第788話 証言能力
「週刊誌には色々と書かれてるけど、依頼人は世襲政治家の中では比較的無難な人物っぽい?」
依頼してきた政治家をネットでさらっと検索したら、今回の殺人事件に関して色々と書かれているが、それ以外はどこそこの選挙で当選したって言うのが数年毎に出てくる他はナンチャラ委員会に参加したとか、ウンタラ勉強会に出席したとか、どっかの講演会でスピーチをしたとか言った感じの無難な情報しか出てこなかった。
「甘い!
世襲政治家なんて、親の面子にも関わるから本人どころか家族や使用人の問題行動も全部徹底的に揉み消しているわよ。
ある意味、情報があっても出版しちゃいけない相手としてメディアの人間だったら色々知っているかもだけど・・・そう言う知り合いは私達には居ないからねぇ。
もっと深く関わるなら両親に頼めば調べてもらえると思うけど・・・まあ、今回はそこまでしなくても良いかな?」
碧が一口サイズに割ったお煎餅をこちらに振り回しながら言った。
源之助が煎餅を横取りしようと猫パンチを披露してくれるが、碧は器用にそれを避けて自分の口に煎餅の欠片を放り込んだ。
「やっぱそう言うもんなの?
新聞とかで、若手政治家や重鎮政治家の秘書として働いている政治家の子が色々とアホなことをやっているのがちょくちょく報道されているから、最近はそう言う揉み消しが緩くなったのかと思ってた」
だって、普通だったら絶対にやらないようなアホな行動を政治家がやるなんて、自殺行為じゃ無いの??
内閣改造がある度に新しく閣僚になった政治家の何人かが不祥事で数ヶ月以内に失脚してるし。
あんなのが報道されている時点で、現代の政治家に揉み消しをする能力がないか諦めているかなんじゃないかと思っていたのだが。
「ああ言うのは野党の有力者や、与党内の別派閥の人間が足を引っ張る為にそれとなく情報を流して報道するように誘導しているのよ。
世襲政治家みたいな権力に近い家系に生まれたら、基本的に傲慢なアホに育っているから色々と表に出しちゃあ不味いような事を絶対にやってるわよ!」
碧が何やら確信を持って言い切った。
やっぱ古い家だと、世襲政治家とは色々有り難く無い縁でも出来るんかね?
「こう、先祖代々政治家でも、民に為に尽くすなんて人も少しは居るんじゃないの?」
昔読んだ話だと、徳川家ゆかりの旧家の躾はすごい厳しいらしい。自分を律して立派に生きるような心がけを求められていると書いてあった記憶がある。
まあ、何かの記事用に特集としてインタビューへ応じる際に自分の家の恥を晒す人間は居ないだろうが。でも『恥を晒さない』のと何やら立派な感じに『自己を律する』生活に関して語るのはイコールでは無いから、本当に立派な旧家と言うのも少数ながらも存在するんじゃ無いかな?
・・・存在すると思いたい。
「甘いわよ、凛。
金持ちな旧家が先祖代々の資産をしっかり管理して、目減りしないように維持した上で毎年ある程度の資金を寄付したりする慈善家として活動するって言うのならまだしも、国政に関わるような政治家は理想だけじゃあ当選できないんだから。
あんなの、妥協と取引やってなんぼなのよ。
ちょっとチョンボをかますぐらいの可愛げがあるならまだしも、何も出てこないって事はかなりきっちり情報管理していて、それだけの事をする必要があるって事なんだと思うわ」
碧が言った。
そっかぁ。
まあ、前世でも『立派』と見做される貴族でもそれなりに人間としてどうかと思うような趣味がある人物も多かったからなぁ。
ある意味、『善い人』は貴族として無能だったことの方が多い気がする。
領地の住民はまだしも、家族はドレスのやりくりとか結婚相手を見つける事とかに苦労して、結局お金を支援してくれる成金貴族や豪商と縁を結ぶ羽目になっている事も多かった。
権力者には冷徹さも必要だし、ある意味金に汚くないとそれに流される他の人間の行動原理が理解できなくて失敗するのかも?
今の日本だったら賄賂とかが違法だから、そこまで極端に失敗し易くないかもだが。
それでも気をつけないと他国に情報を抜かれたり企業秘密を盗まれたりしかねないのだ。
極端に政治家へ善性を求めるべきでは無いのかもね。
それでも殺人はダメだけど。
と言うか、殺す相手と理由次第では殺人だって世のためになるって場合もある気はするが、現代日本で殺人が違法であるのだから、人の上に立つ人間がそれをやっちゃあ駄目だ。
「まあ、今回はその政治家とは直接会わないからね〜。
なんで死んだのか聞く分には政治家の倫理観は関係ないし、あっさり終わるでしょう。
ある意味、そいつに会わない方が凛が危険な正義感を感じで悪事を暴かなきゃ!なんて感じなくて良いかも」
そうなんだよねぇ。
悪事をやっているのを知ったからって、それを暴かなきゃいけない義務は無いし、物的証拠が無ければ悪事を告発したところで言い掛かりでしか無い。
下手をしたら名誉毀損で訴えられかねないんだから、迂闊な事はできない。
死霊の言葉に証言能力はないからねぇ。
カルマへの影響と自分の精神的安寧は微妙だけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます