第776話 買収の料金表?

「最後にもう一点。

本家の方で跡取り問題に関して揉めているとの事ですが、何が問題になっているのかお伺いしても良いですか?」

書斎に案内してもらい、依頼人が出て行こうとしたのを止めて最後に気になった点を尋ねる。


「・・・今回の件にそれが関係するのかね?」

ちょっと不快そうに聞かれた。


まあ、他人に自分の家の揉め事のことは突っ込まれたく無いよね〜。

気持ちは分かるよ。


でも。

「私は今回の加害者は従兄弟の敦也君でほぼ間違いないと思っています。

ただ、やった行動は明らかに違法行為ですが、退魔の才能を使った加害行為と言うのは最初の一回は『本当に起きるとは思わなかった』と言った言い訳が通用しやすいのです。

ここを出た後は敦也君に会いに行ってこちらの見極めが間違っていないか確認しますが、加害者への処罰や再発防止の教育は退魔協会と当局側が最終的な判断を行うことになります。

一応本人の意図や性質を考慮して退魔協会の方でも敦也君への対応を検討するとは思いますが、もしも彼に『退魔師の才能がある』と言う事が有力な退魔師の家門の跡取り問題に影響がある場合、本人の資質や健康状態に関係なく政治的に判断が下される可能性があるので確認出来ればと思いまして」

まあ、政治的に判断が下されても私にはあまり関係ないけどね〜。


『事件の原因解明の為』って事で先に敦也少年に会いに行ってその人間性を確認しようとは思っているけど、最終的には私らの主観混じりに報告された結果をどうするかは退魔協会からの勧告を受けた当局が決める。


敦也少年の人格が不特定多数に対しても害を及ぼしそうなぐらい危険だったら最悪の場合は白龍様に現時点で能力を封じてもらうって言うのもありだけど、そうじゃ無い場合は報告するだけだ。


通常だったら本人の希望と能力に基づいて弟子入りとかが決まり、被害者への賠償は本人や家族が行うことになるが、もしも退魔協会の上層部に敦也少年が才能持ちだと損をする存在、もしくは利益を受ける存在がいる場合は本人の資質と関係ないところで物事が決まりかねない。


なので出来る事なら退魔協会に質問する事で情報が漏れる前に敦也少年が退魔師の才能を持つ事の影響を少しでも知っておきたい。


「なるほど。

敦也君は普通の大人しい子供の様に見えたが、陽菜へ立て続けに生霊を送ってくるのはちょっと異常な執着から来る行動かも知れないな。

単に本人が何をやっているのか分かっていなかったとか、ストレスでノイローゼになっていたならまだしも、異常気質なのに退魔師として訓練されて本家を継がれるのは危険かも知れないか」

溜め息を吐きながら依頼人が言った。


「敦也君が退魔師であるか否かでどなたかに経済的利害が発生する可能性は高いのでしょうか?」

旧家って言っても落ちぶれて大して金がない名前だけの栄誉な可能性も無きにしも非ずだから、確認は必要だ。


「本家には私の他に長男である兄と弟の三男、長女の姉が近くに住み、『北藤家』として一族の会社でそれなりの地位に就いている。

姉は退魔師に嫁いで、子供も退魔師の才能があったと先日自慢していた。

兄の子はどちらも只人だがそれなりに賢いし健康なので、姉の子と兄の子で北藤家の跡継ぎをどちらにするべきかが争われていたのだが・・・弟の子である敦也に退魔師の才能があるとなると、北藤家直系の退魔師の男児が本家を継ぐべきだと主張する老人は出てくるだろうな」

依頼人が言った。


どうやら嫁入りした姉の苗字は『北藤』じゃないからそこの子供を跡継ぎにするのは只人を跡継ぎにするのと同程度になるぐらい一族にとっては嫌な事らしい。


そうなるとひ弱だろうが3男の子だろうが、『北藤』の男児に才能があるなら跡継ぎに!って主張する人間が出てきてもおかしくないだろうね。


マジで男系を跡継ぎにしたがる日本の旧式な考え方ってムカつく。

もう、結婚しても男女も姓を変えずに、子供だけが成人する際にでもどちらにするか決めれば良いんじゃないかね?


まあ、家族である事が分かりにくくなるけど。

欧米だと結婚したら男性と女性の姓をハイフンで繋げる事も多いらしいが、苗字が長くなりすぎるのは面倒だからねぇ。

日本だって昔は武士とかはやたらめったら長い名前だったようだし、しょっちゅう名前を変えてもいたようだから、家族の絆がなんだかんだって頭の固い事を言わずにさっさと法律を変えてもっと柔軟にに名前を選べる様にすれば良いのに。


私だってもしも結婚を考えるとしても、名前を変えてパスポートや免許証や銀行・クレジットカードその他諸々を全部変えるのは面倒だから嫌だ。

かと言って、夫側も嫌がるだろうな。

まあ、そうなったら子供ができるまでは事実婚で済まそうよと提案しても良いかも?

結婚したいと思う様な相手に出会える可能性は途轍もなく低そうだからあまり考えても意味がないけど。


それはさておき。

「ちなみに北藤家は退魔協会にどの程度繋がりと影響力があるか、ご存知ですか?

もしくはどの程度のお金を払ってでも敦也君の処遇を影響させようとするか」


現時点で影響力がなくても、資金力があればそれなりに退魔協会は動かせそうだからねぇ。


「・・・影響力そのものはもう世代交代して大分と落ちてきている筈だ。

姉の嫁ぎ先もそれ程の名門ではないからこそ『北藤』の名を欲していると言うのもあると思う。

資金力に関しては・・・どの程度で退魔協会は買収できるんだ?」

依頼人が聞き返してきた。


「・・・考えてみたらそれは私も知りませんね。

取り敢えず、退魔協会の方はあまり何も知らせずに先に敦也少年に会って現状を確認しますね」


考えてみたら、退魔協会ってどのくらいで買収できるんだろ?

政治家とかに便宜を図っているのを見ているから権威や金に弱いって印象はあるけど、実際に動かすのに必要な金額は知らんわ。

後で碧にも確認するけど・・・この高級そうなマンションに住める人間が本家のことを鼻で笑っていないってことは、それなりに資金力はありそうだね。






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