第745話 間に合うとは。

全て蔵の中の物を出し終わって評価の記録を取る人材を準備したら声を掛けてくれと退魔協会に返したら、どうやら依頼人側はマジで切羽詰まっていたのか、1週間で連絡が返ってきた。


蔵のサイズが同じとも、中に押し込まれている物の量が同じとも限らないが、碧が他の人と一緒に扱き使われて1ヶ月も整理に掛かったような作業が1週間弱で終わるとは、凄い。


やはり金の力は違うんだね〜。

まあ、単に碧が行きあたっちゃった依頼の段取りがやたらめったら悪かっただけなのかもだが。


それとも遺産を望む親族全員に蔵の物を出して整理するのに手伝わなければ遺産相続を法定遺留分ギリギリだけの、売るのにも苦労するような不便な土地にするとでも脅してこき使ったのかな?


ある意味、遺産相続を滞りなく行う為の苦行なんだから、相続人をこき使うのが正しいだろう。

付喪神憑きかも知れない骨董品を盗む蛮勇があるアホならこっそり運び出している骨董品を盗んだって好きにしろってところだろうし。


取り敢えず、どうやったかは知らないが準備が出来たと連絡が来たので依頼の報酬を合意してバンをレンタルし、諏訪の方へ向かった。

ちなみに数日掛かる予定なので、源之助を連れて藤山家に泊まる事になっている。

ついでに美帆従姉妹さんのところで温泉も楽しむ予定。

冬だからゆったり浸かって暖かさがじんわり骨まで染み込むのを楽しめそうだ。


寒いので依頼をこなしている間中ずっと源之助をバンで1日待たすのは可哀想だし危険かもと言う事で前の晩に藤山家入りし、源之助を碧の部屋に落ち着かせて一晩明かし、そのまま部屋にシロちゃんと一緒に閉じ込めて依頼人の所へ向かうのだ。

源之助はちょっと不満かもだが、馴染みになってきたダンボールの棚型ベッドや匂いの染み込んだタオルとか色々持って行くので、多分それ程ストレスは溜まらないと期待している。


一応入り口付近に源之助用の猫避け結界っぽいのを展開して部屋から出ようとしないようするつもり。

GPS付き首輪もしてあるので、万が一のことがあって部屋から抜け出しちゃっても追い掛けられる筈だし。

首輪にはクルミの分体も付けてあるので源之助に異変があったら直ぐに分かるし。

ここまですれば、大丈夫だよね?


なんかねぇ。

犬って遠出に連れ出しても勝手に脱走しない印象だし、迷子になっても匂いで飼い主を見つけて戻って来てくれそうな気がするけど、猫って車とか犬とかに驚いてうっかり変な方向に逃げたら戻って来れなそうなイメージなんだよねぇ。


猫だって人間よりは嗅覚が鋭い筈なのだが、ポロッと床に自分で溢したドライフードに気付かずにこちらにお代わりアピールをしているのを見ると、意外と猫の嗅覚って大したこと無いんじゃないかという気がする。


猫が匂いを辿って遠くから飼い主を見つけるって話もあまり聞かないし。

猫は犬と違ってそこまで根気よく飼い主を探してくれるかも怪しいしねぇ。

遠出した際に脱走されて逸れたら、不届で至らぬ下僕が探しにくるのを待っている間に物陰で凍え死んでしまっていそうで心配だ。


だから連れ出す時は絶対に逸れないように厳重に安全策を講じないとね。

そこまでして連れ出すべきかと言うのはちょっと微妙な所なんだけどねぇ。

でもまあ藤山家の碧の部屋には比較的慣れてくれたっぽいから、青木氏の猫部屋に預けるより多分良いんじゃないかと思う。


子猫の時ならまだしも、成猫になった今では他の猫と同じ部屋に閉じ込めたら喧嘩しそうだし、馴染みのない場所に連れて行かれると言う事に変わりはないんだから。


「なんか中途半端な時期に帰省する事になっちゃったから、年初はもう帰らなくて良いかなぁ」

高速から出るためにバンのハンドルを切りながら碧が言った。


「まあ、家族の顔を見るためってだけだったら確かに必要無いかもだけど・・・お正月のお節料理とかは?」

一応私の実家も母が多少はやる予定だ。

今では殆どはデパ地下で予約しておくらしいけど、チキンの照り焼きの冷肉?みたいのは毎年作ってくれるんだよね。


はっきり言って、私にとってのお正月料理ってあのチキンと、伊達巻きとお餅程度だからお節料理よりも家族に会うことがメインなんだけど、藤山家はどうなんだろ?


「ウチは年初は忙しいからねぇ。

母が氏子さんたちと一緒に色々と準備するけど、殆どは年初に訪れる氏子さんたちやバイトの巫女さん達に振舞われるから、3が日を過ぎて帰省しても残っているのはお餅程度よ。

まあ、餅はお正月についてるから店で買うのより新鮮で美味しいのは認めるけど」

碧が言った。


そっかぁ。

なんかこう、氏子さんが優先されちゃう感じで・・・聞いているとやっぱ神社もサービス業なんだねって印象だ。


「よし!

餅の為だけに帰らなくても良いや。

もしかしたら依頼が長引いて餅つきに間に合うかもだし」

碧が力強く頷きながら言った。


良いんかい。

まあ、もうお年玉を貰う必要もないしねぇ。

明後日のクリスマスを一緒に過ごせそうだし、これはこれでありか。








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