とか中の物の処分とか、妹さんがしなくちゃならないんだろうなぁ。
前世だったら体液系の汚れを綺麗に清掃してくれる魔道具があったけど、今の日本だったらどうするんだろ?
警察とかがそう言う系の清掃の専門家とかを教えてくれるのかな?
「では、始めます」
一応何かの弾みに激昂した霊が悪霊化して襲ってくる事を考えて、碧が保護結界を刑事さんと妹さんの周りに展開した。
まあ、私が召喚した霊のコントロールを失うなんてことは無いとは思うけど。でも何事も初めてって言うのはあるかも知れないからね。
霊への防御力が実質ゼロな只人が一緒にいる場合はきっちり安全策を講じておくべきでしょう。
下手に怪我とかトラウマとかが残ったら損害賠償請求されそうだ。
・・・されるのかな?
危険性がある事をやるんだから、免責条項に前もって署名してもらうのが常識的な流れな気がするけど。
まあ、もしかしたら退魔協会は免責されるけど術師側は訴えられる様な書類になっている可能性もゼロじゃ無いからねぇ。
碧に首輪を付けられるなら、態と穴のある契約書を作るぐらいやりかねないと密かに思っているのは退魔協会へ不信感を抱きすぎかな?
どちらにせよ。
万全を期せば良いだけだ。
「杉原 莉花さん。
こちらに来て、真実を語って下さい」
実際には魔法陣を脳裏に描いて魔力を通すだけなんで、言葉は必要ないんだけどね。
でもまあ相手を特定するのと嘘をつくなと言うのを明示した方が無難だから、決まり文句(らしい)を唱えて召喚の術を起動する。
魔力を込めて魔法陣を通して呼びかけたら、まだ死んだばかりなせいか比較的そばに霊がいて直ぐに現れた。
『あら。
麗花まで、どうしたの?』
被害者がのんびりと妹さんに声をかけた。
「莉花さん。
貴女は殺されたのですが、犯人が誰かと、どう言う状況で殺されたかとを教えてもらえますか?」
ここで妹との『最後の会話』に突入されても面倒なので、さっさと口を挟む。
『私・・・死んだのね?
そうよ、私は死んだんだわ!!
私を死に至らしめたのは、谷口雄介よ!!』
何やらドラマチックかつ妙に嬉しげに莉花さんの霊が言った。
うう〜ん?
なんか違和感があるんだけど、なんだろ?
「姉さん・・・!
だからあんな男の愛人になんかなるなって言ったのに!!
父さん達を殺した証拠を見つけるなんて言っていたのに、姉さんが殺されたんじゃあ意味ないじゃない!!」
妹さんが泣きながら叫んだ。
はぁぁ?!
両親を殺した??
「え〜と、どうしてその谷口が貴女を殺したのか、教えて下さい」
両親を殺させたと疑ってそれを調べる為に近づいたって言うなら、都合が悪い証拠を見つけて口封じに殺されたって事なんだろうね。
一気に動機が現れた訳だ。
『谷口の裏帳簿はあいつの自宅の2階の書斎にある机の鍵がついた一番下の引き出しが二重底になっていて、そこに他の書類と一緒に入っているわ。
父さんが死んだ時期に、西田組の北浦への支払いが書いてあるわよ。
北浦に酒をたっぷり飲ませて聞いたら、バカな正義感をかざす地方議員の車を谷口に頼まれて衝突事故に見せかけて崖から落として殺したってベットの中で教えてくれた。
他にも・・・』
莉花さんの霊はどんどんと聞いてもいないのに依頼人の悪事をガンガン暴露しまくり、ついでに買収してある警察や検事の名前まで明かし始めた。
凄い入念に調べたんだね。
私は呆気に取られて見ているだけだったが、霊の言葉はICレコーダーに残らないと教えてあった刑事の方は必死になって莉花さんの言葉を書き留めている。
もしかして、目撃者とかの話を止めずに書き留められるように速記でも習ったのかね?
一応メモが追い付いているようだが、全部書き切れていなかったらどうするのか、ちょっと気になる。
「ちなみに、今言ったことってどこかに記録して残して無いの?」
莉花さんが止まった所で聞いてみた。
霊だから息継ぎの為に止まるって事がないんで、全部言いたい事を言い終わるまで只管続くんで中々長かった。
自分の親を殺した相手を調べていたのだ。
自分も殺される可能性も考えて二重三重にも調べた情報は残してありそうなものだが。
『ああ、そこの箱に入ってあるUSBドライブに入っているわ。
あと、オンラインのメールアカウントを1ヶ月以内にアクセスしなければ送信予約してあるメールが一斉に谷口の政敵や週刊誌に送り付けられるようにしてあるの。
そこの箱にオンラインアカウントの詳細とパスワードのリストも入っているから、ちゃんと谷口が裁かれそうだったらメールを止めて良いわよ。
盗み出せた書類は駅前の銀行の金庫に預けてあるから、相続人として妹に出して貰らって』
あっさりと莉花さんが言った。
ふむ。
「ここまで色々と調べてあったのに、何故告発するのではなく本人に直接言ったの?
それで殺されたのよね?」
被害者が意図していないタイミングでバレたんだったら政治家なのだ。
自分で殺して慌てて出ていくのではなく、それこそ莉花さんの両親を殺したみたいに暴力団に金を払って済ませただろう。
つまり、今回の事件は本人に集めた証拠を突き付けたから起きたと思われる。
それって・・・馬鹿みたいでしょう。
自白する事を期待してたの?
『私が知らない検事や裁判官を金で買収していたら、これでも足りないかも知れないじゃ無い。
第一、一番証拠として強いのは裏帳簿でしょう。
あれはあいつの家にあるのを警察の捜査で見つけて貰わなきゃ!』
はい?
なんかこう、殺されたのも計画の一部って感じだね。
もしかして、貰ったナイフを目につく所に置いておいて、態と殺されるように誘導した??
いや、でもその『殺人犯』が霊の召喚を依頼するよう手配したんだよね?
おかしく無い??
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こないだ書いた短編に続きを少し足しました。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678
子爵家三男だけど王位継承権持ってます(仮)
説明調なタイトルを付けてみましたけど、どうですかね?
もう少し続けようと思っていますが、カクヨム短編賞は1万字までなのでそれが終わってからになります。
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