第763話 祟り?

もう少し情報が欲しいと思って高木さんの思考を読もうとするが、クルミ経由で背中に触れているだけなせいで表面的な考えしか読めない。

『相談しなきゃ』『相談しよう』『聞いてくれるよね』『変かな?』『結婚』『相談出来るはず』と言ったような考えがグルグルお互いを押し出すような勢いで浮かんでは流れていくので、何を考えているのか全然分からない。


とは言え、特に罪悪感とか相手を騙している優越感とかは無いので、少なくとも託卵とか金目当てと言う訳ではないみたい。

まあ、金目当てで兄貴と結婚なんてしないと思うけど。


幾ら曽祖母経由で京都の旧家の血を薄く引いているとは言え、その証明がほぼ不可能な上に絢小路家にはサークル先輩をはじめ本家の子孫がいるのだ。

うちに遺産が転がり込んでくる可能性は皆無に等しい。

兄貴個人がどれだけ儲けているかは知らないが、稼いだ分はほぼ全てスノボに注ぎ込んでいるって話だから、一緒にウィンタースポーツを楽しむ程度にしかたかれないだろう。


取り敢えず。

相談する相手が私なら、こっちにいる間に声を掛けてくるだろう。

つうか、先に兄貴に相談すべきだと思うけどね〜。


挨拶を終えて、リビングで適当に座って雑談を始める。

昼食を一緒に取ることになっているのだが、母が作るのでは母一人がバタバタ台所で準備する事になりかねないので、今日の昼食は釜飯のデリバリーになった。

私や兄貴達も前もってメールでデリバリー会社のメニューから自分が好きな物を選んで、母が纏めてオーダーしてあるから、大晦日でもちゃんと頼める。


義理(今回の場合は『将来の』だけど)の家族って面倒だよねぇ。

高木さんにしてみれば嫁候補なら手伝うべきか、それともまだそこまで正式に話は進んでいないのに他所の家の台所に踏み入るのは失礼と考えるのか、微妙だろう。


何と言っても嫁候補にとっては義理の父親候補よりも姑候補の方が見極めが重要だから手伝いついでに話をしたいかもだが、無理矢理しゃしゃり出て反感を買っても困るし。


時には古臭い事を押し付けてくる碌でも無い当主気取りな舅もいるかも知れないが、うちの父親は比較的家庭のことはノータッチだしあまり拘りも無い方・・・だと思う。

いつか私が伴侶候補を連れてきたら『こんな奴は認めん〜!!』って突然発狂する可能性もゼロでは無いが。


男親って娘の夫に関しては煩いけど息子の妻に関してはそこまで口出ししない印象なんだけど、どうなのかな?

まあ、父親が高木さんに関して何か思うことがあっても、母ともしかしたら兄貴と話すだけで私には言わないだろうけど。



「「「美味しい!」」」

デリバリーの釜飯は予想以上に美味しかった。

デリバリーの料理って冷めてたり寿司のように最初から冷たかったりと微妙なのが多い気がするのだが、釜飯は保温性の高い釜に入っているせいか中の料理が十分暖かく、味も良い感じに染み込んでいてこないだ近所の店で食べた釜飯より美味しかった。


ウォーキングで歩いていたら近所に釜飯屋があったのでランチに入ってみたのだが、大して美味しくなくてがっかりしたのだ。釜飯全般に失望していたのだが、釜飯ってやっぱ美味しい!

どうやら近所の店がハズレだったらしい。


わいわいと和やかに話し合いながらランチを食べ終わり、適当に食器を片付けて雑談を続けていたら、ふと高木さんが兄貴の腕を触れた。

「そう言えば、輝の部屋を見せてくれない?」


兄貴がちょっと首を傾げた。

「大学に入った時点で実家を出たから大したもんは残ってないよ?」


「ついでに残っている物を捨てるなり持ち帰るなりしてよ。

そうしたらあそこを書斎として模様替えするから」

母親が声を掛ける。


「あ、だったら部屋を解体する前に昔の思い出話とかを教えて貰えません、凛さん?」

高木さんがこちらに顔を向けて聞いてきた。

普通になんでもない顔をしているけど、オーラが緊張で蒼ざめている感じだ。


どうやら、来た時から考えていた相談事をする気になったらしい。


「良いですよ〜。

じゃんじゃん教えてあげましょう!」

そう言いながら立ち上がる。


父親は『え、なんで行っちゃうの?』って顔をしているが、母親は『何かあるのかな?』と言う顔をしているから、余程時間を掛けない限り邪魔は入らないだろう。


「こっちが兄貴の部屋です」

2階に上がり、右側の部屋の扉を開けて高木さんを案内する。


元々あった勉強机とベッドは残っているが、今は健康器具が幾つか置いてあるのでちょっと狭い。

考えてみたら、この健康器具って買ったのは母親だよね??

兄貴の物が無くなったとしても書斎にする前に健康器具を退けないと駄目なんじゃない?


「・・・この健康器具は俺のじゃないからね」

兄貴が高木さんに弁明するような感じで言う。

エアバイクはまだしも、もう一つのは確かにちょっとウエスト周りが気になる女性用の器具だよね、これ。


「これってスノボの練習に良いかもよ?

輝だって似たようなのを買おうかって調べてたじゃない」

くすりと笑いながら高木さんが指摘する。


へぇぇ。

スノボバカなのに、更にそれ用の筋トレまでしようと考えていたんだ?

ちょっと意味不明だなぁ。

まあ、どうでも良いけど。


兄貴が引き出しや棚の中を確認し始めたところで、高木さんが私の方を向いた。


「凛さん、輝が凛さんは退魔師として修行していると言っていたのですが、ちょっとご相談に乗って頂けますか?

私、まだ祟られているんじゃ無いかと思うんです」

高木さんが深刻そうに言ってきた。


うん?

別に悪霊も穢れも呪詛も見当たらないけど??








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