第749話 悪事を見逃すのもダメだよね
昼食や3時のおやつを挟みつつ大型テントの中の物を確認して回ったところ、ちょこちょこ付喪神憑きがあったが、マジで危険なのはあの武器二つと・・・血で書かれた様な怨念まみれな血判状(多分)だけだった。
まあ、夕方になってもまだ3分の1程度残っているので終わるまでに更にヤバいのが出てくるかもだけど。
「じゃあ、取り敢えず危険そうなのを浄化しておきましょうか。
誰かがうっかり触ったら危険ですから」
5時前になって、帰る準備を始めようと区切りのいい部分まで終わったところで碧が付き添っていた大橋さんに声を掛けた。
ゴミも多いがそれなりに価値がある物も含まれるっぽいのだ。
専門家に鑑定させた事で価値がある本物が分かった事で盗まれる可能性が高くなっただろうから一応見張りをつけるとは思うが、悪霊とかを信じない人間が見張りの中に居たら『危険』だと付箋を付けたのを触るアホが出てくるかも知れない。
単に悪霊に憑かれて馬鹿が明日の朝まで苦しむ程度なら構わないが、あの鎌とかを手にとった事で突然周囲の人間に襲い掛かったりしたらヤバい。
多分蔵から出した時は作業をした人間は手袋か何かをしていて直接鎌に触れなかったから取り憑かれなかったのだと思うが、素手で触った場合は余程精神力が強く無い限り悪霊の悪意に飲み込まれかねない。
危険だと分かっている凶器に敢えて触れる様な馬鹿だ。
精神力が強いとは思えない。
他の貴重品が盗まれる分には勝手にしろってところだけど、退魔師として『危険です』と見極めた物を放置する訳にはいかないだろう。
「そうですね、お願い・・・」
「いや、明日全部纏めてやって貰えばいいですよ!」
大橋さんの言葉を後ろから現れたおっさんが遮った。
誰だよ、こいつ。
「健二さん・・・幾つか危険そうな物がありましたから、先に浄化してもらえるならさっさと無害化すべきです」
困った顔をしつつも大橋さんがおっさんに反論する。
苗字じゃなくて名前で呼ぶって事は水島家の法定相続人の一人なのかな?
見た目のゲスさとかアホな提案から考えるに、こいつが遺産相続でゴネそうと危惧されている迷惑野郎っぽい気がする。
「兄さんも今晩来るんだろ?
先に『跡取り』として兄さんに一度見てもらってから、明日『退魔師』の方々にやって貰えば良いだろう」
こいつ、兄貴を妬んでいる上に退魔師がヤラセだとでも思っているのかな?
ヤラセならヤラセと思っていて構わないから、さっさと浄化させて欲しいんだけど、
どうせ霊感がないなら浄化しても『微妙にオドロオドロシイ雰囲気が無くなった・・・かも?』って言う程度にしか分からないだろうし。
長年の埃とかがこびり着いているから、浄化しても薄汚い見た目は変わらないし。
崩壊しそうな位ボロボロな躯体だと憑いている悪霊が抜けたら崩れ落ちるかも知れないが、血判状はまだしも、刀や鎌は本体は残るから待つ必要は無いと思うんだが。
とは言えここで下手に口を出して後で変な言い掛かりを付けられても面倒だから、黙って依頼人側の指示を待つけど。
しっかし、悪霊の存在を信じてないならなんだって我々が浄化するのを妨害するのかね?
誰かに使わせて今晩来るとか言う兄を殺そうとでも考えているのかな?
別に人殺しは悪霊憑きな武器じゃなくっても、それこそ台所にある包丁でも出来るんだけどなぁ。
もしかして、悪霊憑きな武器を使ったら人を殺しても罪に問われないとか考えているのだろうか?
心神喪失状態を主張できるとでも思っているのかね?
だが意図的に浄化させるのを止めて使ったんだから、悪霊に憑かれる前に計画していたのがモロバレでしょうに。これじゃあ心神喪失は主張できないと思うし、マジで気が狂ったら意味がないだろう。それに悪霊に乗っ取られたら、自分が狙う相手を都合よく殺せるとも限らないよ?
悪霊って『悪意』が強い『霊』だから『悪霊』なのだ。
自分を利用しようなんて思って態と憑かれる様なことをしても、殺したい相手以外を皆殺しにするとか、絶対に殺すつもりがなかった人間だけを狙って殺すとか、嫌がることを狙ってやるよ?
大橋さんが食い下がっているが、どうやら本家の人間としておっさんの方が発言力が優先されるべきと見做されているのか、そこそこ長い間言い争っていたものの結局最後には大橋さんが折れた。
う〜ん。
おっさんが何か悪事を計画しているなら下手に止めるよりはここで警察に捕まる様な違法行為をやらせる方が周囲にとって安全だと思うが、都合よく誰も死なさずに違法な行為だけをやらせるって言うのは難しい。
他人事だからって放置して人が殺されるかも知れないのを看過するのは人間としてダメだろうし、カルマ値的にもヤバいだろう。
どうすっかね?
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