第774話 罰は必要だよね?

「お二方のどちらも退魔師の才能がある訳ではないようです。

では、生霊の方を調べますね」

先に結界を張ってうっかり生霊を逃さない様にしないと。


どっかの未熟な術者が手探りで力の使い方を試行錯誤していてうっかり誰かの霊体を体から追い出し、何故かそれを陽菜さんに送り込んでしまったのだとしたら私が生霊を詳しく調べようとしても何も起きないだろうが、それなりの術師が意図的にやっているのだとしたら悪事(少なくとも嫌がらせ)の証拠であると同時に術者へのリンクである生霊に他の術者が触れたのを察知したら生霊を元の体に戻そうとしてくる可能性が高い。


原因解明と解決を求められるなら、ここで生霊を逃す訳にはいかない。


『碧、生霊が逃げない様にする結界をよろしく〜』

念話で碧に結界の展開を頼む。

死霊だと碧の結界に触れただけで浄化されかねないが、生霊なら衰弱状態が改善するかも知れない程度で大した影響は無い筈。

碧の結界で閉じ込めた間に私が思う存分調べられる。


『ほいほ〜い』

碧が気楽に答えて結界を部屋に展開した。


うっし。

そんじゃあ、行こうか。


生霊に手を伸ばし、頭に触れる感じで接触する。

う〜ん、夢うつつな感じでイマイチ意識がはっきりしていないな。

なんでここにいるんだ?


ゆっくりと記憶を探っていくと、時折少年の声で陽菜さんの様子を聞かれる記憶が出てきた。


おいおい。

自分が生霊になって纏わりつくのも十分迷惑だけど、他人の生霊を使ったストーカー行為??

何度追い払っても戻ってくる上に大元が誰かも分からないなんて悲惨だぞ。

どこでこの少年に会ったのかを探る為に、記憶を探って陽菜さんの様子を聞く声と、生霊の現実での知識を照合させていく。


お、これかな?

家庭教師をしている生徒?

何やら家庭の方で問題があって本人も家族も苛々していているのをちょっと不思議に思っている記憶がある。

更に探ると、注意散漫な少年に歴史の問題の間違いを指摘した時の記憶が浮かび上がった。


『煩いな。

もう家に帰ってろ。そんでもって僕の従姉妹の陽菜ちゃんのところに行って見守りながら様子を報告しろ』

冷たい声で少年に命じられた瞬間から体が自分のモノでは無いかの様になり・・・いや、自分の心が体の中に隔離されて閉じ込められたかの様になった。

傍観者の様に自分が無言でバイト先の家を出て電車に乗って家に帰ってソファに座るのを見つめる。

ソファに身を置いた瞬間に体から飛び出し、ここにきて少女を見守っていた。


うわぁ。

陽菜さんの従兄弟??

生霊の記憶によると敦也と言う名前らしい。

家庭教師だった生霊さんは陽菜さんもこのマンションの場所も知らなかったのに、どうやらその従兄弟に飛ばされたっぽい。

中々力が強いね、こいつ。

だが、精神年齢と出来る事が釣り合っていないので危険だ。

と言うか、下手をしたら倫理観とか善悪の判断に対する基準が一般社会の常識から乖離している精神異常者な可能性も高そうな気が・・・。


陽菜さんの記憶の表面には出てこなかったから、陽菜さん的には単にそれ程親しくも無い年下の従兄弟ってだけみたいだけど、少年側からしたら憧れの美人な従姉妹ってやつなのかね。


もしかしたら遺産相続のごたつきで陽菜さんに危険が及ぶかもと思って心配しているだけかも知れないが、他人の生霊を体から引き抜いて監視に使うのは許されないだろう。


生霊さんは解放するにしても、退魔協会に連絡してこの敦也少年の能力の封印か、誰かへの弟子入りを手配しないと不味いね。


退魔師系の旧家の息子だったら弟子入りの可能性が高そうだが、人格的にはかなり問題がありそうじゃ無い、こいつ??


『どうも陽菜さんの従兄弟が陽菜さんの様子を監視か見守る為かの目的で家庭教師の生霊を体から引き抜いて問答無用に送りつけてきたみたい。ちなみにこの生霊を解放しても退魔協会が従兄弟君を捕まえて警告するなり能力を封印するなり出来るのかな?』

碧に尋ねる。

証拠がどの程度必要なのか、確認した方が良いだろう。


『う〜ん、電話して確認してみようか。

下手に名門の子だったりすると能力の発現そのものは確認して対処を迫るにしても、今までにやった事に関しては言い掛かりだって主張して逃げられるかも』

碧がちょっと考えてから言った。


まあ、相手は未成年っぽいし初犯だろうから厳罰はどうせ無いだろうけどね。

3人も生霊を抜き出すなんて事をやっているんだから『初犯』と言えるかどうかちょっと微妙な気もするが。


「ちょっと退魔協会の方に手続きについて確認の電話をしたいので、ベランダに出て良いですか?」

依頼人に尋ねる。


流石に外部の人間の前で赤裸々に話をしない方が良いだろう。


「・・・原因がもう分かったのか?!」

依頼人が目を丸くして聞き返してきた。


「大体のところは分かりましたが、ちょっと退魔協会に確認したい事がありますので」


「分かりました。寒いので、ベランダではなくこちらの書斎でどうぞ」

依頼人が立ち上がって廊下へ出る扉を開けてくれた。


「ありがとうございます」

確かに、考えてみたらコートを脱いじゃったからベランダで電話するのは辛いよね。


さて。

こう言う場合って退魔協会はどのくらいの証拠があったらそれなりに罰を科すのかね?


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