第753話 熾烈な争い
浄化してくれとに事なので、まず先に刀を昨日持ち込んだ鎌と血判状の所へ戻し、浄化した。
さて。
問題はおっさんの方なんだよねぇ。
妬みや怒り、恨みといった感情は穢れを生み出す。
そして穢れに侵されると余計に負の感情に囚われやすくなるので、穢れとマイナスな感情って悪循環で相乗効果のある組み合わせなのだ。
ここで刀からの汚れだけでなく、自分で生み出して溜め込んだ穢れも綺麗さっぱり取り除いたら少しは性格が良くなって暫くの間は怒りっぽさが収まり、妬みや恨みの感情も減るだろう。
だけど。
結局、努力が嫌いな性格とか、プライドの高さとか、地の能力の低さっていうのは穢れとは関係ないからねぇ。
つまりは性格をがっつり修正しない限りそのうちまた負の感情を自己生成するのは確実で、妬みやすい性格を無理やり黒魔術で修正するのは・・・多分無理だろう。
怠け者な人間でも、子供の頃から努力に対する成功経験を積ませればある程度『努力=自分にとってプラス』と刷り込まれてそれなりに努力するような性格に修正出来ることもあるのだが、既に大人になった人間の性格はそう簡単には修正できない。
精々可能なのは高いプライドを木っ端微塵に砕く程度だが、それはやったら単に卑屈な人間が出来上がるだけで、妬みや恨みといった負の感情を感じることに変わりは無いだろうし、妬みすら感じないまで徹底的にプライドを打ち砕くと人格が崩壊しかねない。
一緒に暮らす人間だったら四六時中思考誘導する事で行動を徐々に修正して行く事も多少は可能かもだが、短時間の遭遇で何か成し遂げるのは無理だ。
『なんかさぁ、絶対将来何かやらかしそうなおっさんを放置して良いのかなぁ?』
思わず碧に念話で愚痴った。
『うん?
どういう事?』
『ある意味、私達が干渉した事でこのおっさんは悪事を働かなかったじゃん?
もしかしたらここで誰かに襲いかかって殺人未遂で収監されるとか、精神病院に入れられればこれ以上の悪事をできなかったかも知れないのに、被害を未遂で止めたから将来さらに大々的に悪事を働くかも?と思うと何か行動規制を埋め込むべきなのかなぁなんて思っちゃって』
今まで行動に条件を埋め込んで悪事をやろうとしたら強制的に体調が悪くなったりして実際に他者を害せないようにしてきた人間は、既に何かをやらかしたのを見つけた後だったからあまり倫理的な問題は気にせずにがっつり黒魔術を使った。
だが、今回は本人が何をしたかは微妙に不明なままだからどこまでやって良いのか、明らかじゃあないんだよねぇ。
『止めたのは私だけど、あまり気にしなくて良いんじゃ無いかな。
多分これからも彼は基本的に長男に対して色々と企むだろうけど、長男もそれなりにえげつない性格だって話だから、マジで刀を振り回して襲ってくるとかじゃ無い限り十分自力で撃退できると思うよ』
碧が肩を竦めながら応じた。
おや?
もしかして、水島家って性格が悪い人が多いのかな?
確か来た初日に碧ママがあの水島家とかなんかそんな感じで言っていたよね、考えてみたら。
『単に古くからある旧家ってだけでなく、水島家って一族の性格的にもそれなりに悪名高い感じなの?』
『なんかこう、長男では無く一族の中で一番有能な人間が跡を継ぐって方針な家だからか、江戸時代からちょくちょく血生臭いお家騒動をやってきた一族らしいんだよね。
一族の中での主導権争いは熾烈極まりないって話だよ』
碧が教えてくれた。
うわぁ。
もしかして、この敷地って掘り返したら出奔した筈の一族の白骨遺体とかがあちこちから出てくるのかね?
それとも熾烈極まりないってことは自殺に追い込むとか?
まさか自殺に見せかけて殺すなんて事もあるの?
考えてみたらあの鎌の悪霊って誰が被害者なのかは確認してなかったからなぁ。
もう浄化しちゃったので確認のしようがないけど。
てっきりそこらへんの浮浪者とか。昔の小作人とかの血を吸ってきたのかと思ってきたけど、実は違ったの??
取り敢えず。
普通に穢れを祓うだけで済ますか。
そんでもって、なんかヤバそうな悪霊とか危険そうな付喪神付きな物が出てきたら依頼主に報告せずに問答無用で祓っちゃうべきかも?
なんとも心苦しい依頼だ・・・。
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