第724話 後始末はどうするか

「やっと出た〜!

では白龍さま、後はお願いします!」


ひーひー言いながら碧と二人で階段を登って人魚を1階まで運び上げた私たちは、1階の廊下ではコートの端を引っ張る事で人魚さんを引き摺り、何とか彼女を外まで運び出すことに成功した。


多少尻尾をぶつけたり擦ったりしたかも知れないが、私たち以外の退魔師に担当されていたら良くて衰弱死、悪くて生きたまま解剖。最悪のケースだったらギリギリ命を永らえるだけ魔力を与えられて生きたまま肉を食われ続ける羽目になっていたかも知れないのだ。

多少の怪我は我慢して貰いたいところだ。


『うむ。

それ程時間は掛らんと思うが、帰ってきたら碧の気を探すからここで待っておらんでも大丈夫じゃぞ』

龍サイズに戻った白龍さまが屈み込んで人魚をガシッと前脚に掴んだ。

まだ意識が覚醒していないけど、考えてみたら冷却されて仮死状態になった人(魚)ってどのくらいで目覚めるんだろ?


流石に幻想界の海に意識ないまま放り出されたらヤバいと思うんだが・・・あっちの人魚の集落に押し付けてくるのかな?


一応魂は正常と言ってもいい状態だったし、肉体もかなり弱っているけど極端な問題は無いと碧が診断していたから、ちゃんと魔素が濃い世界に行けばなんとかなると思うんだよね〜。

まあ、頑張って下さいな。


屋敷がこの状態で長期間放置されていたってことは親とかは死に絶えているんだろうし、依頼主のお孫さんに人魚側では意識がある状態で会っていないだろうからこっちの世界に未練は無いだろう。

あっても未練を断ち切るか死ぬかしか選択肢はないんだけどさ。


あとは依頼主の孫にどう説明するかだよねぇ。

考えてみたら、仮死状態の相手にキスしてうっかり命に関わる様な使い魔契約を結んじゃうんだから、お孫さんはあの人魚に一目惚れっぽい感情を抱いているんだろうなぁ。

永遠に彼の手が届かないところへ放流したって知ったら色々と文句を言ってきそう。


「ねぇ、凛って意識誘導だけじゃ無くて記憶の修正とかも出来るの?」

深呼吸をして新鮮な空気を胸一杯に楽しんでいた碧が聞いてきた。

碧もお孫さんの恋愛感情が面倒そうだと思えてきたのかな?


「記憶を封じるのは簡単だけど、現実と違う記憶を捏造するのは難しいかなぁ。

だから人魚を見たって記憶は消せるけど、そうするとこの屋敷に来てどうして倒れたのか、本人も分からなくなるよ?」

惚れたって感情も人魚の記憶と共に封じちゃうのは可能だが、ここで悪霊に出会って恐怖を感じたって思い込ませるのはちょっと難しいかなぁ。


「Gやムカデへの恐怖を増幅させて誤認させるのも無理?」

碧が提案してきた。


「男でもGやムカデに恐怖を感じるのかな?」

なんかこう、女性はGに悲鳴をあげても許されるが、男がそれをやったらちょっと情けない。

悲鳴を上げなくても恐怖は感じるかな?


「翔だってGが出てきたら凄い声をあげるんだから、今時の都会っ子だったらきっとダメでしょ?

ネズミも居そうだし、この屋敷ってとっても雰囲気だけはオドロオドロしいし。

良い感じに恐怖心は煽られた状態で中に入ったと思うな」

碧が言った。


そっかぁ。

翔君もGはダメなんだ。


「取り敢えず、病院に行ってお孫さんの記憶を探って調べてみよう。

確かに、彼が一目惚れしたらしき人魚を氏神さまが異世界へ連れて行ったから2度と会えないって教えるよりも、悪霊を見かけて慌てて逃げたもののリンクが繋がっちゃって祟られたって思い込ませた方が面倒がなさそうだよね」

これでお孫さんがGもムカデもネズミも全然平気だって言う野生児だったら改めて対策を考えなきゃだけど。


「だね〜。

しっかし、最近のラノベのあるあるだとか弱そうで守りたくなるような女の子系がヒロイン面をした悪女っていう設定が多いけど、痩せた儚そうな美女ってそんなにいいもんなのかね?

下半身別種族でも構わないぐらいに?」

碧が首を振りながら車の鍵を取り出してレンタカーの方へ歩き始めた。


「どうだろね〜。

若い女の子が恋に恋するのと同じで、男って『か弱い女性を守る自分』って言う幻想に憧れを抱いているんかも?

競争社会な現代じゃあ下手したら女性同期にコテンパンに負ける可能性もあるし、か弱い女性に夢を持ってるんじゃない?」

ある意味、お金に困っていないけど実は自分にあまり自信が無い男がそう言うか弱い系の女が好きなのかも。


とは言え、か弱いふりをする女って実はしぶとくて腹黒なのが多いけどね〜。

流石に人魚さんは腹黒になる余裕もなかっただろうとは思うけど。


会社なんかで上手に頼ってくるタイプの女性は信頼しない方がいいと思うな。

と言うか、今時本当にか弱くて守ってもらわなきゃいけない女なんぞとくっ付いたら大変じゃ無い?

家事だけはちゃんとするタイプだったら男は良いかもだけど、もしも子供が生まれたら子供にとっては良い迷惑なんじゃないかね。

日本社会じゃあ父親が子供の育児にしっかり関わってくる可能性はかなり低いのだ。

役に立たない母親しか居なかったら下手したら子供は周囲が知らない家庭内でネグレクトされる危険性もある。


本当にか弱い女性と結婚するなら、男は責任を持ってしっかりと子供の育児も上手くいっているか、注意を払ってほしいもんだね。


まあ、それはさておき。

お孫さんの様子を確認しに行きますか。







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