第730話 中途半端な競争は困る

「携帯買い換えとなったら、データのバックアップとかしなくちゃいけないんだよね?」

私は中学は近所だった為、携帯は塾に通い始めた高校から買って貰った。

お陰で今回が初めての買い換えだ。


「携帯のキャリアのウェブサイトにやり方が出てるよ。

まあ、アルバムとかアドレス帳がメインで、チャットやゲームとかのアプリは個別にネットで調べる必要があるけど、ちゃんとバックアップしてあるなら大丈夫じゃ無い?」

碧が教えてくれた。


中学生の頃から退魔協会の仕事を受けていた碧は携帯歴も長い。

何かがあったら頼らせて貰おう。


「なんかさぁ、半導体とかの機能って年々良くなるって話だけど、別に今の機能で良いんだから10年ぐらい買った端末を使える様にして欲しいわ〜。

電池だけ交換させて欲しいよ、マジで」

まあ、それじゃあメーカーがビジネスとしてやっていけないんだろうけど。


10年前ぐらいだったらまだ携帯を持っていないとかスマホを持っていない人がそれなりにいただろうから、純増があって買い換えを促さなくてもそこそこ売り上げがあったんだろうが、今ではスマホを持っていない人なんて極々少数だ。


そうなるとメーカーは買い替え需要で利益を出さなければならない。

携帯会社を乗り換えさせる事で割引して端末の値段を誤認させる売り方は政府が規制しだしたから出来なくなったっぽいが、考えてみたら10万とか20万円が妥当な製造コストなら、それを通話料金に混ぜて利用者全員に負担させてたとなると面倒臭がって買い換えない私の様な人間が損をしていた事になる。そう考えると規制には感謝すべきなんだろうね。


いざ自分が買い換える段階になると端末価格が高くて恨めしい気になるが。


「なんかこう、2年とか3年で買い換えさせる携帯って究極の使い捨て文化の申し子って感じだよね。

昔はどんどん機能アップしていたからしょうがないにしても、今はそこまで変わらないんだからいい加減事業モデルを変えて欲しいけど、買い替え需要が無くなるとますます日本のメーカーが生き残れなくなるかな?

携帯のメーカーが、割高なアメリカ製か、高くなってきた韓国製か、ヤバいかもしれない大陸製しかないってなるのも困るから悩ましいね〜」

碧が源之助にオモチャを動かして見せながら言った。


「なんかさぁ、日本って輸出国だからグローバルな経済体制が必須って言うのは分かるんだけど、日本企業が輸出先を駆逐する側なら良いけどうっかりすると駆逐される側になると、もっとガンガン関税かけて国内企業を守れって気になるわ〜。

国内企業同士で競争していつの間にかお気に入りの企業が潰れてたり買収されているのは構わないけど、気がついたら欲しい製品のメーカーが海外企業しかないって状況になられるのは嫌」

思わずため息を吐きながら愚痴る。


なんかねぇ。

別に日本人だって悪人はいるのは実際にここ2年の間で目の当たりにしてきたけど、それでもやっぱり日本企業の方が海外企業より信頼できる気がするんだよね。


日本企業だってあくどい事をやっているとは思うけど、国内企業だったら苦情を訴えやすいしお役所が守ってくれるんじゃないかって期待出来る。

口コミとか確認しておけば、ヤバげな企業の情報は出て来るし。

まあ、口コミだってヤラセのが多いって話だけど、火が無いところに煙を立てる人がいるにしても、火があるところには確実に煙が出るからね。


その点海外企業の商品だと詐欺サイトの可能性も高いし、普通に正規で買っても問題があった時にどの程度誠実に対応してくれるか、心配だ。

中国企業なんて勿論の事、アメリカの企業ですら『購入契約に書いてありませんから』とかいって苦情を無視しそうな気がしてイマイチ安心感が無いんだよねぇ。


『合法』なのと『誠実』なのは必ずしも同義じゃない。


「グローバルに輸出入が出来るようになると、競争が苛烈になるから値段が下がるし技術も進歩するかも知れないけど、一般人にとってはキツイ社会になるよね。

もっとおっとり暮らせる社会が良いな〜って気はする。

もしくは、ブラックな企業がさっさと潰れる社会とか」

碧が言った。


確かに。

企業が潰れるのって失業者が出て大変かもだけど、今の日本は少子高齢化で人不足が心配されているんだから、下手にブラックな企業がゾンビみたいに生き残って社畜を量産するよりも、さっさと潰れてまともかつ効率的に経営している会社だけが残る社会になった方が良い。


『効率的』がブラックだったら救いが無いけど。


でも、海外の先進国って日本程ブラックじゃ無い国が多いのに労働生産性が日本より高いらしいから、無駄な忖度とか無能なゴマすり管理職とかが淘汰されたら日本だってもっと効率的な社会にならないかね〜?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る