第759話 将来のリスク想定は重要

「よっ」

2階のベランダに出て両親の寝室の窓を拭いていたら、兄貴が現れて声を掛けてきた。


「お久しぶり。

結婚を考えているんだってね?」

去年の冬の祟り騒ぎの時にはそんな事は考えていないと言っていたのに。


死ぬほど苦しい思いをして、ちょっと人生について真面目に考え直したのかね?

もしくは彼女の方が考え直したか、子供を産むならそろそろ・・・と考えたのかも。


「まあ、歳を喰ってから子育てするのは大変だし、あいつ以外で特に結婚したいと思う相手には会っていないし、意味もなく遅らせて不妊治療なんぞに金と時間を掛けたくないからな」

肩を竦めながら兄貴が答えた。


子供が欲しいんだ?

私は子供どころか結婚も微妙に現実感がないんだけど、兄貴が子供を作ってくれるなら親に孫が出来て良い事かも。


とは言え、娘の子の方が身近に感じて結局『孫は?』コールを受ける事になる可能性もあるけど。


そう考えると、出会いが全くない生活を送るより、結婚相手としての可能性がゼロでは無い退魔師関係の人とちゃんとそう言うセッティングで会う様にして、ある程度は前向きに対処するべきかな?

時折ある退魔協会のパーティはいつも辞退しているけど、一応年に一度ぐらいは出る方がいいかも。


何もしてないで『出会いが無いのよ〜』と言うよりは、一応努力をして『良い人がいないの〜』と言う方がまだ許されそうだし、自分的にも後悔が少なそうだ。


まあ、どうしても結婚したかったら碧ママあたりにお見合いの手配を頼んだら古くからの退魔師ネットワークで業界に理解のある若い男性を探してくれそうな気がするけどね。

とは言え、考えてみたら碧と同じターゲット層になるからダブルデートもどきを推してくるかも?

・・・面倒そうだなぁ。

そこまで結婚したいとは思えないし、まだ良いや。


「ちなみにさぁ・・・」

兄貴がベランダに出てきて窓を閉めながら話を続けた。

おや?

何か話したいことがあるの?


でも寒いからさっさと窓拭きを終わらせるために作業を続けさせて貰うよ。

「なに?」


「退魔師の才能があるのってどんな感じに分かったんだ?

もしかしたら俺たちの子も才能が発現するかもしれないんだろ?

ちょっと聞いておいた方が良いかなと思って」

兄貴がちょっと聞き辛そうに言ってきた。


あ〜。

確かに結婚するんだったら子供に起きるかも知れない特異的な事は前もって検討して話し合っておくべきだよね。


悪霊や退魔師の存在を知らなかったならまだしも、妹に能力が発現している上に、実際に祟りを体験しているのだ。

無視するのは賢く無い。


「15歳ぐらいの時にふっと何か変なモノが視えたり聞こえたりする様になったんだけど、最初は気のせいだと思ったんだよね。だけど暫くしても消えるどころか強くなってきたしそれなりに自分の意思でコントロール出来たから、超能力っぽいモノがあるんだなぁって思ったんだ」

まあ、実際は前世の記憶も蘇ったから単に黒魔術師の才能だって分かっていたけど。


「親に相談しようと思わなかったのか?」

ヘラヘラしている事が多い兄貴にしては珍しい真面目な顔で聞いてきた。


「やっぱねぇ。

『超能力』なんて怪しすぎるじゃん。

精神科医に行きましょうなんて言われたら嫌だし、実際にこんな力があるって外部の人間にバレたら実験動物じみた扱いになるかもと思って自分でなんとか力の使い方を試行錯誤して覚えたの。

まあ、大学で碧に会って聞いたところでは実は退魔師の才能はそこまで極端に珍しいって訳じゃ無いし、退魔師の業務諸々に関する法律とかも存在するって話なんだけどね。

ついでに力の使い方も碧からある程度教えてもらったり、先祖の資料を見せて貰ったりしてるよ」

とは言え、私のケースはちょっと例外的だからなぁ。


「業務って・・・退魔師ってフィクションでしか聞いた事がないけど、ちゃんと職業として成立しているのか??」

ちょっと意外そうに兄貴が聞き返してきた。


「企業のトップとかは呪詛のターゲットになったりするし、旧家なんかは敷地にヤバい悪霊を封じていた慰霊碑があったりヤバい物が蔵にあったりって感じな事もあるから、意外と退魔師って日本でも上層部の人間は知る人ぞ知る職業らしいよ?

退魔協会って言う国が承認している業界団体もあるし。

一件ごとの依頼はそれなりに高額だから、一人前になれればそれなりに食べていけるかな」

今でもバイト代だけで実は生きていけそうだし。


とは言え、伝手がないと下手をしたら退魔協会にいい様に使い潰されるかもだけど。


「一人前になれたらって・・・お前が独学でなんとかなったんだから、才能さえ有れば大丈夫なんじゃないのか?」

兄貴がちょっと失礼な聞き方をしてきた。


おい。

妹だからって下に見るな。

私が天才なんだよ!

まあ、天才というよりは前世持ちの例外ってやつだけど、外から見た分には天才だよね。


「私は碧に会ってそれなりに教わったし、かなり才能がある方なんだと思うよ?

実際には普通に一般家庭で才能が発現した子が弟子入りしようと思ったらかなりお金が掛かるし、十年経っても一人前になれなくて挫折する人もいるらしいから、それなりに本気で本人がやりたいんじゃない限り、才能があっても封じて貰う方が良いかも?」

封じるのだったらいつでもやってあげるけど、弟子として姪か甥を引き受けるのは微妙だなぁ。


性格と才能が合うなら良いけど、甘ったれた子供に危険な能力を教えるのは嫌だ。

しかも連帯責任だし。







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