第727話 ご相談
取り敢えず私と碧の存在を説明するのが面倒だったので、お孫さんを半覚醒ぐらいで『意識は比較的はっきりしているけど周囲にまで目がいかない』な状態にして大叔父さんの霊とリンクさせる。
『拓海』
「武洋おじさん??
あれ、やっぱ俺ったら死んじゃった?」
お孫さんさんがガバッと体を起こして大叔父の方へ身を乗り出す。
おっと。
弱っているところで急に起きたら脳貧血起こしちゃうぞ。
「うわっと」
案の定、急に体を起こして眩暈を起こしたのか、お孫さんが片手をベッドの脇について何とか体を支える。
『お前は人魚の家に行って、倒れたんだと。
ちょっとその関連で呼ばれた人が色々拓海の状況が不味そうだからって私を召喚してくれたんだ』
やべ!
大叔父さんに人魚の事の口止めしとくの忘れてた。
居なかったって事で誤魔化そうと思っていたのに。
霊を相手に嘘をついてもバレるが、霊自身に嘘をつく様に頼むのは可能だし、嘘をつかなくてもそれとなく誤認する様に話を誤魔化してもらうのも出来るんだから、ちゃんとそこら辺を打ち合わせしておくべきだった。
「人魚の家・・・?
え、あれって幻覚じゃ無かったんだ?!」
お孫さんが額に手を当てながら大叔父さんの霊に尋ねる。
『おう。
あれは私の従兄弟だよ。
小さい頃は洋兄さんって呼んでいたんだがいつまで経っても大きくならないと思っていたら、段々寝ている時間が多くなってしまってね。
死にそうになってきたから叔母が信頼の出来る退魔師に相談したところ、今の世では霊力が足りんって言われてね。
神様に異世界へ連れて行って貰えれば何とかなるかも知れんと言われたが、私たちの氏神さまは黒船が来たぐらいの時期に海が煩くなったと言ってこちらの世界から離れてしまったと言う話だったんだ。
別の神様に伝手がある一族を何とか見つけられないか、探す間だけでも生きていられる様にって冷やして仮死状態にしたんだよ』
(え?!)
碧がびっくりした顔で自分の口を塞いで声を出すのを止めていた。
うわ〜。
ある意味、藤山家の海龍さま(多分)バージョンだったんだ、依頼主の一族。
海運業の大手って聞いたけど、昔は海龍さまの加護があったら海じゃあ無敵だったんかもねぇ。
常時そこまで積極的に手伝ってくれなくても、そう言う噂が立つだけでも他の海の衆からの攻撃が激減しただろうし。
「黒船?!
いや、それより、『兄さん』?!」
お孫さんがびっくりした様に聞き返した。
そう言えばあの人魚、男だったの??
確かに胸は無かったけど、ガリガリで小柄だからまだ第二次性徴期になってないのかと思ってた。
魚の雄って動物と違って通常時は性器が外に飛び出してないのか・・・。
細くて髪が伸びていると男か女かなんて、分からないよね〜。
『人魚』って女ってイメージがあるし。
『うん。
古い一族の言い伝えからの詳細だと洋兄は雄だって叔母は言っていた。
実際にレントゲンを撮ったら子宮が無かったし』
「一族の言い伝えって・・・俺、聞いた事ないんだけど」
ちょっと剥れた様にお孫さんが言う。
『人魚伝説は不老不死とかの話もあるだろう?
なまじ洋兄がいたから、下手な欲を出す人間が出てこない様にあの時期から人魚関連の情報は一族の中でも制限したんだよね。
一応海神さまを祀る一族だったって話は皆にしてあったと思うが』
ちょっと首を傾げながら大叔父さんが言った。
あ〜。
確かに、お孫さんを虐め可愛がる祖父とか、誘導されて上の思惑通りにパワハラ・モラハラしている様な一族の人間は、人魚がいるなんて聞いたら人体実験一直線だろうね。
ってことは、依頼人の方もあの家に何が置いてあったのか、知らないのか。
「海神様なんて迷信だと思っていた・・・」
『昔はそこそこ何柱もの龍神さまとかいたらしいんだが、面倒だからとこの世界から去ってしまった存在が多いらしい。
我々一族が祀っていた海神さまが姿を消した時に眷属だった人魚も去って行ったらしいが、うちの一族は過去に人魚の血が混じっていたらしくてね。
百年とか数百年に一度、人魚が生まれて海神さまの愛し子として海で暮らすって伝説はあったんだが・・・洋兄が生まれたことで伝説が本当だったと分かった訳だ。
だから私はそれなりの資金を祖父と叔母夫婦から譲られて人魚伝説について色々と調べて何とか洋兄を助けられないかと頑張ったんだが・・・。
何とかお前が成人するまで生きて拓海に洋兄の事を託そうと思って、その為に色々手続きしている間にうっかり階段から落ちて死んでしまったんだよね』
てへっという感じで大叔父さんの霊が告げた。
まあ、大叔父と言えばそれなりな年齢差だろうから、元々難しかったのかも知れないが・・・。
考えてみたら、お孫さんの両親はどうなったんだろ?
話に出てこないが。
『取り敢えず、洋兄に関してはこちらの人たちが何とかしてくれたらしいから良いんだが、今後も一族で先祖返りが生まれる可能性はある。
それに、毅雄の会社はいつの間にか随分と俗っぽくなって共栄ではなく搾取が主な流れになっている様じゃ無いか。
お前には合わないだろう?
さっさと辞めて、世界中の人魚伝説の地でも回って他にも海神さまや人魚が残っていないか、調べてみてくれないか?』
大叔父さんの言葉で、お孫さんがこちらを見て驚いた様に目を丸くした。
「え、これって夢じゃないんだ?」
『失礼な。
確かに私は霊だが、拓海の夢の中に出てきた想像の産物じゃあ無いぞ』
ちょっと憤慨した様に大叔父さんが言う。
「我々の事は後で説明します。
何か、他に大叔父さんへ聞いておく事はありますか?」
流石にそろそろ具現化に近い形で召喚し続けておくのはきつい。
「えっと・・・」
『私の家は拓海に遺した筈だが、そこにあった資料はどうなった?』
大叔父さんがお孫さんに聞いた。
「何が何だか分からなかったけど捨てるのもなんだったので、全部倉庫に保管してあります」
お孫さんが答えた。
『ふむ。
まずはそれに目を通すんだな。
毅雄には人魚の話はしない方が良いから、ノイローゼにでもなったって事で引き籠った振りをして調べ始めて、大体目処がついたら旅行に出たらどうだ?』
大叔父さんが勧めた。
それが無難だろうね。
なんだったら、鬱になったって診断書を書くのを協力してくれそうな精神科医も知っているよ?
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