第762話 最初にしっかり話し合いましょうね
「高木 怜子です」
兄貴の彼女はすらっと背の高い中々の美人だった。
前回会った時はめっちゃ窶れていた上に背筋も曲がって猫背だったせいであまり印象に残らず、地味な人だなと密かに思っていたのだが・・・将来の義理の家族に会いに行くって事でおめかしした姿は兄貴には勿体無い程の美人だった。
やっぱ女って服と化粧と姿勢で化けるよなぁ。
まあ、考えてみたら男も服と髪型と姿勢で化けるけど。
要は人間、それなりに身嗜みを整えれば見た目の印象はかなり改善できるって事なんだね。
私も面倒がらずにちゃんと退魔師の依頼の時用に服を整えて髪の毛も美容院で切るべきかな?
幾ら碧と組んでいるからって事で守られるにしても、私個人を評価して貰うには見た目にもちゃんと気を配るべきなんだろう。
能力さえちゃんとしてれば良いじゃんと密かに思っていたが、こうも高木さんの見た目の印象が変わるのを目の当たりにすると、それなりに見た目に配慮したら劇的に第一印象が変わるのが理解出来るし、それをやらない事のマイナス面も想像できる。
前世ではお化粧品とかは現代日本ほど開発されていなかったし、髪型も貴族女性とかはまだしも魔術師は一握りのお洒落なタイプ以外はかなりおざなりだった。魔術師に求められる見た目の社会的な基準がかなり低かったんだよねぇ。
働いている時の服は大体ローブで済んだし。
王宮では下手に着飾ると
だが現世ではそんな事は無いんだから、しっかりそれなりに着飾らないと舐められそうだ。
去年の祟り騒動の時に兄貴から聞いた話だと高木さんはウェブデザイナーとして家で働いているって言っていたけど、外で営業でもやってバリバリに働いているって方がイメージに合いそう。
もっとも、美人すぎて営業なんかやったら取引相手のおっさんからウザ絡みされて大変なのかもだが。
なんかこう、女性って地味だと見下され、美人だとチヤホヤされるかもだけどセクハラを受けるかも知れない上に仕事を女の武器で取ったんじゃないかとか言われたりで、不利だよねぇ。
考えようによっちゃあにっこり笑うだけで仕事が有利になるなら、それはそれでズルイと男は思うだろうけど。
セクハラとかパワハラに関して世間の目が厳しくなったら段々そういうのも無くなるのかね?
とは言え、男尊女卑が当然の如く残る日本はまだしも、アメリカとかでも男女差の不平等さはノーベル賞を貰えるぐらい深刻な問題として未だに実在するみたいだからねぇ。
世の中の不公平さっていうのはいつの世になっても無くならないんだろうな。
まあ、それをいうなら金のある家に生まれたかどうかの格差の方がもっと大きいかもだし、日本の一般家庭に生まれたか、アフリカの農村に生まれたかの格差は更に絶大な差だろう。
世の中が人間に都合よく平等だと考える方が間違っているか。
それはさておき。
「ようこそ、いらっしゃい!
ごめんなさいね、ちょっと躾に失敗しちゃったせいであまり家の手伝いをしない男に育っちゃったから、結婚するならしっかり家事の分担は半々になる様に先に話し合っておく方が良いわよ〜」
何やら最初の挨拶で母親がかなり強烈な事を冗談っぽく言った。
兄貴が家の手伝いをしないのがそれなりに不満だったのかな?
やれって言ってもやらないで逃げる兄貴と母親はそれなりにバチバチやっていた。母は母で忙しかったから、反抗的な息子に無理やり家事を分担してやらせるよりは諦めて自分でやっちゃう方が早かったっぽいんだけどね。
もしかしたら、男だからって甘えんじゃね〜と躾けるのが自分の義務だと思っていたんかも。
その点に関してはほぼ失敗したけど。
まあ、私も前世の記憶が覚醒するまではおざなりにしかやらなかったから、日本の子供ってあまり家事を手伝うって意識がないのかも?
何と言っても父親が何もやらないしね。
残業ばっかで殆ど家にいないし、偶に週末にいても疲れているのかソファでうたた寝していることが多かった父親が家事をやっている姿はほぼ見た事がない。
子供って親の姿を見て育つからねぇ。
少なくとも兄貴は家事の半分を自分が負うべきとは言われなければ思い付きもしないだろう。
ウチの母親だって共働きなのだ。高木さんが働いていても家事は集まったゴミをマンションのゴミ捨て場に持っていく程度しかしないんじゃ無いかな?
まあ、今は一人暮らしで自分で家事をしているんだから(多分)、同居を始める際にしっかりそこら辺は話し合うんだね〜。
そんな事を考えながらそっとクルミを高木さんに近付ける。
ウチらの第一印象も一応知っておきたい。
藤山家みたいにハグをしたり握手をする慣習って一般的な日本人家庭にはないからねぇ。
今まで握手って殆どした事ないよなぁ、考えてみたら。
隠密型クルミが高木さんの背中にそっと着陸する。
『相談しなきゃ、相談しなきゃ、相談しなきゃ。・・・相談、できる・・・よね?!』
おや?
見た目の穏やかさに反して、なんか高木さんがグルグルと悩んでいるっぽい?
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