第764話 そっちか!
「どう言うことだ、怜子?
大丈夫か?!」
私が何か言う前に、兄貴がガシッと高木さんの肩を掴んで顔を覗き込んだ。
肩を掴むって圧迫感を与えてあまり良く無い気がするんだけど、少なくとも変に私や彼女を責める言葉を吐かなかったのは合格。
ちゃんとお祓い出来ているのか確認しなかったのか?!って私を責めるかと、彼女の言葉を聞いた瞬間密かに思ったからね。
まあ、一年も経っているんだから雪山で壊した慰霊碑以外の原因だってあり得るけど。
「なんかこう、あの慰霊碑事件の後から暫くして気がついたんですけど、時折生ぬるい風が吹くんです。
夏はちょっとひんやりした風ですね。
私、やっぱりまだ呪われていますよね?」
ちょっと諦めて絶望に身を任せちゃっている様な表情で高木さんが言った。
「いや、呪われても祟られてもいませんよ?
ちなみにどんな時にその生暖かい風って吹くんですか?」
祟られたにしても風が吹くなんて変わった現象は初めて聞いたぞ。
祟りなんて言う超常現象を体験してちょっとしたトラウマと言うか精神病と言うかになって、幽霊がいると思い込んで変な感覚を想像しちゃっているだけで、気のせいなんじゃないんかね?
まあ、普通は想像するとしたら恨めしやの声が聞こえるとか白い何かが視界の隅で動いていたのを見たとか言うのが多そうだけど。
でも、少なくとも高木さんは祟られてはいない。
「・・・イラっとした時とか、疲れている時でしょうか?」
ちょっと考えてから高木さんが答えた。
ふむ?
「ちょっと高木さんに触れて良いですか?」
合意を得て、高木さんの手に軽く触れてみる。
うん。
魔力がそこそこある。
流石に平時でも外に溢れ出るほどでは無いが、能力として具現できる程度はあり、祟られた影響で発現したみたいだね〜。
悪霊による祟りって黒魔術での攻撃に近いからね。
魔術の才能って魔力攻撃を受けると発現しやすいと前世で聞いたことがあるが、今世でも当てはまる現象だったみたいだ。
まあ、同じく祟られた兄貴が発現しなかったから、元からの才能がそれなりにあっての話なのだろうが。
「どうやら高木さんは風の魔術を使える才能があったみたいですね。
祟られた衝撃でそれが目覚めた様です。
合計で百万から二百万円ぐらい出せば退魔師になれるかも知れませんが、なる気がないのでしたら封じますか?
発現した能力をそのまま放置しておくと、ストレスが溜まっている時にイラッとした拍子でうっかり鎌鼬で誰かの頸動脈をすっぱり切っちゃったなんて事になる可能性がありますから、しっかり修練するか、封じるかをお勧めします」
妹と彼女とでは対応の仕方が違うとは思うが、兄貴にはそれなりに人を怒らせる才能がある。
うっかり夫婦喧嘩で夫を殺しちゃう事になったら高木さんが可哀想だろう。
死んじゃう兄貴もだけど。
「二百万円ですか?!」
高木さんが驚いた様に聞き返してきた。
「術師の才能というのはタイプが分かれているので、霊が見えやすい私と、風を操れる高木さんとでは能力の使い方が違うから私ではお教えできません。
力が発現した能力者というのは言わばセーフティの外れた銃を常に片手に持っている様な状態なので、それなりに自己制御が出来なければ危険ですし、力のコントロールそのものもしっかり出来ないとそれこそ強盗犯を止めようとして銃を撃って道の向こうで見ていた女子高生を間違って殺してしまうという様な事故が起きかねません。
ですから教える方にも、責任を持った力の使い方を相手を選んで教えることが求められます。この国では術師が誰かに力の使い方を教える際、その弟子が退魔協会に一人前と認められるまで弟子による能力を使った損害に対する連帯責任を負うのです。
だから弟子入りの際の礼金も、月謝もそれなりに高いんです」
まあ、例え高木さんが黒魔術の適性を持っていても私が弟子にとって教えるつもりは無いけど。
取り敢えず、彼女が能力持ちだったから兄貴に相談された件も話す方一択だね。私としては秘密を気にしなくて済んで助かったかな?
やっぱ兄貴が奥さんに対して重要な情報開示をしていないのかもって知っていると、今の言動は地雷を踏みそうか?!って感じで気になるからねぇ。
「ちなみに、俺も能力が発現する可能性ってあるの?」
兄貴が聞いてきた。
「前回の祟り騒動の時に曽祖母の話を聞いて確認してみたけど、ないね〜。
高木さんも能力持ちとなったら、子供は可能性ありかもだけど。
もしも兄貴と結婚して子供ができた場合は、子供に会う機会があったら私が能力持ちか確認して15歳ぐらいまで能力を封じてあげますから、子育て中の事故は気にしなくても大丈夫ですよ」
ちょっとぎょっとした顔の高木さんに言っておく。
「取り敢えず、誰か師匠役を紹介して欲しいなら顔が広い知り合いがいますんで、声を掛けてください」
そう言って兄貴の部屋を出る。
細かいことは兄貴と話し合って下さいな。
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