第754話 やり過ぎじゃ無い??

ヤバい3品を浄化し終わったら水島家次男のお祓いをするのだが・・・先にちょっと記憶を読んでみる事にした。

病的な性格異常があるんだったらやっぱ何かやっておく方が後で後悔しないで済む。


と言う事で、おっさんの額に手を触れねば。

中年のちょっと汚れたおっさんの素肌なんてあまり触りたくないんだけど、直接肌に触れる方が肩とかに手を当てるよりも奥深くまで素早く確認できるからね。


直近の記憶を確認するのではなく、早送りみたいな感じ過去まで遡って本人の考え方とか気質を知ろうとするならば、それなりにしっかり読み取る必要がある。


何かの才能を悪用しているのが分かっている相手だったらそれを軸に調べれば良いんだけど、この人の場合はもっと漠然とした話だからねぇ。


『金』とか『遺産』だけでなく、『ヤバい悪霊付きなブツ』とか『兄との争い』とかその他諸々の事も含めて、ちょっと確認したい。


全体的なオーラはちょっと汚い濁った色だから善人じゃないのはほぼ間違いないんだけどね〜。

どの程度悪人なのかを確認したい。


埃と皮脂で薄汚れた額に人差し指を当て、今までの生涯を早送りで読み取っていく。

人の精神の中に人生のダイジェスト版な記憶なんて都合よく存在しないので、特に悔しかったり嬉しかったり怒ったりしたような強い感情とその周辺の記憶を拾っていくんだけど、時折どうでも良いと思える様な事にも大きく感情を揺り動かされていたりして、それなりに時間が掛かる。


暫くして、大きく息を吐きながら手を離して背を伸ばす。


『・・・どう?』

碧が念話で聞いてきた。


『なんかねぇ。

水島家って長男・次男どころか本家の人間じゃなくても有能だったら跡継ぎに選ばれるらしい。その一環のつもりなのか、親族が自分達とか親の世代の後継者争いの話を嬉々として子供達に聞かせて育てるせいで、めっちゃ殺伐とした子供時代を過ごしている感じだね』

本人だけじゃなくてさっきの兄貴も。

お互いを『血の近しい家族』ではなく『場合によっては殺し合いも起きるかも知れないライバル』って見做して育っているから足の引っ張り合いとか陰口とかが凄いっぽい。


年が上だったせいもあって兄の方が上手に弟を貶して無能だと言う印象を周囲に植え付けるのに成功したようだ。

このおっさんもずば抜けて頭が良いという訳では無いのだが、平均よりちょっと上程度(本人の意識ではだから、実はもっと馬鹿か賢い可能性もあるけど)なので普通に頑張ればそこまで問題視されない程度には勉強も運動も出来たのに、『努力もしない甘えた役立たず』と言うような印象を巧妙に兄が周囲に植え付けたせいで、次男が頑張ろうと認められず、諦めたらニート扱いという感じで、それなりに哀れな印象も受けないでもない。


まあ、大学生になって親元を離れた時点で『金の力あり、兄なし』な環境になったのに、良い方向ではなく悪い方向に伸び伸びと羽を伸ばしてしまったのは同情する余地もないが。


元々地元で『残念な落ちこぼれ』扱いされていたと感じていたせいか、大学に出ても落ちこぼれや破落戸予備軍みたいのを仲間として選んだのだ。


争いを唆すような親族や兄の誘導をあっさり受け入れる親の元を折角離れたんだから、新しい出発だと思って過去に見切りをつければ良かったのに。


結局、後ろ暗いような世界の人間と付き合い、金や脅しで思うように人を動かそうとする長男の劣化版みたいのになっただけだった。


『水島家ってお家騒動が多い一族だって言うのは聞いていたけど、それって直接争いに関わらなかった親族までもが一族内での争いを当然と思って子供にも話しているからなのかぁ。

一般論的に何か問題がある時に大人が子供に何も知らせようとしないのって間違っていると思っていた事もあったんだけど、人の争いの話なんて子供には知らせない方がいいんだねぇ』

碧が呟いた。


マジでなんだって子供に兄弟間での跡取り争いを促すような話を言って聞かせたのか、気が知れないね。

従兄弟とかがかなり年が離れて下だったせいで後継者争いに含まれず、二人きりの兄弟で争う感じになったのもヤバさを凝縮する効果があったのかも。


一番有能な人間をトップにする事で一族が繁栄するって考えなんだろうけど・・・ついでに後継者争いで殺し合って数を減らす方が遺産が分割されなくて良いとでも思っていたのかも?

下手をしたら共倒れだろうし、生き残る人間が有能とも限らないだろうに。


まあ取り敢えず、この男は過去の記憶を遡っても特に善人って訳ではないけど、病的な殺人鬼とか極端に周囲に害を撒き散らす迷惑な人間でも無いみたいだから、普通に浄化するだけで良いや。


だけど。

『やっぱ、人を陥れたり殺したりするのに使えそうな特に危険な悪霊憑きっぽい物があったら何も言わずに何食わぬ顔で浄化しちゃわない?

どうせ物の浄化に関しては数じゃなくて日数での報酬だし、下手に『これは思い出の品なので手を加えないで欲しいです』なんて言われて浄化せずに取り戻されたら、長男の方にえげつない方法で悪用されかねないと思う』


はっきり言って、この次男の記憶にある長男からの嵌められ具合は中々怖い。

こいつ程度の能力で、しかも弟なのだ。

そこまで徹底的に叩く必要なんか無かっただろうに、かなり容赦なく貶めていた。


そう考えると、あの長男って過剰防衛気味な手段を選ばない人間っぽい気がする。

下手に危険な武器を手に出来る状況にすると、それを『もしもの時の為に取っておこう』と考えかねず、しかも自分が脅かされたと感じたら躊躇せず手元にある武器を使う気がするんだよねぇ。


『そっか。

そうだね、その方が無難だよね。

ヤバそうなのは私に確認を確かめる為に声を掛けるって形にして、私が霊力を流して力技で清めちゃう感じで良いかな?』

碧が反対せずに応じてきた。


『うん、それでいこう。

じゃあ、おっさんを浄化するね』


外で聞いている人用にそれっぽい祝詞を唱えながら魔力を込めて穢れを祓い、ついでの昨日の記憶もぼんやりとしたものにしておく。


あとは碧が昏睡の状態異常を解除したら終わりだね。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る