第722話 それで解決・・・かも?
「私が言い出したんだけど、マジでキスするだけで使い魔契約が成立するの??」
碧が微妙そうな表情でアイスケースの中に横たわる人魚を見下ろす。
顔は儚い和風な女性って感じで、目を開けてないから判断しにくいけどそれなりに整っていると思う。
生命力が尽きかけて死にそうだから細いんだけど、げっそり痩せ細っているって言うよりも存在感が希薄な感じだ。
尻尾があるから最初からファンタジー感満載なんだけど、更に不思議と現実性が薄い感じなんだよねぇ。
それもあってつい、白雪姫っぽくキスしてみたんじゃないかなぁ?
流石に、これから会って助けなきゃいけない依頼主の孫に死体をキスする趣味があるとは思いたく無い。
「基本的に使い魔契約って霊とだったら黒魔術師系の適性が必要なんだけど、生き物だとまたちょっと違う適性らしいんだよね。
で、適性がある場合は術者と使い魔候補両者の合意があったら魔力や体液の交換で成立するんだけど・・・流石にこの状態で舌を突っ込むディープなキスをしたとは思えないから、死にかけている人魚が人が触れたせいで漏れている微細な余剰魔力を吸収して、『起きて目を開けてくれ』とでも言う孫側の願いと『死にたく無い』とかな人魚側の想いがそれなりに一致した事になって、使い魔契約が成立しちゃったんじゃない?」
起きる為に魔力が必要だから、現在契約を履行する為に人魚が孫から魔力を受け取っているんだろう。
契約って繋がってもリンクがしっかり安定するまで多少は時間が掛かるから、お孫さんが自力で屋敷から出られたんだろうなぁ。
離れた病院に運ばれた事で魔力の流れも細くなってまだ死んで無いんだろうけど・・・この場合、契約主が本当に死ぬまで魔力が人魚に吸収されるかは微妙だね。
生き物相手の使い魔契約なんてこっちの世界ではほぼ存在しないみたいだから、見たことが無い調査員は悪霊か呪いか分からないけど継続的霊力の流出って表現になったんだろう。
「うげ〜。
その程度で契約が成立しちゃうなんて、ヤバくない??
人魚っていわば海に住む『人間』でしょ?
人間もうっかりそう言う適性がある術者と変に同じ事を考えていて魔力なり体液を交換しちゃったら使い魔契約が成立しちゃうの??」
碧が顔を顰めた。
「意識があれば基本的に本人が納得していない限り契約は成立しない筈。
意識がない状態で、本能的な願望に応じる形だったから人魚側は成立しちゃったんじゃないかなぁ。
お孫さんの方は・・・自分の能力をちゃんとコントロール出来てないんだろうねぇ。
魔力を使い魔に与えるのだって本来だったら拒否する事で契約破棄出来る筈だし、使い魔契約って術師側に主導権があるんだから与える魔力の量自体をお孫さんがある程度は制御できる筈。
制御できてないし地球では必要ない技能だから、使い魔契約をする才能なんて封じておくほうが良いだろうね」
コントロール出来ていなければ本人にとっても危険だし、コントロール出来ていたら悪用できる可能性が高すぎる。
「そんじゃあ、病院に行ってお孫さんの才能を封じれば解決?」
「依頼自体はね。
この人魚さんは死ぬことになるだろうけど」
どちらにせよ、このまま放置してもお孫さんが死ぬか魔力の供給を止める技術を身に付けるかだから、この人魚にしても目覚めてもまたすぐ仮死状態に戻るか、目覚めないまま死ぬかのどっちかだろう。
「白龍さまの聖域だったら生きられるかなぁ?」
碧が微妙な顔をしつつ言った。
「多分?
でも、あそこに死ぬまで一人で生きるのも辛くない?」
まあ、一人で暮らして誰とも話さない引き篭もりだって居るんだから、本人がそれで良ければ死ぬよりはマシかもだけど。
だが、ほぼ一人でずっと死ぬまで狭い小川と野原に閉じ籠って暮らすって『生きている』って言えない気もする。
『幻想界の海に連れていって人魚の集落付近に放流するのも可能じゃぞ?』
白龍さまが言った。
「あ、お願いできますか?
依頼主の孫の命を助ける為とは言え、やっぱその為に別の命を終わらせるのはちょっと切ないのでもしも白龍さまにご迷惑が掛からないのでしたら頼みたいです」
碧がにっかり笑いながらお願いした。
お。
良かった。
人魚の集落があるんだ。
幻想界の海が海龍しか住めないような秘境だったらそこに連れていっても人魚が生き残れるとは思えないけど、同族の集落があるなら何とかなるかな?
何とかなると期待しよう。
人魚が境界門を越えれば使い魔契約のリンクも切れるだろうし、お孫さんも放っておいても回復しそう。
となると、問題は。
どうやってこの人魚を屋敷の外に運び出すか、かな?
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