第740話 修行は辛いよ〜?

「使い魔契約の切り方が分からないならば、今回は依頼の一環としてこちらで切ります。

ですが才能を制御出来るようになるだけしっかり教わるにはどこかの退魔師に弟子入りする必要がありますので、退魔協会なり自分の伝手なりを使って自力で師を見つけて下さい」


老ける〜!と騒ぐ沙耶に言い聞かせる。

『本人が癇癪を起こして逃げ出してしまわない様に、話さなきゃいけない事を先に話しておこう』

碧が念話で提案してきた。


『だね!

退魔協会関連の説明、お願い〜。

でもその前に事件の解決を依頼人と確認しておくか』


「ちなみに今回の事件は、依頼主様の姪の沙耶さんが亜弥さん及び東谷氏に会った時に近くにいた動物霊に霊力を与えて悪戯をさせていた現象だった様なので、現在沙耶さんが結ばれている使い魔契約を切れば問題が解決すると言う結論で宜しいでしょうか?」

依頼人と沙耶とを見ながら声に出して確認を取る。

再度沙耶が同じ事をしたら、今度は退魔協会と当局に捕縛されて本格的な罰則を受ける事になる。


「沙耶ったらなんて事をしているの!」

依頼人が口を開く前に、亜弥さんの叔母らしき女性が沙耶を叱りつけた。

取り敢えず、親族内での犯人への叱責や懲罰はどうでも良いから、本人の合意が欲しいんで口を挟まないでくれ。


そうは思うものの、迂闊にここで意識誘導なんぞ使って口を封じたら後で沙耶が真似をしかねない。

まあ、そうじゃなくても依頼人の親族に失礼な事はしない方が良いしね。

犯人の親族でもあるけど。


「だって!!

結婚なんて興味がないって顔をして私がお洒落に頑張るのを馬鹿にしたみたいに見ていた亜弥が東谷さんみたいに格好いい男の人を捕まえるなんて、ずるいじゃない!!

だからちょっと嫌がらせをしただけよ!!

第一、悪戯すればってそこら辺にいた動物の霊に言ったところで、彼らが思い通りに動くなんて思わなかったし!」

沙耶が言い訳を始めた。


お洒落を頑張るのを馬鹿にしたのではなく、化粧も濃すぎるとケバくて逆効果じゃない?って言いたかったんじゃないかね。


まあ、自分の興味がない分野に熱中する従姉妹の事を亜弥さんが無意識に見下していた可能性はゼロでは無いが。

黒魔術系の適性持ちだったら相手の気持ちを読み取っていた可能性はそれなりにあるからね。


人の感情なんぞ読めても、あまり良い事はない。

割り切ってそれを利用しまくるつもりだったらそれなりに利用価値は高いが、最終的には人間関係に疲れるし周囲の人間を信じられなくなるしだから、必要がない時は能力をシャットダウン出来る方が無難だ。


どうやら今までは完全に能力が覚醒していなかったっぽいからそこまで弊害は無かった様だし、使える範囲で無意識に便利に使ってきたのかも知れないが、適当な動物霊をうっかり使い魔に出来てしまうだけの能力が目覚めたのだ。

これからは他の面でも色々と影響が出て来るだろう。


元素系の魔術師よりは直接的な被害が起きにくいから発覚に時間が掛かるかもしれないが、前世の黒魔術師と同じで人の記憶や感情を弄れる能力をそれなりに便利に使っていると、そのうちに周囲の人間に気付かれ疎まれるようになる。


周囲との人間関係が完全に崩壊する前の比較的早い段階に、家族相手の悪戯という形で発覚して良かったね〜。


「依頼に関してはそれで良い。

ちなみに沙耶には同じ事をしない様に厳重に注意をして、取り敢えずこのまま放置という訳にはいかないのか?

弟子入りなんてあまり沙耶に向いている様には思えないが・・・」

依頼人が聞いてきた。


「現時点で繋がっている使い魔とのリンクは全部切りますが、何か思いついた時にうっかりまた使い魔契約をしてしまう可能性はありますし、霊視が出来るとつい注視してしまって悪霊の注意も引きやすいので、しっかり能力の制御を覚えるか、使う気がないなら封じるかをお勧めします」

沙耶・・・と言うよりもその母親をしっかり見据えながら覚醒した能力を放置することの危険性を知らせておく。


「ちなみに、退魔師は使い方によっては危険な超常な力を持つ故にしっかりそれを制御する事が求められます。ある意味、格闘技の選手が一般人と喧嘩して怪我をさせたら罰則が厳しくなるのと同じですね。

誰かを弟子として受け入れた場合は一人前になるまでは弟子がその能力を使ってやらかした事件の損害賠償に関して師が連帯責任を負います。ですので、どうしても弟子が一人前になれないと見做した時は退魔協会の職員の立ち合いの下でその能力を封じることを弟子入りする際に合意する旨を求める契約形式になっています。

教えている最中における能力の暴発のような危険もあり、連帯責任のリスクもあるせいで弟子入りにかかる費用はそれなりに高い場合が多いです。

そこら辺は親族だったりしたら話は別かもしれませんが」

碧が追加で退魔師になる際のハードルを説明する。


これで退魔師になるのを断念して能力の封印に合意してくれたら良いんだけどなぁ。

この沙耶って女、一人前になって師の監視から逃れたら自由気儘に自分の能力を悪用しそうで怖い。


勿論、退魔師がその能力を悪用したら呪師と同じで『有罪判決=ほぼ死刑』だが、金持ちの恵まれた一族に生まれた人間ってとそう言う決まり事は自分には当て嵌まらないと考えるタイプが多いんだよねぇ。


実際、問題を起こしても相手の立場が弱かったら一族(か金)の力を使って話を揉み消そうとするだろうし。


私個人が被害を受ける事は無いだろうし、ウザ絡みしてきたらそれなりに対処できるが、駄目な術者を世に放っちゃうのに関わりたくない。


下手に黒魔術師の力の悪用方法を色々と編み出されて世に広められると、また黒魔術師の適性持ちが肩身の狭い思いをする事になりかねないし。


流石に将来起きる『かも知れない』問題を理由に勝手に誰かの能力を封じたり殺したりするつもりはないが、出来れば後から後悔しなくて済む様に、この女が能力封印を受け入れてくれると嬉しいんだけどなぁ。


「一人前になるのにどの程度の時間が掛かるのですか?」

依頼人が尋ねてきた。


「退魔師の一族に生まれて子供の頃からそれなりに馴染んでいる人で、頭の柔らかい中学生ぐらいの時期に本格的に修行を始めた場合で早くて3年と言ったところでしょうか?

今まで全くそう言った知識もなく、使い方も手探りな場合ですと長い人で10年間弟子として師匠の元で下働きして、結局どうしても十分な制御を身に付けられなくて諦めるというケースもありますね」

碧がシリアスな顔で応じる。


まあ、10年掛けて駄目だったのって適性違いとか師匠役が無能だったからとかだと思うけどね。

前世では、本人がやる気があるのにちゃんと制御を身に付けられなかった人なんて殆ど居なかったもの。


まあ、『やる気』も才能の一つだと考えると『出来なかった』と言うケースにそれらも当てはまるかもだが。






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