第784話 スマートウォッチ

「お!

5000歩行ってる!」

私たちのマンションに着いてスマホを確認した私は思わず喜びの声を上げた。


「それ、まだ続いていたんだ?」

碧がこちらを向いて言った。


「そ〜。

ただ、やっぱ携帯を1日中ポケットに入れて持ち歩くのは面倒だからネットで安売りしてたスマートウォッチを買ったんだ。

微妙に信頼性に欠ける気がするけど、まあある程度は現実に歩いているしポイントが貯まるから、良いとしてる」

意外と今回買ったスマートウォッチは手首にきっちり付けてるせいで痒いとか不快って感じじゃあないんだよね。

冬だから汗が気にならないだけと言う可能性もあるけど。


「信頼性に欠けるって?」

碧が私のスマートウォッチを覗き込みながら聞いてきた。


「スマホに入っているググルフィットって言うアプリが携帯端末本体の機能を使って歩数を数えられて、これを連携させてもう二つ程健康アプリにデータを共有してポイントを貯めてるんだけど、ググルフィット自体もスマートウォッチのアプリとも連携しているもののちょっと連動に遅れが出るの。

だから携帯本体で数えている歩数とスマートウォッチの歩数との違いを確認できるんだけど・・・ポケットに携帯を入れて実際に歩いていると、スマートウォッチ側の歩数が妙に少ない事があるの」

不思議なもんだよねぇ。

スマートウォッチの方が歩数を測るための専用の道具だろうに、信頼性が低いなんて。

安物なだけはあるのかな?


「家の中で動き回る時だけスマートウォッチのデータを使って、外での動きは携帯のデータを使うって訳にいかないの?」

碧が提案してくる。


「それが出来たら良いんだけど、残念ながら1分か2分するとスマートウォッチの方のデータで携帯の方が上書きされちゃうんだよね。

お陰で携帯の方では5000歩以上も歩いていたのに、見直したら3500歩に減ってたりして買って直ぐは色々とイラつく羽目になったのよ〜」

隣の駅まで500歩なんてあり得るか!!!って思わず路上で怒鳴り散らかしたくなったもんねぇ。


「それは凄いね」


「何故か、腕を振って歩くと体の移動とウォッチの動きが変にキャンセルしちゃうのか、スマートウォッチの歩数がスマホ本体より少なくなるんだよねぇ。

腕を振らないでポケットに手を入れて歩くとほぼ違いが出ないんで、気のせいではない筈。

まあ、1000歩が800歩になる程度なんだけど」

それでもうざい事に変わりはない。


「腕を振って歩いちゃいけないなんて腕時計の形にしている意味がなくない?」

苦笑しながら碧が聞き返してきた。


「でしょ〜?

だから足首に巻いてみたんだけど、そうすると今度は歩数がめっちゃ少なくなってびっくりした。1000歩ぐらい歩いた筈なのに300歩だった時は愕然としたね。

だから諦めて今は腕を振らないで歩く様にしてる」

マジで家の中にいる時だけスマートウォッチの歩数を使って、外では携帯本体の歩数を優先って言う風に出来れば良いんだけどねぇ。

外を歩く時はスマートウォッチをバッグにでも入れるって手もあるんだけど、体温や心拍数も測っているからそっちのデータが消えるのは勿体無い気がするし。


「なんかこう、スマートウォッチとしての本分から大幅と乖離してない??」


「まあ、密林サイトで買った中国製の安物だからねぇ。

二万円とかする様な高級品だったら多分どんな使い方をしても正確に歩数を測ってくれるんだろうけど、三千円で歩数だけでなく心拍数とか体温とか睡眠時間とかを計測してくれるんで、文句は言っちゃいけないかな。

今だったら寒いから上着の前を抑えて歩くのも不自然じゃないし」

とは言え、睡眠時間もそれほど正確に測っている訳じゃあないんだけどね。

参考程度かな?


体温もかなりいい加減だし。

心拍数は運動した時とかに増えているし、寝付いた時間ぐらいから減って起きた時に早くなる感じなんでそこそこ正確っぽいけど。


「なんか、中国製って聞くと色々データが抜かれてそうでちょっと怖いね」

碧が微妙に顔を顰めながら言った。


「そ〜。GPSをオンにしないとちょくちょく『GPSに常時アクセス出来ないと完全な機能を発揮出来ないからオンにして良いですか』みたいなメッセージが出るし、メールやメッセージアプリにもアクセスするし、機能が良いのは通話すら出来ちゃうからねぇ。

これで中国に暮らしていたら、マジでAIを使って日常会話をキーワード検索的に盗聴されて必要に応じてGPSで何処に行っているのかとか誰か政府が監視している人物や建物に近付いていないかとかモニターしてそうで怖いね。

日本で暮らしている分にはまあ実害はないかなと思ってるけど。

でも、もしも海外旅行に行くとなったら家に置いて行くかな」

スマートウォッチの情報を元に海外で誘拐されたりしたら嫌過ぎる。


つうか、中国製が安売り価格攻勢で他の国の低価格帯メーカーをほぼ駆逐しちゃっているスマートウォッチって、それだけ中国政府が補助を出したりして普及させているって事でしょ?

中国製だったらメーカーの元に集まる情報を中国政府が全て入手する権利がある事を考えると、経済的な発展よりも政治的な意図で後押ししてるんじゃ無いかなんて疑えてしまう。


昔に日本製が家電マーケットを席巻した時にもアメリカ人が似た様な事を感じたかも知れないけど、その頃はまだ家電から抜き取れる情報なんて皆無に近かっただろう。

ハイテクでIoTな今の時代に、家電もスマートウォッチも手頃な値段なのを買おうとすると大多数が中国製なのってちょっと怖い。


しかもあの国って自国民も潜在的に敵対的管理対象っぽいからねぇ。


そう言うのを考えると、マジで日本に生まれて良かったと思う。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る