第780話 完了

「取り敢えず。

退魔協会に連絡しましょうか。

小学生で微妙に現実の把握に誤解があるかも知れませんが、やってはいけない行為を自分の能力使ってやっていたのは確実なので、それなりに罰を与えるとともに今後同じ様な行為を繰り返さない様に教えるなり封じるなりする必要があります」

敦也少年を理解する事は諦めて、依頼人と碧に提案した。


「そうだな。

弟の方にもすぐ帰ってくる様、電話をしておこう」

依頼人が頷いた。この人も、変な風に厨二病を拗らせているのか妄想の世界に住んでいるのかな男の子の扱い方は分からないようだ。

やっぱ女の子と男の子では行動原理が違うのかな?

本人が男なんだから、自分の少年時代を思い出して解明して欲しい気もするが。


どちらにせよ、考えてみたら退魔協会が正式に調査をして罰則を科したり能力を封印したりどっかへの弟子入りを勧めるにしても、対象者が小学生となったら親と話し合わなきゃ話にならないよね。


法的にもそうだし、本人の言動的にもちょっとこれは話し合っても不安が残るが。

転生モノのラノベなんかだと、前世の記憶がある主人公が6歳とか程度から色々と無茶苦茶に大活躍して産業を始めちゃったり村を大々的に発展させたりな内政系の話が多いから、情報過多な現代の12歳だったら小さな大人的な感じかと漠然と考えていたんだけどねぇ。


でも、考えていたらこれより1、2歳上だった兄貴が退魔師の血の事を聞いて『左目に封印された邪悪な力が〜』とか色々痛い発言をしていたらしいから、実はこの年代の子供ってそこまで大人じゃ無いんだね。


私は前世の記憶が覚醒したのが15歳だったから覚醒でそれ程意識が大人びた認識は無かったけど、これって子供の頃から前世の記憶があったりしたらどうなっていたんだろ?


身体に引き摺られて幼い思考していたら、ヤバかったかも??

もしくは一人だけ言動が大人っぽかったらマジで周囲から浮いていたか。


魔法社会だった前世では魔法とか戦いとかがそこまで珍しく無かったから子供でも無双な妄想をするなんて事はあまり無かったと思うけど。

12歳だったら魔術学院に通い始めていた頃の筈。

だからこの年齢でも魔力の扱いを身に付けて安全な使い方を教わるのは無理じゃあない筈なんだけどなぁ。


「何が起きたんだ?!」

退魔協会の職員に場所を鎌倉だと言ってなかったせいで、そっちの捕縛と調査担当よりも依頼人の弟さんの方が先に帰ってきた。


「敦也君に退魔師の才能があったようだ。

どうも北藤家の跡取りの問題で揉めていたのを聞いて能力の事を口にしたら暗殺されると思った上に、退魔師なら何をやっても良いのだと変な風に誤解したらしく、家庭教師や使用人の魂を生霊として取り出して陽菜の見守りに送りつけてきていてね。

陽菜がノイローゼになって倒れそうになったから退魔協会に対処を頼んだら敦也君の事が発覚した」

依頼人が父親の方へ説明した。


「え、陽菜ちゃんが倒れたの!?」

敦也少年が口を挟んできた。


「そりゃあ、本人にとっては悪霊に一日中睨みつけられている様な感覚だったんだもの。

普通の人だったら恐怖で精神病になりかねないでしょ」

碧があっさり答えた。


そう。

やったことの影響をしっかり認識して貰わないとね。


「あと、生霊にされた方の被害者も確認した方がいいでしょうね。

身体を離れていた間は意識不明の昏睡状態だった可能性が高いですから、身体が衰弱して今でも入院しているかも?」

もしかしたら夢遊病みたいな感じで機械的に動いていた可能性もあるが、どちらにせよ通常の日常生活は送れていなかった筈。


「そんな・・・」

父親が愕然とした顔で部屋を見回した。


「中途半端に退魔師と言う存在の知識があり、その権利や能力を過大評価していたせいで何をしても許されるかの判断が間違っていたので、急いで色々と教え込むか、もっと現実社会における善悪の判断がしっかりできるまで能力を封印する必要があるでしょう。

被害者への賠償問題もあるでしょうし。

もう直ぐ調査のために退魔協会の人間ともしかしたら当局の人間が来ますので、そちらと話し合って下さい」


考えてみたら、退魔師系の子供が罪を犯した場合ってどうするんだろ?

どっかの少年院みたいなところに一時的に入れるのかな?

退魔師の能力を悪用した場合だったら少年院はないから、そう言う役目を負う退魔師の家にでも一時的に押し込められるのかね?


マジでこの子にどの程度教え込んだら危険が無くなるのか分からないから、暫くは能力を封じるのが無難な気がするけど・・・そこら辺は退魔協会の職員がちゃんと対処するだろう。

能力を一時的に封じるって言うのもそれなりに難易度が高いんだけどね。


半分パニックになっている父親と依頼人が話し合っている間に碧が敦也少年と話していたら、やがて玄関に方で音がして家政婦さんが上がってきた。


「退魔協会の方がいらっしゃいました」

おや。

特に変な顔をしていないって事はこの人も退魔師の事を知っているみたいだね。


まあ、小学生の子供が『退魔師になれば北藤家の跡取り競争に勝って好きにできる』とか思い込む様な会話を大人がしているのだ。

北藤家の本家に退魔師がいる時代から勤めていなかったにしても、それなりに話は聞いているんだろうね。


流石に自分の雇い主の一族全部がありもしない伝説の技を信じる痛い人だとは思っていなかっただろう。

多分。


取り敢えずこれで私らの依頼は完了だね!



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