第728話 一安心だね。
『それじゃあ、頑張れ!』
色々と家に置いてあった資料の使い方や若手(だった)研究者仲間の名前を幾つか挙げた後、大叔父さんの霊は気楽そうに手を振って消えていった。
「え〜っと・・・。
今のって夢じゃ無いんですね?」
どうやら人魚がオスだったショックでしっかり覚醒したのか、ちょっと呆然とした目でこちらを見ながら
『なんかもうあの大叔父さんの霊が色々とバラしちゃったから、使い魔契約の能力以外の話は殆ど全部伝えちゃっても良いかな?』
急いで碧に念話で相談する。
『良いんじゃ無い?
辻褄の合う嘘を考える時間も無さげだし』
碧が軽く頷く。
「ええ。
私たちは退魔師よ。
普通に悪霊祓いや呪詛返しが出来る他に、こちらの藤山は日本に数名しかいない氏神さまの愛し子で、私は霊を呼び出す能力があるわ。
貴方があの丘の上の家に行った後に原因不明な病で倒れたから、お祖父様から呪詛返しもしくは悪霊祓いの依頼が退魔協会に出されたの。そしてその依頼を我々が請けた訳。
実際のところはどうも死にかけていた人魚と波長があっちゃってうっかり大して無い霊力をガッツリ譲渡しちゃったせいで倒れたみたいだったけど」
「そうだ、あの人魚!
なんかこう、儚い感じで存在感が薄かったから幻覚を見ていると思ったんだった・・・」
人魚の事を聞こうと身を乗り出し、話している間にオス(しかも親戚)にキスをした事を思い出したのか、拓海氏の声が小さくなって途切れた。
「なんかもう、仮死状態にしてあっても存続できるギリギリ限界な状態で、拓海さんの生命力を全て貰っても一時的な時間稼ぎにしかならなそうだったから、うちの神社に祀る白龍さまに人魚の先祖が暮らしていたと思われる世界に運んでそこの人魚の集落に預けてきてもらったの」
碧が続ける。
「白龍さま・・・。
龍神さまが直接霊力を分け与える訳にはいかなかったのでしょうか?」
ちょっと不満そうに拓海氏が聞いてくる。
まだ初恋(?)を引き摺っているのかな?
もしかして、男でも男の娘ならありなのかな?
拓海氏の記憶の中ではあまり女性との付き合いは無いものの、男との付き合いも恋愛的な意味では無かったんだけど。
まあ、あの人魚は人間的な視点からだと女性体に見えたもんねぇ。
幻覚じゃ無いんだったら異性扱いしたくなる気持ちは分かる。
異世界に行ってしっかり魔力を補充したら筋肉もりもりになるかもだけど。
『お主の霊力がコップ1杯で、あの人魚が必要な霊力がバケツ1杯だとしたら、儂の霊力は諏訪湖レベルじゃ。
奇跡でも起きぬ限り、器を爆散させずに注げぬ。
奇跡の可能性に賭けてそちらを試した方がよかったか?』
大叔父さんが色々と話している間に戻ってきていた白龍さまが姿を現して、淡々と拓海氏に告げた。
おや。
随分と親切だね。
普段は碧(と例外的に私)にしか姿を見せないのに。
「そうだったんですね・・・。
助けて頂いたのに、失礼な事を言って申し訳ございませんでした」
拓海氏はあっさり謝り、項垂れた。
大叔父さんと話している時は案外と元気そうな感じだったけど、やっぱりまだ倒れた影響から回復しきっていないみたいだね。
と言うか、青木氏の甥っ子と同じで過労死一直線な働き方をしていたようだから、体も限界に近かったみたいだし。
『よい。
知り合いの眷属だからの。
多少の手助けぐらいはしてやろうと思っただけのことよ』
そう言うと、ふいっと白龍さまが消えた。
「さて、拓海さん。
人魚関連で状況説明が必要かと思って
それで良いですね?」
大叔父さんの霊に言われていたし拓海氏も人魚が居たなんて誰も信じない様な事を言い出さないとは思うが、祖父を信頼して『彼にだけ』真実を告げるなんて言い出すつもりだったらヤバいので、一応の確認の為に聞いておく。
まあ常識的に考えて、『人魚が居た』なんて拓海氏が言ったところで気が狂ったと思われるだけだ。
さらっと記憶を読んだ時の印象よりも大叔父さんからの遺産が多いっぽいので、ヘタをすると祖父とやらが精神病だと言い張って資産管理の権利を剥奪しようとする可能性もゼロでは無いが。
つうか、ある意味大叔父さんの遺産が奪われなかった事が非常に意外。
「そうですね。
あそこは大叔父が設立した財団に寄贈されて弁護士がしっかり管理していた筈なんですが、どうもどこかで資金を中抜きされていたみたいですし・・・俺が変な事を言ったら危険かも知れませんね」
拓海氏がゆっくりと顔を擦って言った。
どうやら祖父を無条件に信じるのはあまり賢く無い行為だと気付いたかな?
「武洋氏の家を拓海さんに残したのだったら、何故あの家も同様にしなかったんでしょうね?」
どうでも良いって言えば良いんだけど、ちょっと好奇心を感じたので聞いてみた。
「大叔父が亡くなった時、私はまだ未成年でしたから。
一応弁護士を代理人に任命して遺産を奪われたり使い込まれたりしないように手配してくれていたようですが、万が一を考えてあちらの屋敷とそこに眠る住民ごとガチガチに隔離した財団に譲る事で守ろうとしたのでしょうね。
それでも完全には守り切れなかったようですが」
溜め息を吐きながら拓海氏が言った。
なんかこう、散々自分が虐め可愛がられてきた年月の蓄積よりも、人魚関連の運用資金が横領されたっぽい事の方が祖父への信頼を損ねたようだ。
祖父の本性に関しては元々薄々はわかっていたんだろうね。
疑っていたけど信じたく無かったってところなのかな?
お人好しな人って自分への悪意には鈍感な事が多いからねぇ。
他者への悪意だったらちゃんと認識できるのに。
まあ、取り敢えず祖父を信用せずに離れるんだったら問題はないかな。
無事に一件落着って事で、安心して手を引ける。
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