実は熾烈な跡取り争い
第742話 整理作業は大変
『藤山様たちの大学の冬休みはいつからですか?』
退魔協会から電話が掛かってきたと思ったら、ちょっと思いがけない事を聞かれた。
「来週からですが・・・それなりに予定があるので大学が休みだからと言って依頼を受けられる訳ではありませんよ?」
碧が予防線を張りながら応じた。
まあ、特に予定は無いんだけどね。
源之助の世話があるので、私と碧とでタイミングをずらしつつ帰省しようかと話していたところだ。
年末年始は私が帰り、三が日が終わってから碧が帰省するのが現在の予定だ。
神社の方はちゃんと今年もバイトの巫女役を十分雇えたらしい。
なので下手に帰ったら手伝いに駆り出されるか、皆が忙しい中一人テレビを見て暇を潰すかになるので、碧はタイミングをずらしたいらしい。
反対に私の方は兄貴が彼女を連れて帰省するとの話なので年初に顔を出せと言われている。
どうやら彼女との付き合いも、お互いの実家に顔を出す程度に真剣になってきたらしい。
まあ、結婚しても北海道で暮らすって事なんであまり私には関係ないけどね。
結婚式をどこでやるかによっては泊まりがけで北海道に行く事になるかもだが。
『実は諏訪の旧家の方から、遺産相続に備えて先祖から伝わる蔵を整理して現金化できそうな物や危険な物、一族の誰かに思い入れのある物等を整理したいと言う話が来ておりまして。
タイミングはそれなりに融通が効くとの事なのですが、帰省する際についでに蔵の中身の確認と危険な物の浄化をお願い出来ませんか?』
碧の予防線を無視して職員が続ける。
「蔵ですか。
ちょっと今年の年末は忙しいので三が日の後に実家へ顔を出してトンボ帰りする予定なんですよ。
他の方に依頼してはどうでしょう?」
嫌そうに顔を顰めながら碧が応じた。
あれ?
蔵の物の浄化ってそんなに嫌な作業なの?
最初に会った頃に蔵にあったヤバい物の封印が解けたり、曰く付きの骨董品とかが遺産相続で売りに出されたりとかって流れでの依頼があるって言っていたよね?
比較的よくある依頼なのかと思っていたんだけど。
『・・・そうですか、残念です。
では他の方に当たってみます』
溜め息を吐いた職員が引き下がり、電話を切った。
「蔵の整理で出てくるヤバい物の処理もよくある依頼なんじゃ無かったの?」
蔵が何か地雷案件ならば先に知っておきたいぞ。
「蔵の整理でうっかり封印を解いちゃったヤバい物をどうにかしてくれって言う依頼なら良いのよ。
行って祓って終わりだから。
だけど蔵の整理でヤバいのを仕訳したいなんて話だと、どれだけ時間が掛かるか分からないし、下手をしたら整理作業そのものを私たちがやる羽目になるかもだし、封がきっちり効いていたから安全に見えたのが、どっかのアホが荒っぽく扱ったせいで後から祟る様になって『話が違う!』ってクレームをつけられることもあるの。
絶対に整理そのものの話は受けちゃダメよ!!」
碧が凄く嫌そうな顔をして言った。
うわぁ。
「なんかめっちゃ実感が篭ってるね。
不幸な体験でもあるの?」
「以前夏休みだからって事で東北の方の地主の蔵の整理関係の依頼を受けたのよ。
涼しくていいかな〜と思ったけど結局かなり暑かったし、数日程度と思っていたのに1ヶ月近く掛かった上にヤバい品の鑑定と浄化だけで無く単に古いだけの物の移動とかにまで駆り出される羽目になって、最悪な夏休みだった!!
しかも封印がきっちり残っているから大丈夫って分類したのを『安全』って誤解したアホが封を破ったせいで悪霊が出てきてクレームを受ける羽目になったし。
マジで今までの人生で一番酷い依頼だった」
碧が吐き捨てる様に言った。
うわぁ。
東北だろうが、真夏に蔵の整理に駆り出されるなんて最低だね。
まだ北海道だったら少しはマシだろうに、東北なんてそこまで涼しく無いんじゃない?
しかもそれが1ヶ月。
「未成年な学生をそんな長期な依頼に拘束するなんてありなの??」
親元からそんなに長い間引き離すなんて合法なのかね。
「まあ、毎週末に家に帰れたけど、帰ったら必死になって夏休みの宿題に取り掛かる羽目になったから、ある意味帰らない方が良いぐらいだった・・・」
深く溜め息を吐きながら碧が言った。
「確かに最低だね。
つうか、退魔師なんて高いんだから、1ヶ月も拘束するなんて高額すぎておかしくない?」
それとも若い見習い扱いで安くこき使ったのかね?
「実際に頼まれて怪しげなのを鑑定するのとヤバいのを浄化する分だけは退魔師として支払われたけど、待機していた時間とか『ついでに』手伝わされた時間は単なる学生バイト扱いだったわよ。
今考えてみると、あれって藤山家に対する嫌がらせだったのかも」
碧が言った。
『碧個人に対する嫌がらせというよりも、協会の若いのを搾取するタイプの依頼に引っ掛かったと言う感じじゃの。
実情を知っていたのに格安に依頼を承認した職員には天罰を下しておいたぞ』
白龍さまが現れて教えてくれた。
なるほど。
狙った嫌がらせじゃなかったから天罰ディフェンスも緩いものだったんだね。
「取り敢えず。
蔵の整理は無しだね。
整理し終わって誰かが呪われたらその人とヤバかった物を祓う依頼は受けても良いよってところかな?」
蔵の整理なんて、歴史が好きそうな大学生でも雇えば良いのに。
まあ、藤山家の蔵みたいにしっかり整理してないと、ゴミと歴史的価値のあるお宝とがごっちゃで収拾がつかないのかな?
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