第778話 面倒そう

「加害者の確認は生霊が居なくても退魔協会側で調査できるから、こちらの生霊は解放しちゃって良いって。

加害者側は関与の確認が取れて退魔協会に連絡をしたら捕縛要員を直ぐに送るので、出来る事なら確認後も確保しておいて欲しいそうよ」

電話が終わり、リビングに戻って碧に伝える。


「じゃあ、こちらでの作業を終わらせて行きましょうか」

碧が頷き、結界を解除して生霊の方に近づいた。


調べたり諸々を私がやるので、生霊を返すのは碧が担当するって役割分担を決めておいたんだよね。


「そう言えば、敦也君の家の住所を教えていただけますか?」

碧が生霊を解放して戻してあげている間に依頼人へ頼む。


一応生霊経由で敦也少年へ細くリンクは繋げられたけど、それを辿いながら手探りで方向を確かめつつ行くのは大変だから普通に住所を教えてもらって最寄駅からタクシーにでも乗って行きたい。


「私が送るよ」

だが住所を教えてくれるのではなく、壁際の棚に置いてあるおしゃれな箱から車のキーを取り出しながら依頼人が言った。


ええ?

行く途中で碧と相談したい事があったから、依頼人に同行されるのはちょっと迷惑なんだけど。


「え、そんな手数はお掛けなくても住所さえ教えていただければ大丈夫ですよ?」

それとなく断ろうとしたら、依頼人に軽く鼻で笑われた。


「小学生の子供に突然赤の他人の大人二人が会えると思うのかね?

退魔協会からの人間だと言ったら跡取り騒動に巻き込まれて更に足止めを喰らうかも知れないぞ?」


おっと。

確かに小学生の相手に赤の他人が突然会うのは難しいか。

学校へ行ったところで会えないだろうし、通学中に声をかけても誘拐犯かショタ狙いな変態かと疑われかねない。


家を訪ねたところで、『お宅の息子さんが生霊を使ってストーカー行為をしてます』なんて言ったところでまともに対応してもらえないだろうし。


「そう言えばそうですね。

ではお願い致します」

生霊を還し終えて歩み寄ってきた碧があっさり合意した。


しょうがない。

相談は念話でするか。


「良かったらこれをベッド元に置いておくと眠りやすくなるかも?

ちょっとしたお守りなんだけど、変な夢を見ないで眠れるわよ」

部屋を出る前に、陽菜さんに不眠用のお守りを渡しておく。


生霊に付き纏われて窶れるほど眠れなかったんだったら、居なくなっても暫くは夢見が悪いだろう。

このお守りがあったら眠ろうと思ってベッドに入れば普通に眠れるから、体がしっかり休まる筈。

聖域産雑草の効果が切れる頃には今回の事件のことなど忘れているだろうし・・・ダメだったらお守りに一応販売元として連絡先が書いてあるからそれを見つけて連絡してくると期待しよう。


いや。

もしも見つけられなくて退魔協会経由で連絡されたら嫌だな。


「お守りの効果が薄れてきたなと思った時にまだ必要そうだと感じて新しいのが欲しかったら、お守りの中に連絡先が書いてあるからそこに連絡してね」

陽菜さんに言っておく。


お守り程度を売るのに退魔協会から文句を言われる謂れは無いが、下手に注意を引いて真似をされたりしたらウザいからね。

聖域産雑草がないと動力源の問題があるから聖域にアクセスがある術師以外は魔法陣を解明できても真似は出来ないとは思うが。


「ありがとうございました」

気休めだと思っているっぽいが、お守りを手に持って陽菜さんがお礼を言った。

最近眠れてなかっただろうからね〜。

そのお守りは効くから、さっさと寝たら良いよ。


「ではちょっと敦也君のところへ行っているから、陽菜は休んでいなさい」

依頼人が陽菜さんに優しく言い聞かせて寝室の方(多分)へ連れて行き、戻ってきた。


・・・母親はどうしたんだろ?

退魔師とのやり取りに出てくる必要は無いけど、問題を解決させる為に父親が出ている間に休んで寝なさいって言うならそこは母親が見守ってあげるとか話し相手になるぐらいの事はしても良いんじゃ無いの?

離婚か死別したのかな?

単に忙しくて居ないって言うんだったらちょっと陽菜さんが可哀想だが、プライベートな事だから聞くのは気が引ける。


まあ母親がどうであれ、依頼そのものに関してはどうでも良い事だ。

気にしないでおこう。


地下の駐車場から出てきた高級車に乗せられて高速を進みながら、暇つぶしも兼ねて敦也君と跡取り問題に関して依頼人に聞くことにした。


「敦也君に退魔師の才能があるとしたら、彼の両親は跡取りにさせる為に弟子入りさせようとすると思いますか?」

考えてみたら退魔師の家門で、退魔師か否かで跡取りを誰にするかを争っている家なら退魔師と言う職業が実在する事は敦也少年だって知っていた筈。

だとしたら、退魔師になりたいと思っているなら変なストーカー行為を始める前に親に言えば弟子入り出来たんじゃないかな。


それをしなかった敦也少年は何がしたかったのだろうか。

小学生だし、単に考えなしにストーカー行為を思う存分出来る様に才能を秘密にしていた可能性もそれなりにあるけど。


「だろうね。

弟はそれほど北藤家の跡取りになる事に意欲を見せていなかったが、直系の男児に才能が発現したとなったら退魔師になって家を継ぐべしと主張する人間が多いだろうし」

依頼人がウィンカーを出して追い越し車線に滑り込みながら言った。


かなり飛ばしてるんだけど、スピード違反で捕まったりしないでよ?


「本人の気質があまりにも問題がありそうでしたら当局もしくは退魔協会が能力の封印を決定する場合もありますが、それを弟さんが無理やり金や人脈で変えようとする可能性はどの程度ありそうでしょうか?」

碧が後部座席から尋ねる。


「・・・敦也君がそこまで歪んでいるとは思いたく無いが。

本人が退魔師になりたがらないと言うのならそれは認める可能性が高いが、外部の人間から気質が歪んでいて危険だからダメだと言われた場合はそんな歪みを認めずに抵抗する可能性は高いだろうな」

溜め息を吐きながら依頼人が言った。


ああ〜。

本家の跡継ぎとか遺産とかの話以前に、親としては自分の子供が退魔師になる事を危険視されるほど性格に問題があるとは認めたがらないか。


なんか話が複雑化しそうで面倒だなぁ・・・。







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