第785話 監督責任はどうなった?!

「合計ウン億円もの裏金を作っていたくせに、ボス5人は誰一人として議員辞任すらしないってマジ〜!?」

ニュースを見て思わずぼすっとクッションを殴ってしまった。


「ああ、パーティで集めたお金の還流問題?

安倍氏がトップになった時に止めようって話があって、彼が死んだ後に戻したんだから話し合いをした筈なのに、全部会計係がやったから全く知らなかったなんて『嘘つくな!』って感じだよね。

第一、知らなかったにしても監督責任とか任命責任とかをなんだと思っているんだか」

碧が溜め息を吐きながら合意した。


「政治資金の会計処理が間違っていたら共謀を証明できなくても監督責任として最低でも公職を辞めなければいけないって感じに法律を変えて欲しいね。

会社だって会計処理で重大な不正があったら上の経営陣が責任を取るのに、政治家だけこうも緩く許されるのってマジで許し難い。

ある意味、どうせ政治家を暗殺するんだったらこう言う『秘書がやりました』とか『会計係から聞いていませんでした』とか言う厚顔無恥な政治家を襲えば良いのに」

別に政治家を暗殺すべきとは言わないけどさ。


しっかし、腹が立つ。

権力者だけが罰せられずに美味しい思いをするのは何処の世界でも同じなんだね。

まあ、前世の様に平民は踏み躙り放題に近い世界よりはマシだけど。

日本だって江戸時代は状況次第で斬り捨て御免が出来ちゃったし、明治になっても参政権は一部の金持ちな男性にしか認められなかったんだから、今は少なくとも建前上は大分と良くなったとは言えるが。


欧米だって成人した市民全員に参政権が認められたのは意外と後だ。

女性の参政権が認められたのは戦争で兵士が死にまくって女性も働きに出る様になった第1次世界大戦後だし、アメリカで黒人の扱いを平等にする法律が制定されたのはなんと1960年代。

第二次世界大戦時代はまだ黒人はアメリカでは下級市民扱いだった様だ。


人道的な事をやってる先進国です〜って顔をしているが、あっちでも人種や性別であっさり区別していたんだから、ある意味誰でも平等に国の運営へ口出しできる状態というのは人間社会でも新しい取り組みと言っても良いのかも。



「これってさぁ、凛みたいな術者が検察の捜査に同行して、共謀していたか正直に自白する様に出来ないの?」

碧が聞いてきた。


「そっちは危険な道なんだよねぇ。

結局、能力を使って嘘を言わせないとか、隠したい事を無理矢理自白させるのって、やり方次第では嘘の自白を強要出来ちゃうし、もっと酷い場合は黒幕の記憶を消して都合がいい嘘の記憶を埋め込む事とかも出来ちゃうから。

それを防ぐには更に別の術者に当局と協力する術者を見張らせなきゃいけないし、2人の術者を抱き込めたら冤罪やり放題だったら怖いし。

記憶を弄られて自分の無罪を主張できないレベルでの冤罪なんて、怖過ぎるでしょ?

ある意味、黒魔術師を治安当局に隷属させて買収や個人的に好悪による贔屓が不可能なぐらいギチギチに制約魔術で縛っておかないと、人を裁くのに黒魔術師を使うのは難しいんだよねぇ。

だけど流石に『正義の為』に罪も犯していない黒魔術師を当局に隷属させるっていうのは問題があるでしょ?」

だからこそ、法律を変えて共謀なんぞ無くても監督責任で政治家を裁けるようにしないとダメなのだ。


「そっかぁ。

なんかこう、今の世の中って昔より良くなっている筈なんだけど、あちこちで泥沼な内戦や侵略戦争をしているし、アメリカは信じられないような図々しい主張をする政治家未満な男が次の大統領選挙でまた良いとこまでいっちゃいそうだし。

切ないねぇ」

碧が源之助の頬っぺたをぷにぷに押しながら言った。


「まあ、江戸時代なんかは幕府が意図的に藩の力を削ぐために色々と出費を強いていたせいで何処もかしこも貧乏で、米の収穫がちょっと悪かったりしたらバタバタ人が餓死していたらしいから、そう言う時代に比べれば現代の政治家の悪事なんて人の生死って面から見たら可愛いレベルなんじゃない?」

裏金とか賄賂とかは直接的に誰かの命に関わるような話では無いからね。


前世だったら権力者の悪行って言ったら目障りな人間を殺していたとか襲わせていたとかってレベルだったから、まだ日本の悪行は実害はないと言って良いだろう。

ムカつくけど。


ここで黒魔術師が表に出て政治家を正直にさせよう!なんて提案する方が危険だ。

隷属系の術がどの程度この世界にあるかは知らないが、政治家に術者を隷属させて便利に利用するのでなく、権力者を裁く方に利用される様になったら黒魔術師がザクザク暗殺されそう。

隷属も暗殺も出来れば遠慮したい。


「アメリカの大統領選挙の行方次第では下手したらあのアホが勝って核戦争を始めそうな気もしないでもないけど。

そう考えると、あまり頑張ってお金を貯めても意味がないかもね〜」

碧が溜め息を吐いた。


「もしも核戦争が始まったら白龍さまにウチらでも生きていけるレベルの世界へ境界門を開いて貰って逃げられないか、要相談だね」

白龍さまが、狙った世界へ境界門を開けるかが問題だ。

多分、現時点でそう言う都合がいい世界への境界門は開いていないだろうから、意図して狙った所へと開けないと詰んでる事になる。


幻想界は魔素が濃すぎるからねぇ。

こないだの人魚の先祖返りならまだしも、私らでは生きられないだろう。

・・・それとも、別の世界への境界門へ直行する短期間だったら何とかなるのかね?


『さての。

試した事が無いし、下手にやって失敗すると一帯が吹き飛ぶかも知れんからのう。

まあ、核戦争とやらになったらやってみよう』

白龍さまがひょいっと現れて言った。


そっかぁ。

白龍さまも知らないんかぁ。

まあ、境界門を開こうとしてうっかり異世界と地球を直接繋いだりしたら、それこそダンジョンが発生して魔物が出てくるラノベみたいな展開になりかねないもんねぇ。


試さなきゃいけないような状況にならない事を祈っておこう。

誰に祈るかちょっと不明だけど。





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