第775話 頭が痛い
「この部屋を使って下さい」
壁一面の本棚と寝転がって本を読むのに良さそうなソファ、更に立って使える高さ調整機能付きなテーブルが置いてある部屋に案内された。
おお〜。
依頼人は家でも仕事をするタイプなのかな?
座らずに立って作業しようと考えるなんて、実は家での作業時間が長いのだろうか。
仕事と家庭での生活はしっかり分けないとズルズルと長時間労働になっちゃうぞ〜。
ま、それはさておき。
折角依頼人だけと話せるので、加害者について聞いてみよう。
「ちょっとお伺いしたいのですが、陽菜さんの従兄弟に敦也君と言う少年はいますか?」
私の質問を聞いた依頼人が首を傾げた。
「敦也君が生霊を送り付けていたのか?
何故?」
「それをお伺いしたかったのですが・・・特に陽菜さんと彼が仲が良かった感じでしたか?」
仲が良くて遺産相続に揉めている親族たちを見て危険だと思って守ろうとしたなら良いが、そうじゃなくって単に独り善がりなストーカー行為だったら魔術師・・・と言うか退魔師になるのはちょっと危険そう。
ストーカーに黒魔術系の退魔の力なんて無敵だろう。
使い魔経由で24時間監視可能だし、基本的に被害者にはそれを気付く手段も、追い払う術もないのだ。
しかも彼は意識誘導を使えば被害者の周囲の人間すら自分に味方させる事もできる。
バレたら処分ものだから、そうそうやらないとは思いたいが。
ヤバそうな子だったら退魔協会に報告する際も『退魔師と縁がある旧家の子らしいがちょっと力を悪用する可能性が高いかも?』とマイナスな方向で話を持っていくつもりだ。
退魔協会だって彼のせいで失敗したと思われてマイナス評価を受けたんだから、潜在的には危険分子と見做しやすいんじゃないかね?
「敦也君は今年小学校六年になったんじゃなかったかな?
以前本家の方へ陽菜と挨拶に行った時に、親族との食事会の間は陽菜が面倒を見てあげていたからその時に懐かれたのだと思う。
今でも時々メッセージアプリで連絡が来ると言っていた。
昔から体が弱くて寝込むことが多い子だと聞く」
天井を見ながら記憶を探りつつ、依頼人が答えた。
昔から生霊とか死霊を使い魔モドキにして使役したり飛ばしていたりしたらそりゃあ寝付くことは多いだろう。
普通にその場で会話する程度ならまだしも、体の自由を奪い取るレベルで命令を発して、更に生霊をここまで飛ばしたとなるとそのエネルギーは自分の魔力と生命力も使っている筈だ。
「ちなみに彼は何処に住んでいるんですか?」
遠方だったらヤバいレベルで魔力があるか、寝込んでいるかだと思うんだが。
「鎌倉の方だ」
お。
それ程遠くはない。
だったら極端には生命力を削ってはいないだろう。
術師本人の生命力を削っているか、生霊側のエネルギーを奪って使っているかは不明だが。
前世では他人の生霊をその生命を削りながら色々と使い潰す術もあったが、当然の事ながらそれは禁呪だった。
こっちの世界ではそう言う行為をしたらどんな罰を受けるんだろ?
と言うか、何も教わらずに本能で色々出来ちゃってるっぽい敦也少年、怖いぐらいの才能だな。
流石に人様の精神を引き抜いて生霊として使役してストーカーしていた行為は『教えを受けていないから悪い事だとは知らなかった』って言い訳が完全には通用しないと思いたい。
記憶を読めば何を考えていたかも分かるだろうし。
まあ、子供だったら何も考えていない可能性はあるけど。
考えたらずな行動で人の命を脅かしても、危険性を教わっていなかったら許されるのは何か違う気がする。
子供だからしっかり教えればまだ大丈夫なのかもだけど、子供だからこそ自分を教えにきた一応目上な筈の『先生』の魂を生霊として引っこ抜いてストーカー行為を命じる傲慢さと他者への思いやりの欠如は敦也少年の本質的な性質で、退魔師の教育を受けてもその本質が修正されるのではなく単に人から咎められない様に表面上は取り繕う事を覚えるだけな気がする。
『子供である』事を免罪符に何も制限せずに今までの行為を全部スルーして普通の退魔師として教えていったら『バレなきゃ大丈夫』と裏では違法行為もやりまくる、一番嫌なタイプになりそう。
しかも下手に名家出身だと退魔協会でも色々と忖度したり都合が悪い情報を握り潰しそうだし。
子供の頃から触れた人の考えを読めたり、死霊が見えてその声が聞こえていたせいで色々と歪んでるかもと考えると、更に頭が痛い。
・・・幼い頃からひ弱だったって事は、子供の頃から色々とやらかしていたのかもだよね?
もしかしたらひ弱で寝込んでいる間に能力に目覚めたって可能性もあるけど。
でも、体が弱くて死にそうだったからそれを補うために能力が目覚めるタイプって、能力を使うと更に命が削られることが多い気がするんだけどね。
昔だったら物理的に体が弱くても、能力で情報収集が出来たり意識誘導で周囲の人間に自分の世話をみさせたり出来る事が生存に繋がったかも知れないが、今時そんな事に能力を使わなくても金とネットがあれば大体カバー出来る。
つうか、平均程度に資産がある家に生まれれば現代日本の子供は死なないだろう。
ある意味、能力を封じた方が健康になるんじゃ無いかなぁ。
そこら辺を見極めるノウハウが退魔協会にあるんかな?
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カクヨムの短編賞創作フェスに参加する短編を書いてみました。
良かったら読んでみてください。
三連作にする予定で、同じ国が舞台です。最初の方の主人公が2番目の話の最後にもちょっと出てきます。
最後のお題で2人で何をするか、筆者もまだ知らない・・・。
『始まり』
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678/episodes/16818023211694741036
『出会い』
https://kakuyomu.jp/works/16818023211892915722/episodes/16818023211892941278
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