第741話 妻か、妾か・・・

「弟子入りして真面目に修行を行わず、一人前になるのは駄目だと判断されたら能力を封じられると言う話ですが、契約破棄なんていくらでも出来ませんか?」

ちょっと心配そうに沙耶の母親が聞いてきた。


イマイチ親からも真面目に修行するとは信頼されていないっぽいね。


「術師になる訓練を受けて超常の力を使う知識をある程度手に入れたのにちゃんと修行を完了させるだけの自制心が無い人間は、能力の封印を拒否した場合は暴発の危険がある危険物扱いになります。

退魔協会だけでなく国中の治安組織の危険人物リストに登録され、犯罪者扱いで見かけたら即座に捕縛される様になりますし、資産は凍結される上にパスポートの使用も制限されますね。

勿論何の犯罪も犯していないのでしたら出頭してきて能力を封じられた後は全ての制限が解除されますが、捜索中の風評被害などに関して補償などはありません」

碧が真面目な顔で答えた。


まあ、そこまで大事になるのは弟子入りを受けた退魔師側が要請した時だけらしいけどね。

とは言え、行方不明になろうと弟子が一人前になるか能力を封じるまではやらかしの連帯責任を師匠側が負うのだ。

師匠の退魔師側も暫く自力で探して見つからなかったら、なりふり構わず当局と退魔協会に助けを求めるか。


恥をかきたく無いだろうから、出来る限りはそこまで話が拗れる前にもっと早い段階で見切りをつけて封印する方に弟子と話をつけようとするだろうけど。


「ちなみに、退魔師の一門では能力持ちの女性は結婚相手として人気ですが、必ずしも退魔師である必要はないので修行をせずに最初から封印していても問題はありません。

却って途中で諦めた場合の方が落伍者扱いになるかも知れませんね」

ついでに餌としての情報を付け加えておく。


まあ、人格に問題があったら妻じゃ無くて妾候補になるだろうけど。

流石に良家の娘だったら愛人では無く分家の妻ぐらいに斡旋するかな?


「そうなの?」

今まで不貞腐れた顔で聞いていた沙耶が興味に背筋を伸ばした。


「それこそ戦国時代や平安時代から続いている名家の家業な場合もありますから、そう言った旧家にとって能力持ちな後継ぎは必須ですからね。

同じ家門同士で結婚しあっているのでは血が濃くなりすぎますが、全く何も知らない一般人を迎え入れるのも難しいですし、色々と悩ましいらしいですよ」

しかもアクの強い姑とかも居る事も多いし。


「色々と教えてくれてありがとう。

今度退魔協会の方とも相談してみよう。

取り敢えず今日はその悪戯をしている使い魔だっけ?の解除を頼む」

依頼人が手を叩いて話を切り上げた。


願わくは、良い方向に沙耶を誘導して能力を封じるのに合意させてね〜。


「では、ゆったりとリラックスして私の手を握ってください」

沙耶の方へ手を伸ばしながら言う。


下手にやり方を覚えられて、悪戯を仕掛けて悪戯をし終わった後に契約を切れば良いなんて思われても困るので、本人の能力を誘導して契約を切るのでは無く、能力に魔力を這わせてプチっと切らして貰おう。


一応術者側が合意していれば霊の方にもダメージはそれ程いかないはず。


「さあ、早くやってちょうだい」

ずいっと手を差し出しながら沙耶が要求してきた。


「リラックスして出来るだけ何も考えない様にして下さい」

ちょっと言葉に魔力を込めて、部屋にいる全員の意識を少しぼんやりとさせる。

碧には効かないが、他の連中はこれで少し記憶があやふやになる筈。


沙耶の目も少し焦点がぼやけた感じになったのを確認して、彼女から出ている魔力のリンクを辿り、目の前にいる雀の霊と、別の場所にいる猫の霊を見つけた。

気紛れな猫だから今日はここに来てないのかな?


使い魔に命じているとは言え、かなり緩やかな契約モドキなので使い魔側が従う気が無いとかなり気儘に動けるっぽい。

とは言え、雀も猫もそれなりに遊ぶのが好きだし、悪戯をする為には契約主からの魔力が必要だから命令に従って行動しているようだ。


「契約を切るのに合意しますか?」

そっと沙耶に声をかける。


「ええ」

あっさりとした合意に魔力をのせる感じで使い魔契約を断ち切った。


ついでに勝手に能力を使えない様に封じたいところなんだけどね〜。

退魔協会からの人に確認されたら不味いから、諦めよう。

取り敢えず簡単には能力の悪用が出来ないよう、ちょっと魔力に囲いを付けるような感じの意識誘導の流れをそっと埋め込んでおく。

時間経過で消えちゃう程度だから、あんまり依頼人や退魔協会がのんびりしていたらやばい事になるかもだけど・・・まあ、本格的にやらかしたらガッツリ問答無用に能力を封じる大義名分になるから、それはそれで良いよね。


一応、数ヶ月後にでもこの件がどうなったのか退魔協会で確認するのを忘れないようにスケジュール用アプリにでも書き込んでおこう。


私たちが関係した案件で力に完全に目覚めてガンガン確信犯的に魔力を使う様になった悪人がいるのでは良心に咎める。


まあ、本人は何年間も修行するよりはランクが高い男性の妻になる事を好みそうだから、どっか適当な良家との伝手を親族が見つけてくれると良いね。

化けの皮が早過ぎる段階で脱げちゃうと、妻では無く妾候補になりそうだけど。









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