第752話 どうします?

ぐいぐいっと男性が二人がかりで押したら蔵の扉が開いた。


「健二さん?!」

と言う声が上がったので、やはりあのおっさんが昨晩忍び込んで出る時に昏睡結界に引っ掛かったらしい。


「触らないで!!

危険かも知れませんから、私たちが入って安全を確認して必要があったら浄化の術を施します」

碧が指示を出す。


碧の声って特に大きい感じではないのに、良い感じに通るんだよなぁ。

ちょっと羨ましい。

今だったらマイクとかを使えば大々的に声を響かせる必要があったら機械でなんとでもなるけど、ちょっとした場面で指示を出す時なんかにすっと声が皆に通るって言うのはとても便利な才能だ。


ある意味、軍の士官とか政治家に向いていそうかも?

まあ、現代日本ならマイクとか携帯とか無線とか、色々と音を伝える手段はあるから極端には関係ないんだけどね。


私だって魔力を乗せて『注意を引く』と言う意識誘導を意図して話せば皆が傾聴してくれるのだ。

ズルをすれば同じ効果を起こせるんだから、文句を言ってはいけないだろう。


「秀治、退魔師の方々をお通ししなさい」

大橋さんが無表情に指示を出した。


次男のやらかしを予想していたんだろうなぁ。

どうせなら死んでいて欲しいと思っているかもだが、残念(?)ながら扉の向こうに生きた人間の精神が視えるから、死んではいないね。

精神異常を起こしているかもだけど。


外からでは何やら異常が起きているっぽいのは視えるけど、詳しい事は分からない。


「失礼」

蔵の入り口にいた男性陣を避けて中に入る碧に続く。

入り口のそばの床に刀が転がっていた。


危険度としては鎌の方が高かったんだけど、やっぱ武器といったら刀だよね〜、

近くで確認してみたところ、こっちの刀は穢れだけだった筈なんだけど側で一晩昏睡していたおっさんにかなりの部分の穢れが移った感じで、刀の方はちょっと危険度が下がっている。

それでもまだ穢れがそれなりに蓄積しているけど。


穢れに汚染されたおっさんの方は攻撃意欲が激増状態で、ちょっとしたことで激昂して人を殺そうとしかねない感じだ。

放っておいたら誰かを殺すか、一年以内に癌か何かで死ぬかな?

穢れもそれなりに体に悪いからなぁ。

穢れに侵された人の性格によっては他者を殺そうとするのではなく自分を殺そうとする場合もあるのだが・・・そっと触れてみたおっさんの性格ならまず間違いなく他者を殺す方にいくだろう。


まずは気に入らない兄を殺し、自分の有能さを認めない母を殺し、その後は母の金で豪遊したいという想いが昏睡状態にあるおっさんの意識に夢として浮かんでいる。


おいおい。

跡取りな兄貴を殺そうと考えるのは分かるけど、母親まで殺す気なんだ。

どう考えても上手くいかないと思うけど、穢れとか悪霊に侵された人って極端に短絡的になる事が多いからねぇ。


まあ、その分早く捕まるんだけど・・・殺された人間にとっちゃあ良い迷惑だろう。


「刀の穢れにガッツリ侵されているから祓わないと蔵から運び出すのすら危険だけど、健康状態の方はどう?」

碧に尋ねる。


「感染症になっている感じで・・・肺炎になりかかりかも?」

さっとおっさんを見渡して碧が言った。


『肺炎が拗れて死んだりしないかなぁ?』

碧に念話で尋ねる。


『何か合併症でも起こさない限り、今の状態だったら病院に運ばれたら回復するんじゃないかな?

死んだ方が良さげ?』


『殺意はありまくりだから、死んだ方がいいかもとは思うけど、殺す訳にもいかないからね〜。

取り敢えず、うっかり碧の魔力で病気が治らないように私が祓うね』

碧は魔力自体が治療特化だから、祓ったら体調を改善しかねないからね。


できればこのおっさんには肺炎で長期入院でもして貰いたい。


手袋を嵌めた手で刀を拾い上げ、蔵の扉から顔を出す。

「どうやら刀を盗もうとして刀の穢れに当たってしまったようですね。

刀とこちらの男性を一緒に祓ってしまって良いですか?」

そばで覗き込んでいた大橋さんに尋ねる。


いつの間にか倒れているおっさんと少し似たところがある男性が大橋さんの横に立っていた。

これが跡取りの長男?


・・・考えてみたら、この水島家とやらには娘はいないのかな?

兄弟二人だけ?


たまには跡取りが女性な旧家に仕事を依頼されてみたいね〜。

まあ、女性だったら呪詛を受けるほど恨まれる仕事の仕方はしない可能性が高いのかもだけど。

女性の場合は仕事よりも結婚とか家庭の事で『恵まれている』と妬まれて呪われそうな気もするが。


普通に旧家でも女性を跡取りにする様になるのにはあと何十年かかるんだろうね?


「健二の様子はどうだ?」

大橋さんの横の男性が私の問いに応じた。


「重度の穢れを蓄積していた刀に素手で触ったせいで穢れに侵されたので、このまま祓わないと意識を取り戻したら包丁を持ち出して周囲の人間を殺そうとする可能性が高いかもですね。

あと、息が荒いので寒い蔵で夜を過ごす間に風邪をひいた可能性が高そうです」


さて。

どう指示するかな?


「そうか。

危険ならまず刀と健二を祓ってくれ。

その後病院に連れて行かせよう。

昨日見つかった危険だと言う鎌と血判状も一緒に祓ってしまって欲しい。

私が来るまで祓うなと健二が指示したようだが、退魔協会から派遣された退魔師のお二方は信頼しているし、見たところで危険かどうかなんて私には分からないから、さっさと清めてくれて構わない」

あっさり祓うようにと指示された。


ふうん、そう。

おっさんに殺人未遂をさせて排除しようとは思わないんだね。











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