第772話 内輪揉めかね
退魔協会経由で頼んだ情報収集は、周辺で休んだ人間がいるかについての答えは翌日の午後には送られてきた。
早!
ただし依頼人の家系に関する情報は個人情報扱いなのか、退魔協会から提供を拒否された。
マジで依頼人って退魔師に自分達の情報を知られるのを嫌がるよねぇ。
呪われたり変な嫌がらせ(かも?)を受けようと自分がやっている悪事では無く、被害者なんだからそこまで神経質になって自分の情報を隠さなくても良いだろうに。
それとも、退魔関係の被害者になると自業自得で呪われるような悪事をやっていたのだろうと言う感じの風評被害が起きやすいのかね?
上流社会っぽい人間が依頼人として圧倒的に多い事を考えると。被害者は皆仲間って感じで別に風評被害を恐れる必要も無いんじゃないかと思うんだが。
取り敢えず、依頼人の家系や遺産争い(やっているなら)に関しては依頼に行った際に直接本人へ聞いてくれと言われたので、依頼の電話を受けた2日後に私たちは依頼人のところへ来ていた。
今回はハイヤーでの迎えはなく、普通に書いてあった住所に電車で来ただけだったけど。
それなりに良い高級住宅地にある新しそうなマンションだ。古くからある家系の本家から出てきた人間だとしても、ちゃんと収入手段を確保して準備万端に独り立ちしたっぽい。
『北藤』
「名前を知らせないようにしたいなら表札を出しちゃダメでしょうに」
4階の玄関前でぼそりと碧が呟いた。
今時のマンションだったら表札出しているところの方が少ないぐらいなんだから、ちょっとうっかりだよね。
もしかしたら、依頼人は特に自分達の名前を秘匿せよとは指示してないのかな?
今までのクレーム対応とか、法人としての個人情報の扱いの一環として退魔協会は依頼人の名前を教えないスタンスなのかも?
依頼人がうっかり表札を出しっぱなしにしておくとか、自己紹介で名乗るとかする分には退魔協会は関知しないってところかな。
住所に関しては、迎えを出すと言ってきたら知らせず、自力で来いって言われたら依頼を受けた段階で知らせる感じな気がする。
まあ、現地に行ったらナビアプリで自分がいた場所を確認したらGPSで場所が分かるから、例え行きも帰りもハイヤーで送迎されても住所は割り出せるんだけどね。
リンゴーン。
下でオートロックを解除して貰っているので私達が来たのは分かっているだろうが、玄関を開けてもらわない事には入れないので碧がインターフォンを押す。
なんか高級路線なマンションって、人の家を訪ねるのに何度もインターフォンで連絡しなくちゃいけなくてちょっと面倒。
『はい』
「退魔協会から来た者です」
碧がインターフォンに声をかける。
『お待ちしてました』
暫し待っていたら、ガチャガチャと音がして玄関が開いた。
マンションの入り口のオートロックをインターフォンで開けられるなら玄関も同じかと思ったけど、チェーンを掛けてたらダメだよね。
それに玄関そのものは自動ドアじゃ無いから、鍵を解除できたとしても勝手に開けて入るのは微妙か。
最近は携帯電話で開錠出来る玄関もあるらしいけど、そう言うハイテクなマンションだったら玄関も勝手に開いたりするのかな?
ちょっと興味は湧くけど、考えてみたら家に誰かが来たら玄関で対応すべきだし、下手にハイテクだとハッキングとかされて外部から干渉して扉を開けられるかもと考えると怖いか。
「ようこそ」
玄関を開けたのは40代半ばぐらいの男性だった。
「「お邪魔します」」
中々お洒落で広い玄関で靴を脱ぎ、リビングへ案内された。
若い女の子がソファにぐったり座っていて・・・その後ろに生霊が浮かんでいる。
祟っているって感じじゃあ無いけど、隷属している感じでも無い?
う〜ん、この娘さんが発現し始めた黒魔術の才能でうっかり知り合いの魂を体から引っ張り出して生霊状態にしたのかと思ったけど、そんな事をされたら怒って祟るか、もっとしっかり制御できているなら隷属に近くなる筈なんだけど。
一体どうなっているんだろ?
他人が悪戯や嫌がらせでやったにしても変な感じに中途半端だね。
娘さんのぐったり具合から見るに、生霊が側にいると何か不都合があるみたいだが、依頼人(多分)はちょっと疲れて焦燥した感じだがぐったりはしていない。
「こんにちは。
依頼を出した北藤 亨と言う。
こちらは娘の陽菜だ」
依頼人が自己紹介してきた。
珍しいね。
今まで自己紹介されないことの方が圧倒的に多かったんだけど、考えてみたらこの対応の方が常識的だよね。
「退魔協会から派遣された藤山 碧と長谷川 凛です。
生霊の祓いと、可能なら原因解明と解決をと言う依頼を受けてまいりました。
まずお伺いしたいのですが、北藤さんは退魔師を輩出した家系ですか?
極稀に退魔の才能が発現した際に本人が意図しない想定外な現象が起こることがあるのですが、それの可能性もあるので教えていただけると助かります」
碧が挨拶を返しながら訪ねる。
普通のビジネスだったら最初に雑談とかして空気を和らげるんだろうけど、退魔師を雇うような場合って基本的に依頼人側はストレス度マックスでキリキリしている事が多いからね。
雑談無しが正解な事が殆どだと言っていたが、今回もそうらしい。
不快そうな顔をせず、北藤氏が頷いた。
「ああ、確かに本家は陰陽師の家系だったと聞いている。
祖父の世代から本家では才能がある人間が出なくて、今も色々と跡取り問題で揉めているらしいが」
おやま。
揉めているんだ?
だとしたら相続絡みの嫌がらせの可能性もあり?
・・・こう言う嫌がらせをした場合ってどうなるんだろ?
一般人相手にやったら厳罰もんだけど、遺産相続に絡んだ内輪揉めに近い場合って一般人への障害よりは軽く見られるのかな?
家を離れた側にしたら良い迷惑だし内輪扱いするなってところだろうけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます