第769話 下宿ですか

『取り敢えずね〜、冬の間だけ怜子さんがウチに下宿してお互いの相性を確認する事にした〜。

ついでに業界のことも色々雑談で教えていけば良いし』

チャットアプリの画面で少し眠そうな顔をした聖子さんが教えてくれた。


碧ママと話し合った結果、碧がチャットアプリで聖子さんに直接連絡を取って私を紹介し、高木さんの現状や私との関係を話して高木さんから聖子さんへ直接連絡をとる許可を貰った。


で、高木さんが連絡を取って話し合った結果の報告を、碧との雑談ついでにという事で聖子さんがコンタクトして教えてくれている。

紹介された方の怜子さんから報告が来る前に師匠役から連絡が来るって微妙だが・・・兄貴と先に話し合っているのかね?


「聖子さんのところに下宿、ですか。

中々思い切った動きですね」

フリーランサーだとしてもニセコに移住しちゃって良いの??


聖子さんも赤の他人と同居なんて、思い切ってるね〜。


『冬は元々彼女も兄貴氏もスノボメインで仕事は絞っているらしいから、PCを持ってきて最低限の仕事はするけどどうせならニセコの雪を楽しむってさ。

兄貴氏は通いつつ適当に民宿かウィークリーマンションに泊まるだろうって。

流石に男女のカップルを家に泊める気はないからね〜』

笑いながら聖子さんが付け足す。


なるほど。

元々仕事を絞っているからニセコへの半移住も可能なのか。

考えてみたら冬の北海道じゃあ仕事があっても物理的に人と会うミーティングはお互い最低限に抑えるだろうしね。

下手に出歩いて滑って骨折なんてしたらシーズンが台無しだ。


・・・北海道現地民じゃないとあっちの冬の道路って歩くと滑って転びやすいらしいけど、大学からあっちに住んでいると現地民並みに凍った地面でも問題なく歩けるのかな?

ネーティブになるのにどのくらい年月が必要なのかちょっと興味があるが、まあどうでも良いか。


「色々とありがとうございます。

合わないと思ったら放り出しちゃって全然構いませんので」

碧と一緒に仕事している私の紹介だってだけでそこまで気にするとは思わないけど、一応気を遣わないでくれと言っておく。


下手に相性が悪いのに弟子として扱い続けられても単に出費が嵩みつつ一人前になるのが遅れるだけだから、ダメだと思ったらさっさと切り捨てて貰う方が良い。


別の師匠役を見つけるなり、能力を封じるなり、早い段階で見切りをつける方が経済的負担が小さいし、時間も無駄にならない。


それにやっぱ修行中だったら妊娠とかもしにくいだろうしねぇ。

考えてみたら、兄貴達が結婚するとしたら新婚旅行とかはどうするんだろ?

折角だからって事でスイスとかカナダとかにでも行くんかな?


でも、北海道のパウダースノーって世界でも指折りに良い雪質だってどっかで聞いた気もするから、そうなると新婚旅行なぞせずに普通にゲレンデに行き続けるような気もしないでもない。


・・・と言うか、冬スポーツのシーズンを無駄にするなんてとんでもない!って事で、結婚は夏かな?

で、南半球のどっかの雪山に新婚旅行で行くとか。


まあ、そこら辺は関係者で話し合って決めて貰えば良いや。


「良いなぁ、北海道かぁ。

でも源之助を連れて飛行機に乗るのはちょっと心配だからなぁ。

なんか空港で行方不明になるペットってそれなりに居るらしいからねぇ。

行くとしたらいつかキャンピングカーを買ったらかな?」

碧が言う。


『いや、冬の北海道にキャンピングカーは無謀だと思うよ??』

ちょっと唖然とした顔で聖子さんが応じた。


確かにちょっと怖いね。

北海道でのスキーやスノボは諦めよう。


「そうだねぇ。

まあ良いや、また今度ね〜。

連絡ありがと!」

碧が手を振り、チャットアプリを切った。


「なんか相性が悪くなさそうで良かったね」

碧がお煎餅に手を伸ばしながら言った。


「だね〜。

取り敢えず、弟子入り出来なくても業界のこととかを色々と教えて貰えるらしいし、マジで助かった。

ちなみに、弟子を取ったら退魔協会に報告するの?

連帯責任の事を考えるとどっかに登録しそうなものだけど」

まあ、ある意味自分から連帯責任を登録するなんて嫌がって、敢えて忘れたふりをする人間も多そうな気もするが。


「弟子を取ったら登録する義務があるし、登録すると多少なりとも補助金が毎年出るんだよね。

ヤバいやらかしをしそうな人間だったら最初から弟子になんか取らないから、連帯責任があるって言っても大体みんなさっさと登録するらしいよ」

碧が教えてくれた。


考えてみたら、私って師匠を登録してないよね。

独学プラス碧の家族からさらっと教わっただけですで通したけど、ちょっと普通じゃないのがそこでもバレてそう。

とは言え。

流石に異世界からの転生なんて信じないだろうから弟子として登録せずに非公式に教わったんだろうと思われてるかな?

なんでそれで『ちゃんと手続きせずに危険かも知れない知識を教えた術師の名前を教えろ』って詰め寄られなかったのか、ちょっと意外だ。


もしかして藤山家が関係しているとでも思われたのかね?

ちょっと悪い事したかも。


そう言えば、彼女さんが退魔師になるなら変に退魔協会に利用されないように、結婚する際に高木さんの苗字にした方が良いかもってそのうち機会があったら言っておくかなぁ。

退魔協会がそこまで信頼できないか否かは不明なんだけどね。

何事も用心しておく方が良いだろうってだけだから、強硬に主張するつもりは無いけど。


そんな事を考えながらお煎餅を齧っていたら、電話が鳴った。


おや。

この着信音は退魔協会じゃん。

噂をすればってやつだね。










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