第767話 厨二病は感染するのか

結局、高木さんはうちの実家に来た時間のかなりの部分を私や兄貴と話し合うのに費やしたので、両親とはあまり時間を取れなかった。


まあ、両親には彼女が祟られていると思っていたら実は退魔師になる力があることが発覚したのでちょっと色々情報収集中だと兄貴が説明していたから、それ程悪印象は与えていないだろう。

多分。


ゴールデンウィークにでもまた来たら良いんじゃ無い?

退魔師になるか否かの話し合いで兄貴と意見が一致しなかったら結婚自体が流れるかもだが。


同じ街の別の会社に転職する程度だったら結婚にほぼ影響はないと思うが、下手をしたら京都や諏訪で何年掛かるかわからない修行をするなんて事になったら結婚生活へ大きな障害になる。

地元で丁度いい師匠役が見つかり、弟子入り費用が特に問題ないとしても北海道で働く退魔師がどのくらい出張三昧になるかで将来の居住地変更もあり得るだろうし、ちょっと色々と状況の不確実性が高まった筈だ。


マジで現時点で結婚を決めるのではなく、ゴールデンウイークあたりまでしっかり情報収集と話し合いをしてから決めるべきだろうと私は思うよ。



と言う事で思っていた以上にグダグダな年末年始を過ごし、2日の朝にシェアしているマンションへ帰った私はのんびりとこたつでテレビを見ていた碧に声をかけた。

「去年の末に悪霊祓いをして貰った兄貴の彼女が実は風の適性持ちだったことが判明したんだけど、誰か北海道在住の一般家庭出身の弟子を取ることも吝かでもない風の適性持ちな退魔師って碧やご両親の知り合いでいるかな?

ちょっと話を聞かせて貰って、場合によっては弟子入りしたいんだけど誰か紹介してくれって頼まれちゃった」


お煎餅を齧っていた碧があんぐりと口を開けてこちらを見た。

「はぁ?」


「いやぁ、なんか兄貴が彼女を両親に紹介する為に連れて来るって話だったじゃない?

会ってみたら妙に緊張してるし、もしかして兄貴ったら騙されてるのかな?なんて思っていたら、なんと本人はあの悪霊事件からストレスが溜まったりイラっとすると生暖かい風が吹くようになったからまだ悪霊が残っているのかもって心配していたらしくて。

話を聞いて確認してみたら風魔術の適性持ちだった」

肩を竦めて私もこたつの上のお煎餅を一つ取りながら碧に説明した。


「へぇぇ。

一般人が退魔師になる際は家族の理解を得るのが難しいんだけど、少なくとも凛の兄貴なら悪霊を経験しているから怪しげな宗教団体に騙されているとは思わないだろうから説明が楽だね」

碧がぱっかり開いていた口を閉じてから応じた。


「まあねぇ。

つうか、兄貴は奥さんが魔法使いになれるかも?!ってんで本人よりよっぽど興奮している感じだったね。

兄貴は絢小路家出身の曽祖母の話をされて重度な厨二病を発病させたらしいけど、まだ実はそのウィルスが残っていたみたい」

そのウィルスが彼女の方に感染するか否かは要観察ってやつだね。

まあ実生活に関しては女性の方が現実的なことが多いから、高木さんはちゃんとリスクとリターンを考えて行動してくれるだろう。

願わくは。


それに、うっかり兄貴に唆されて退魔師になったとしても、言い方は悪いがちゃんと退魔協会の生命保険に入っていれば危険な依頼で死んでも補償はガッツリ入るから子供が残されていても何とかなるだろう。

と言うか、危険な依頼よりも弟子入りしてずっと月謝を払い続けても結局一人前と認められない事の方が経済的リスクとしては大きいかな?


だからそこら辺に関しては信頼ができる退魔師を紹介して貰えると良いんだけど。

それに退魔の仕事で即死する事ってそうそうないから、除霊するのに失敗して憑かれてしまってもすぐに私に連絡くれれば私と碧で救えないケースは殆ど無いと思うし。


もっとも、退魔協会にも同じように考えられた場合は危険な依頼へ次から次へと送り込まれて酷使される可能性はあるかも?

退魔協会って退魔師になる人間の身元調査ってどのくらいしっかりやるんだろ?


結婚前に登録するとか、兄貴と結婚する際に高木の苗字にするとかしたら退魔協会に関係をバレずにいられるかなぁ?


「北海道ねぇ。

母親に後でメールを送って聞いてみるね。

今の時期は忙しいから返事が来るのに数日掛かると思うけど」


「ありがと。

どうせ一年間も何も言わずに悩んでいたんだから、数日どころか数週間掛かっても大丈夫だと思うよ」

少し日数をおいた方が興奮状態な兄貴が落ち着くかもだし。







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