第743話 ちょっと切ないね
「そう言えばさ、蔵にあるヤバい物って悪霊憑きな物とかなの?」
退魔協会の職員からの電話が終わり、ふと碧に尋ねる
悪霊憑きだったらちょっとやそっとの封印程度で碧が見過ごすとも思えないし、ある意味蔵ごと浄化しちゃう方が碧にとっては1ヶ月拘束されるより楽だろう。
退魔協会に報酬以上の仕事をしたと怒られるかも知れないが、1ヶ月もクソ暑い蔵の中で安いバイト料で働く羽目になる様な依頼なんぞを回してきたのが悪いのだ。
依頼人だって『危険なものは全て浄化させました』と言えば無理にガラクタ(じゃないのもあるかもだけど)の整理を退魔師に強要出来ないだろう。
「悪霊憑きだったら普通に除霊しちゃえば良いだけだから浄化の力も届かない位に雁字搦めに封印でもされていない限り扱いも楽なんだけどね〜。
蔵に死蔵してある物って付喪神憑きが多いのよ。
ああ言うのって善も悪もはっきりしないのが多いから、扱いに注意が必要なんだけど蔵に放置しているだけだと浄化が必要な状態だとは限らないのよねぇ」
ふうん?
「付喪神って悪霊が物に憑いたバージョンじゃないんだ?」
『あれは人の想いと自然の気が凝った精霊モドキじゃよ。
完全な精霊になれる程の想いを受ける前に大抵の物は壊れてしまって使うのをやめられたり、その物自体を使う慣習が廃れたりで殆どは中途半端な『モドキ』な段階で終わってしまうのじゃが、扱いが悪くて怒れば人へ害を及ぼせる程度の力は溜め持っているモノも多い』
尻尾で源之助を焦らしていた白龍さまがクイッとこちらへ顔を向けて教えてくれた。
「凛の世界には付喪神って居なかったの?」
碧が源之助の顎の下を擽りながら尋ねる。
「精霊を何らかの形で封じた物や先祖の誰かが守護霊として憑いている物が家宝としてあったり、人や魔物を殺しすぎて殺戮の精霊モドキが憑いちゃった魔剣と言うか妖剣という様な物はあったけどねぇ。
あっちは精霊も多かったから、ある程度の力や魔素が凝って精霊モドキになってきたら他の精霊がちょっかいを出してきて精霊に成らせちゃうか、力を奪い取っちゃうかするから中途半端な付喪神状態なのはかえって珍しかったんじゃないかな?
改めて思い返してみるとそう言うモノだったんじゃないかな?と思える家宝の話はあったけど、実際に見た事はないね」
多分王宮の宝物庫のだったらそれに近い物もあったかもだが、黒魔術師がそんな場所に近付かせて貰える機会なんぞ無かったからね〜。
「そうなんだ。
見てみたかった?」
碧がちょっと依頼を断った事を気不味そうに聞いてきた。
「いやいやいや。真夏の蔵も嫌だけど、年末の寒い最中に蔵で作業するのも遠慮したいからね。
単に物を見て回って仕分けのシールでも貼るだけって言うならまだしも、作業の手伝いをする
羽目になる依頼はないわ〜」
蔵の持ち主が頑張って一族を総動員して中身を整理して、結果として誰かが変な霊に憑かれるとか貰った物が異音を出したりする様になったんだったらそれを祓う為に行っても良いけど。
と言うか。
「付喪神憑きって蔵の中に置いてある間は休眠中なの?
大量に付喪神が集まっていたらそれこそ蔵が吹っ飛んじゃいそうな気もするけど」
精霊モドキだとしても数が集まれば完全な精霊クラスの騒動を起こせそうな気がする。
「う〜ん、休眠中って言うか『使われなくなって寂しいなぁ・・・』って漠然とした想いを抱えたままぼんやりしている感じなんじゃないかな?
蔵から出されて人に触れた段階でちょっと目覚めて、人の役に立とうと張り切っているのにゴミ置き場に放り出されたり、荒っぽい使い方をされたり、変な感じに再利用しようと分解したりすると怒って今まで溜まっていた想いと霊力を穢れに変えて報復しようとする事もある感じ?
想いが穢れに染まった段階で浄化すると何もない、単なるガラクタになっちゃう事が多いんだけど、単にぼんやりしている状態だと浄化の術を掛けても効果があまり無いんだよねぇ」
碧が教えてくれた。
なるほど。
なんかこう、聞いてみるとちょっと切ないね。
付喪神憑きとなるとそれこそ夜中に音がしたりして持ち主にとっては微妙に有り難く無い持ち物になっている事が多いだろうが、先祖が大切に使ってきた物なのだ。
大切にしてきた想いで精霊モドキにまでになってきたのに、それを敢えて穢れに染めないとリセット出来ないって・・・なんか微妙だ。
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