第747話 観光資源にしたら?

「旧家の蔵って古い庭の手入れ用道具まで入っているんですねぇ」

ずらりと並べられた品の中に折れた熊手のような物まであるのを見て、思わず『ゴミ屋敷の蔵バージョンか!』と心の中で突っ込みを入れてしまった。


「3代前の当主が何でも修理して治す主義な人だったもので・・・。

その時代にゴミが増えすぎて、今ではゴミなのか古い由緒ある物なのかも分からなくなってしまって、専門家に見てもらおうにも呪いの品がありそうだと嫌がられてしまって困っているんですよ」

入り口で迎えてくれた大橋さんとか言う男性が溜め息を吐きながら説明してくれた。


バスケットコートサイズの大型テント一杯に並べられた諸々を見て回っている人達は、『退魔師が居るから安全!』と言う事で呼び込んだ専門家なのかね?

一応、依頼ではヤバい物の浄化と、扱いによってはヤバい物の仕分け、及び物を扱って憑かれたり呪われたりした人の対処をする事になっているけど、テントへ出す人だけでなくついでに鑑定する人の浄化も含んでいるとは思っていなかった。


まあ、人間の浄化は成功報酬と言うか必要になった人数分払われる契約なんで構わないけど。

考えてみたら退魔協会に依頼を出すとその度に調査料も取られるんだから、一気に全部やっちゃう方が安上がりではあるよね。


うちらが終わった後でも良いじゃんとも思うが、呪われたり悪霊に取り憑かれたら退魔師がその場で浄化しますって言う方が人を呼びやすいのかな?

それとも単に、切実に時間的制約がヤバいのかもだけど。


お偉いさんとかお金持ちって自分の都合は常に最優先させたがるからね。

急ぐのだって本当に切実なのか、単に誰かの頭の中にあるスケジュールに合わせる為なのかは分かったものではない。


取り敢えず、私たちは頼まれた仕事をこなしていけばいいだろう。


今日は私が視ていって碧がダブルチェックと言う形でやっていくことにしている。

付喪神憑きは一応藤山家にあったのを見せてもらったが、あっちの家のは普通に大切に扱われている付喪神憑きなので蔵に放置されて休眠状態だったのとかと違う可能性がある。

慣れてなくて見逃したら不味いから、一応最初にやってみて見逃しが無いか確認しようとなったのだ。


と言う事で端から始めたのだが・・・右端の方のは捨てられない当主が溜め込んだゴミなんじゃないかな?

見るからに価値がなさそう。

まあ、骨董品なんて素人にはゴミと見分けが付かないものもあるのかもだけど。

少なくとも付喪神が憑く程大切に長く使われた物ではないのは確実だと思う。


一ブロック分を全部を霊視し、魔力で軽く触れながら確認するがやはり怪しいのはなかったので一旦立ち止まり、碧に確認する。

「ここのは大丈夫よね?」


「うん、普通の中途半端に古いゴミだね」

碧があっさり頷く。


そっか、ゴミでも十分古ければ価値があるのか。

・・・微妙〜。


次のブロックは武器系だった。

刀や槍と一緒に鎌とか折れた刀っぽいのも並べてある。

折れた刀は打ち直して再利用するつもりだったんかね?

それとも誰か刀の蒐集家が先祖にいて折れたのまで集めたとか?

名工の刀でも、折れたらダメなんじゃないかと思うけどねぇ。

蒐集品は実際に誰かを切る為に使う訳ではないからいいんかね?


そんな事を考えながら視ていたら、一つかなり穢れを溜め込んでいるのがあった。

「これは穢れが凄いから危険そう」

ピンクの付箋を付けておく。


武器はねぇ。

やっぱ血や命を吸って変質するのが出てくるようだ。

前世もやっぱヤバい変質は武器が圧倒的に多かった。


更に視ていったら今度は悪霊憑きな鎌が出て来た。

ありゃま。

なんかこれは不当な人殺しに使いまくったのか、殺された霊が恨みで悪霊になって憑いている。

こっちは赤の付箋だ。

確実にダメだね。

よくぞ蔵から持ち出した人が、鎌に触れて殺人衝動に囚われてこれを振り回し始めなかったもんだ。


そう言う危険性があるとなったら、確かに高校生を1ヶ月拘束する事になってもヤバい蔵の整理に退魔師を欲しがるのは分かる。


でも、それだったらちゃんと退魔師の報酬をフルに払うべきだったけどね。

普通にある搾取案件だったって話だけど。

まあ、考えてみたら旧家って言っても残っているのは不良資産紛いな不動産が多くて現金の支払いは厳しいって言うような金がない家も多いだろうから、ヤバい蔵の整理は頭が痛い問題なんだろうなぁ。


それこそボランティアで寄付代わりに退魔師がそう言う旧家の問題解決に協力できる制度にしたら良いのに。


お金を寄付したら所得控除になるのに、タダ働きで時間を寄付してもダメなんだからやりたがる人もいないのは不思議はない。

まあ、お金の寄付だって相手が誰でも所得控除が認められる訳じゃあないんだろうけど。


そう言う日本の歴史的資産を活用しやすくするための活動に、もう少し国にも柔軟に対応してもらいたいところだね〜。

ヤバい蔵の中を整理して安全に人が見れるようにしたら、観光名所っぽい利用だって可能だろうに。


観光立国を目指すとか言っているんだから、観光資源を掘り起こして活用できるシステムの構築を頑張ってくれ。


人気取りな行き当たりばったりでその場限りの政策や、利権になるような予算が何故かやたらと多い対策ばかりを講じるんじゃなくて、もっと税金を使い過ぎずに日本の将来に繋がる堅実な方法をきちんと考えて欲しいよ。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る