第771話 原因は?

「次から次へと生霊を送り付けてくるなんて、呪いみたいな感じだね。

それとも黒魔術師系な退魔師が関与しているのかな?

流石に普通の元素系や回復師系の術師じゃあ無理だよね?」

電話が終わり、タブレットを手に取りながら碧が聞いてきた。


「霊を体から追い出すような呪詛はあるけど、追い出された霊体を特定の人物に祟るよう誘導するのは難しいと思うんだよねぇ。

いや、霊体を抜き出して敵を攻撃させる様な呪詛だったら今回みたいな感じになるのかな?

でも、呪詛ってそれなりに悪臭と言うかなんと言うか特徴があるから、呪いだったら祓った術師が気付くと思わない?」

つうか、身体の生命維持にエネルギーを使う必要がある生霊よりも死んじゃった悪霊の方が攻撃力は高い事が多いから、攻撃が目的だったら悪霊を使いそうなものだよね?


「確かに。

じゃあ、黒魔術?」

碧がちょっと躊躇いながら口にした。


「禁呪系の黒魔術に生霊を操る術はあるからそれかも?」

と言うか、禁呪って言うのは単に時の権力者が自分たちにとっても危険で都合が悪いから禁じているだけなのだ。

自然の摂理として禁じられているとかって訳じゃあないから、こっちの世界で禁呪であるとは限らない。


とは言え、人様の霊を勝手に体から引き抜いて他者への攻撃に使うのが許される行為じゃないのは自明の理だとは思うけど。


なんかなぁ。

黒魔術師の悪事に使える様な術をあまり退魔協会の目に入る様なところで使わないで欲しい。

誰かが必要に駆られて開発した術なのか、先祖が開発して引き継いできた術なのか知らないけど、迷惑この上ないね。

退魔協会が黒魔術師の適性を危険視したらどうしてくれる!

もっと悪い事に、黒魔術師を悪用しようと考える様な阿呆が出てきたら誰にとっても不幸だし危険だ。


知識っていうのは、一度形になっちゃうとそれこそその集団を壊滅させて記録すら全て抹消しないと、完全には消せないんだぞ。


「へぇ?

まだこの娘さん、高校生なんだって」

タブレットのメールアプリで退魔協会から送られてきた依頼の詳細を見始めた碧が教えてくれた。


「・・・そうなんだ?

だったら、その依頼人の娘が生霊に祟られるようになった時期前後に学校や予備校を休んでいる人間が居ないか、情報ある?

ないなら調べてもらおう」

原因解明も依頼されているんだから、調査の費用も依頼人が負担してくれるだろう。依頼人の娘が虐めをしていない事を調べさせた興信所にでも特急料金で頼めばあちらに行く前に情報が入手できそうだ。


大学生だと交友範囲が広いし行動の自由があり過ぎて誰かが休んでても分かりにくいが、高校だったら学校や予備校を休んだら目立つし把握しやすいだろう。


生霊が誰だったのか特定できれば、誰が原因なのかも分かるかも知れない。


まあ、超大金持ちでパーティとかでの付き合いがあるんだったら難しいかも知れないが。

富裕層の高校生ってどの程度の社交生活があるんだろ?

気になったので自分もタブレットを取り出してメールに添付されている資料を開いてみる。


「あれ、退魔協会に依頼するにしては意外と普通な人っぽいね」

依頼人の住所がマンションだし。

まあ、今だったら億ションとかもあるだろうけど、◯◯ハイツ406号室ってかなり普通な感じだ。


「旧家の息子でも次男三男になると遺産が減る家も多いからねぇ。

知識的には色々知っていても、資産的には一般家庭並みになるのかも?

もしくは家出とか駆け落ちした旧家の息子か娘の可能性もあるよね」

碧がちょっと笑いながら言った。


駆け落ちかぁ。

現代日本では親に結婚を反対されようと駆け落ちする必要性は無いけど、まあ親との繋がりを絶って自立するとなると生活レベルはかなり下がってちょっと苦しくなるかもね。

それこそ蓮くんの両親なんてそれだったよね。

・・・考えてみたら、連君の苗字って高木だっけ。

もしかして兄貴の彼女さんの高木怜子さんと血が繋がっていたりするのかな?

単なる偶然だと思って全く気にしていなかったけど、どちらも退魔師の才能を持つとなると大元は同じ退魔師の血族に連なる家だったのかも?


彼女さんの方は全然退魔師系の知識も伝手も無いみたいだから、一般人との結婚で勘当されたんだったら親か祖父母世代かそれ以前だろうし、その世代が既に死んでいて何も情報が残ってないかもだけど。

連君も父親が死んじゃってあまり本家の事は知らないだろうけど、一度親戚かどうか確認したいか聞いてみるかね?


父親の葬式の時に無神経極まりない行動をされて『高木家』への好感度マイナスな連君よりも、もうちょっと気楽そうな怜子さんの方に今度聞いてみようかな。


それはさておき。

「依頼人が旧家の分家なり勘当された子孫なりだったら娘さん本人が能力持ちな可能性もあるね。

もしくは親が家を出たんだったら遺産相続で揉めてて嫌がらせされているとか。

本人に触れてみて能力持ちじゃ無かった場合は親の方に確認してみよう」

本人が能力持ちだとして、どんなストレスが掛かったら無意識に知り合いや友人の霊体を体から引っこ抜いちゃっているのか、想像もつかないけど。


もしかして本人が虐められているのかな?

それも虐めの調査結果に出そうなもんだけど。

謎だわ〜。


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カクヨムの短編賞創作フェスに参加する短編を書いてみました。

良かったら読んでみてください。

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