第755話 まだ終わらず

次男のおっさんの穢れを祓い、昏睡状態から覚醒させて大橋さん達に押し付けた後は残りのゴミと骨董品のチェックだ。


素知らぬ顔で碧がヤバいのを浄化する為に、今日も私が視て回って碧が随時ダブルチェックと言う形で作業している。


どうせ今日中で終わりそうだから別々に視て回って無理に効率アップする必要は無いしね。

明後日の餅つきまで残ろうと言う話になっているから、想定外な何かがあって1日遅れても大丈夫だし。


やっぱ源之助と一緒だと時間的に余裕があって良いねぇ。

大学卒業後に遠距離な仕事が多くなりそうだったら、キャンピングカーを買うべきかなぁ。

駐車するスペースや源之助にどう慣らさせるかとか、日中の暑さや寒さをどうするかと言う問題があるけど。


中々悩ましい。


まあ、それはまだ先の話だし、なんだったら枕が変わったら眠れないとでも言って泊まりがけの仕事は効率が下がるからと断るのもありかな?

結婚している退魔師が家族と一緒にいる為に泊まりがけな仕事を断れるなら、シングルだからって我々が泊まりがけな仕事を断れないのはおかしいだろう。

結婚しているか否かと退魔師としての能力は連動していないのだから、退魔師が仕事を選ぶ権利だって婚姻状態と連動するのはおかしい。だから思う存分不都合な依頼は断らせて貰うつもりだ。


そんなことを考えながら穢れが酷いのや、付喪神憑きや憑きになり掛けているのに付箋を貼っていく。

意外にも、ゴミにしか見えない物にも付喪神憑きが多かった。

いや、もしかしたら付喪神憑きだと分かっていて、捨てたら祟られかねないって事で蔵に押し込んでいたのかも?

付喪神憑きのって修理が難しいのだろうか?

それなりに大切に使われるだけの何かがあって長年使われてきたんだろうから、近年の技術進歩で使う道具が変わってきたのならまだしも、昔だったら修理して使えば良かっただろうに。


それとも付喪神憑きって修理の仕方が拙いと祟るのかね?

いい加減な修理をしたら怒るって言うのはありそうだから、付喪神憑きの修理に関して失敗すると祟られるって噂が流れてやりたがる職人が見つからなくなっても不思議はないのかな?


「これ、どう思う?」

またもや付喪神憑きなゴミを見かけて碧に渡す。

『ちょっと危うい感じがするから、浄化しちゃった方がいいと思う』


『だね〜』

「違うんじゃ無い?軽い穢れって程度?」

霊力を流し込んでちょっと穢れを溜め込み始めていた付喪神を浄化しながら碧が返してくる。


ゴミに付喪神が憑いていても、修理してまで使わないだろうからどうせ祓うだけなのだ。

そうなると危ういのは悪用してしまえと判断されそうだからねぇ。


そんな感じでテントにあった物を調べまくり、5品ほどコッソリ浄化したところで鑑定終了。


「終わりました。

付箋を付けたのが付喪神憑きか穢れが酷い物ですね。

穢れが酷いのに関しては祓うと言う事でいいですか?」

碧が後ろから付いて歩いていたら大橋さんに声を掛けた。


「いや、こちらの硯に関してはちょっと思い入れがあるので祓わないでくれ。

残りの穢れが酷いものはよろしく頼む」

後ろから現れた長男が和かに声を掛けてきた。


マジか〜。

本当に穢れが酷いのをとっておけって言うとは思いたく無かったんだけど、言ったわ。

誰に使う気なんだろ?


まあ、穢れといってもブラック企業で普通に溜まる程度っぽいから、余程身体が弱っている人にでも使わせない限り取り敢えず問題はないと思うけど。


水島家も次の世代ぐらいで血で血を洗う後継者争いが無くなると良いんだけど。

最近は少子化で跡取り争いもライバルが減ってきたから、少しはマシになるだろう。

多分。


「そう言えば、お二方による鑑定は終わりましたが骨董品の専門家達の鑑定が終わっていないので、もう1日こちらにいらして頂けませんか?

作業が3日掛かった扱いで報酬を払いますので」

大橋さんが微妙な顔で長男の方を横目で見ながら提案してきた。


「先ほどの硯以外は穢れは祓いますし、付喪神憑きに関しては大切に扱えば祟りませんよ?」

碧がちょっと首を傾げながら応じる。


「ええ、ですがうっかり躓いて何かを踏み壊してしまったりした場合に祟られたらと心配する人間も多いので、専門家達が終わる明日まで是非お願いしたいのです」


まあ、もしもの時の対処人員にいて欲しい気持ちは分からないでも無い。

でも、1日中いる必要はないよね?

半日待たずに被害者が死んでしまうようなキツいのは無いんだから。

ちらっと碧を見て、頷いたのでこちらからの条件付き承諾の返事をする。


「では、午後から来ると言う事でどうでしょう?

午前中に何か緊急事態が起きたら電話を頂ければ来る時間を早めますから」


大橋さんはちょっと顔を顰めたが、無理強いしても得るものはないと思ったのか穏やかな顔で頷いてみせた。

「ええ、それで結構です」


やれやれ。

1日が半日になったのは良いけど・・・明日は半日ここで何をすればいいんだろ?



「さて!

今日は帰ったらケーキだ!」

車に乗ったら碧がウキウキと言った。


あれ?

「今日は25日だよ?」

クリスマス当日ではあるが、ケーキってイブじゃない?

昨日は何も出なかったら、神社ではクリスマスは祝わないのかと思っていたんだけど。







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