第777話 貴重な人材なんだ?

「もしもし?

長谷川です。

今受けている案件ですが、生霊から原因であると思われる加害者へ繋がりが見つかりました。

これからその人物の元に向かって確認する予定ですが、生霊の解放とか加害者の捕縛とか、手続き的にどうすれば良いのでしょうか?」


電話でこの件を持ってきた職員が捕まえられたので尋ねる。

考えてみたら、最初からそこら辺は決めておくべきだったよね。

碧と私は事件解決なんてやった事がなかったのでこう言った手続きについて事前に確認しておくべきだと気付かなかったのだが、慣れている筈の職員の方は・・・直ぐには私達が問題を解決できると思っていなかったのかな?

直ぐじゃなくてもいつかは解決する可能性は高かったんだから、手順を知らせてくるべきだったとは思うけど。

退魔協会側としてもあまりない依頼の流れなのかね?


実際職員側もちゃんと考えていなかったのか、一瞬沈黙してから返事がきた。

『霊体が体から離脱しているのは生霊側にとって負担が大きいので、加害者側の術者が見つけられると確信が持てるのでしたら解放していただいて結構です。

加害者に関しては行為の確認が取れた時点で連絡を頂けましたらこちらの捕縛班の人間が行きますので、出来る事なら本人を確保しておいて頂けると幸いです』


出来る事なら、なんだ?

まあ大抵の退魔師は生きている人間相手の荒事は慣れていないだろうし・・・退魔師同士の戦いなんかを街中でやったりしたら下手をしたら大騒ぎだよね。

今回は黒魔術師系同士なので地味だけど、元素系魔術師が戦ったりしたら色々周囲への被害も大きくなる。

まあ、それを見て魔術師(退魔師)に憧れる子供が出てくるかもだけど・・・魔物が居ないこの世界ではそんな戦い方をする必要は現実ではほぼ無い事を考えると、変な夢を退魔師業界に抱かせない方が良いか。


単に厨二病患者を無駄に増やしてお母さんや学校の先生の苦労を増やすだけだよね。


「ちなみに、生霊さんが体に戻った起点でこの事件の記憶があるか不明ですが、ちゃんと加害者は罰せられますか?」


『ええ、そこら辺は調査できる術者がいますから』


どうやらちゃんと記憶を確認できる黒魔術師系の人間が退魔協会の調査班か捕縛班にいるみたいだね。

これって私が碧と一緒じゃなかったら、退魔業界に柵のない都合がいい人材として退魔協会にそっちで働けって強く勧誘されてたんじゃないかなぁ。

まあ、ちゃんと法律や倫理に基づいた調査や捕縛や処罰ができる組織ならそこで働くのもそれ程悪くは無いかもだけど・・・退魔協会って権力者とか幹部の横槍で正義があっさり脱線しそうでイマイチ信頼出来ないんだよねぇ。


回復師の活動を医療機関の横槍のせいで制限させるのに抵抗しなかったか出来なかった時点で、退魔協会の外部の権力への弱さが滲み見えてしまう。


「分かりました。

ちなみに、記憶を読んでやった行為を調べるなら悪意があったかとか倫理観の欠如とかが分かると思いますが、そう言った問題を起こしそうな人物だった場合は初犯でも能力を封じると言った様な対応になりますか?」

ある意味、記憶を読める術者が当局に協力して働いているなら呪詛の利用者が『まさか本当に上手くいくとは思わなかった』と初犯の時に言い抜け出来るのはおかしい。


確かに上手くいけばめっけもの程度な感じで依頼する人間もいるだろうが、記憶を読むならば初めて捕まったにしても過去にも呪詛を利用して効果を確信していた場合だってある筈。


術者なら記憶を確認した情報を元に罰せられるのに、一般人だと『記憶なんて言うあやふやなモノを元に人を罰せられない』なんて言われるのはちょっと合理性がない。


術者(もしくは術者になる能力がある者)と一般人では扱いが違うとでも言うんかもなぁ。

ある意味、只人は魔力がないから術者が何か調べてもそれが信じられないって主張されたら水掛け論になるから。


『どの程度確信的にやっているかにもよりますね。

初犯だと適当にやってみたら出来たけど本当に上手くいっているのかどうかはあやふやと言うケースも多いので、厳重に監視した上で力の使い方を教える事になる場合が多いかと。

・・・術師になれる人材は貴重なので』

職員が答えた。


「分かりました。

では加害者を確認できたら連絡します」


へぇぇ。

貴重なんだ?


術者になれる人間が貴重なら、弟子入りする際の資金負担をもう少しなんとかすればいいのに。

まあ、ある意味弟子入りする事で退魔業界にお金を齎す存在も貴重だって考え方もあるか。


取り敢えず。

人格的にヤバすぎる様だったら白龍さまが勝手に手を下したって事にしてもらうのも検討する必要があるかも。


敦也少年の方へ向かいながら碧に相談しよう。



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カクヨムの短編賞創作フェスに参加する短編を書いてみました。

良かったら読んでみてください。

三連作で、同じ国が舞台です。最初の方の主人公が2番目の話の最後にもちょっと出てきて、3作目で王家に睨まれる王位継承権持ち同士、どうするか相談中w


『始まり』

https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678/episodes/16818023211694741036

『出会い』

https://kakuyomu.jp/works/16818023211892915722/episodes/16818023211892941278

『仲間』

https://kakuyomu.jp/works/16818023212013147340/episodes/16818023212013161809




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