第733話 まずは見つけないとダメか。
「なんかさぁ、キッチンカーの出没場所を100%カバーしているデータベースとか、美味しい店の混雑状況をリアルタイムで教えてくれるアプリとか、そう言うのが欲しいんだけど無いかなぁ?」
5000歩を達成する為の散歩から帰ってきた私は、ちょっとガッカリしながらソファに身を投げ出して碧に声を掛けた。
20分程度早足で歩いてきた上に階段も登ってきたお陰で冬だと言うのに汗ばんでいるので、コタツには流石に入りたくない。
碧はコタツの中でぬくぬくとしながら源之助の頬近辺を撫でているけど。
「どったの?」
「昨日歩いている最中に駅の側でクレープを売り出しているキッチンカーを見かけたのよ〜。
甘くて美味しそうな匂いがしていたんだけど、そこそこ人が待っていたし時間帯も微妙だったからそのまま通り過ぎたんだけどさ。
やっぱ出来ればクレープを食べたいと思って今日は3時のおやつに丁度いい時間帯を狙って行ったのに、お目当てのキッチンカーが居なかった」
一応、事前に確認できないかと思ってネットで探したんだけどねぇ。
昨日見かけた場所ってキッチンカーの情報開示をしている訳でも無いっぽく、特にそれらしいウェブサイトが無かったのだ。
キッチンカーの方の名前も見ておいてネットで検索したけど、こちらもフランチャイズの広告のサイトはあったけどどこにフランチャイズした店主が居るかは書いてなかったし。
「ありゃま。
残念だったね。
キッチンカー情報のアプリって無いの?」
「アプリはあるけど、昨日キッチンカーがあった駅の側の場所の情報が載ってないから、カバー率は100%じゃないっぽい」
と言うか、100%なんて無理だろうしね。
結局ああ言うサイトってキッチンカー側か場所を提供している大家(?)側が手数料を払って載せてもらっているんだろうから、駅の側みたいなどうせ人が通りかかるような場所は態々手数料を払って登録してないんじゃないかな。
「あ〜。
残念だったね。
ハネナガにでも頼んで鴉仲間に探してもらったら?」
碧が提案してきた。
う〜ん。
前世では、使い魔を使った情報収集っていうのは黒魔術師にとってはそれなりに『あり』な手段だったんだよね。
私の時代には王族の命令なしに大々的に情報収集するのは禁じられていたけど。
黒魔術師が全般的に奴隷モドキにされる前の時代には、それこそ鴉や雀やネズミの霊の使い魔で王都中の情報を集めてありとあらゆる人間の弱みを握り、国家を牛耳った黒魔術師も居たらしいし。
まあ、『ありとあらゆる』と言っても、実際は大貴族の当主と妻と嫡男に、流通を握っている豪商何人かの情報を集中的に集めたってところだろうけど。
前世の、しかも昔話に出てくる様な時代の都市なんて現代の東京とかよりも経済規模が圧倒的に小さいから、掌握しなきゃいけないの人の数も一人で情報を管理しておける程度には少なかったと思うんだよね。
大量生産体制が無く、魔物や他国との争いで食糧生産もちょくちょく壊滅的ダメージを受ける世界だと、例えポーションや白魔術師と言う現代医療にも負けない治療手段があっても人口はそこまで増えない。
だからAIとかコンピューターとかが無くても王都を一人で牛耳れる程度には規模が小さかったのだろう。
まあ、所謂伝説チックな悪の魔術師に関するお伽話だから、どの程度史実に即しているかは不明だけどさ。
「使い魔で情報収集するのはもっと小さな地方都市だったらアリかもだけど、東京じゃあ探索範囲が広すぎて無理だと思う・・・」
車で回るのだ。
キッチンカーの人たちも、それなりに広い範囲を日ごとに回れるだろうからどこまでカバーしなきゃいけないのか見当もつかない。
山手線内部だけとかって区切れるなら良いが、ウチの最寄駅は既に山手線の外だからね〜。
範囲はそれこそ23区内全部ぐらい?
一体何匹の鴉の霊を集めなきゃいけないのか、想像も付かない。
いくら情報収集程度の契約用な動物霊の使い魔に必要な魔力が少ないとは言え、魔力枯渇で倒れてしまうだろう。
「別に、何が何でも昨日見かけたキッチンカーのクレープが食べたいからそれの行方を探っている訳じゃあないんでしょ?
だったらウォーキングで出向いても良い程度の範囲内で見かけたら教えてもらう様にすれば良いじゃん」
碧があっさりと指摘した。
「・・・そっか。
そうだよね、近所に来た時に見逃したく無いだけか。
ちょっと明日にでも適当に幾つか公園を回って契約してみようかなぁ」
キッチンカーの傍に出してあるクレープの写真を鴉に分かってもらえないとダメだけど。
結局、例示する為にはまず一度はクレープのキッチンカーを見つけなきゃダメかも??
今後のクレープの為に、頑張ってまずは一台探すか。
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