第721話 見た目に影響され過ぎじゃない??

「お孫さんもこっちに来たっぽいね」

埃の中に見える足跡を見て碧がコメントする。


おお〜。

さっきまでの廊下部分は古い絨毯がフローリングの上に敷いてあったのではっきりと見えなかったのだが、階段部分の板にはくっきり埃(とカビ?)に浮かぶ足跡が見える。

「と言う事は、こっちにお孫さんの倒れた原因がありそうだね。

人が引き摺られた跡は無いみたいだから、本人は歩いて出てきた可能性が高そうだけど」

成人男性だと言う孫を抱き上げて階段を登れる同行者がいたので無い限り、お孫さんは自力で歩いて階段を上がったと思われる。


と言うか、ここで露骨に体調を崩したんだったら原因が何かも分かりそうなものだけど。

この屋敷で調べ物をしに来た後に倒れて意識不明のまま入院していると言う話だが、どこで倒れたんだろ?


車に運転手が待っていてその人の前まで戻ってきて倒れたとか?

まあ、金持ちの運転手だったらボディガードも兼務している可能性もあるから、下に降りて何かに出会って戻ってこなかったお孫さんを探しに行って抱えて戻ってきたのかもだが、それでも原因が何だったかもう少し分かりそうなものなのに。


・・・と言うか、マジで調査員はこっちの屋敷をちゃんと調べたのかな??

屋敷の浄化も依頼の一部なんだから、浄化する対象が何かを確認しているべきなんだけど。


そんな事を考えながら降りていき、地下室らしき部屋にたどり着いて電気をつけた。


「ええぇ?!」

部屋の真ん中に置いてあるコンビニのアイス売り場みたいなガラストップの機械を覗き込んだ碧が突拍子の無い声を上げた。


「どうし・・・はぁぁ?!」

どうしたのかと覗き込んだ私も思わず変な声を出してしまった。


アイスケースみたいな物の中に横たわっていたのは・・・人魚だった。


温度調整をしているのか完全に凍りついている訳ではないが、氷水に沈んでいる感じで、これって冷やして仮死状態にしてるの??

地下に氷水を常時キープしているから建物がカビだらけになったんかね?

冬はともかく夏は結露とか湿気とかが凄くなりそうだし。


というか、人魚って氷水で仮死状態になるんだ??

殆ど生気も魔力もないから死んですぐの死体なのか、最低限生きているけど仮死状態なのか、咄嗟には判断がつかない。


ガラストップに触れて魔力で中を探ってみた。


「死体?」

碧がそっと聞いてきた。


「魔力が枯渇していて死ぬ一歩手前な感じだね。

でも・・・徐々に魔力が戻ってる。

なんか変な使い魔契約が結ばれてるっぽい?」

使い魔契約って魔力の供給も契約の一部だが、ハネナガやクルミみたいな動物霊ならまだしも、こんな大きな肉体を持った生きた幻獣(多分)と使い魔契約なんて、魔素の薄い地球じゃあちょっと厳しくない?


前世だったら普通に魔素の濃い地域で生きている魔物や幻獣に魔力をちょっとした嗜好品代わりに差し出して頼み事を聞いてもらう感じな使い魔契約も適性があれば出来た筈だが、こっちでは肉体を持つ魔物や幻獣が生きられるだけの魔素が存在せず、それを人間の魔力で提供するのは無理がある。


もしかしたらネズミサイズとかだったら可能かも知れないが、小柄な人間サイズの人魚は不可能だろう。


「人魚って実在したんだねぇ」

碧が感心したように呟いた。


「なんかこう、魂の感じが魔力が足りなくてスカスカと言うか死ぬ一歩手前って感じだから、普通の地球の生物というよりは異世界からうっかり境界門を通って転移しちゃった幻獣寄りの存在じゃないかな?」


『昔いた海龍の境界門近辺の領域に住んでおった者どもではないかの?

あやつは海が煩くなったと境界門の維持を辞めてここを離れてしまったが、その際に一緒に発たなかった者の子孫か・・・混血した子の先祖返りかも知れんの』

白龍さまがふいっと現れて教えてくれた。


おお〜。

そっか、地球に住み着いていた龍って白龍さまだけじゃ無かったんだね。

海に聖域っぽい境界門があったんだったらそこに幻獣寄りな人魚が住んで居ても不思議はないか。


人魚って前世の世界には土着していなかったけど、幻獣界には居るって噂では聞いた事があったんだよねぇ。

幻獣界からうっかり境界門を超えてきた人魚が海や川に時折現れると言う話だった。前世の世界だったら人魚程度が生きるには足りる魔素はあったものの、珍しさから人間に見つかると貴族や王族に売られる為に狩られるから平均寿命は短かったらしい。


幻獣の肉って長寿に役立つって噂は前世でもあったから、見目が良いのだったら暫くは展示されても最終的には年老いた権力者に喰われちゃったそうだ。


と言うか、どちらの世界でも人魚が長寿に役立つと言う話が伝わっているって事は、実際にある程度は若返り効果があるのかも?


「先祖返りで一族の人間なのか、それともここに幽閉されたとか言う人物が惚れた相手なのか。

まあ、今まで解剖されて食べられて居ないっって事は先祖に人魚の血が入っていて先祖返りしたのかな?

昔に混血した程度でこうもフルに人魚っぽい先祖返りが生まれるとは意外だけど」

この屋敷の荒れ具合を見るに、幽閉されていた人物がここに住んで居たのはかなり前の話だろうから、その人物が惚れた人魚をそのままここで電気代を掛けて冷凍保存(?)する謂れは無いだろう。


先祖返りに関しては・・・依頼主が元はどっか海沿いか島に住む一族で、人魚の血が何度も入っている上に幻獣寄りな種族の混血が0%か100%かな出方になるのだったら、有り得るのかも?

ちょっとやそっとの混血具合で足が尻尾になるとは思えないから、マジで『人間』か『人魚』かの二択式じゃ無いと無理な気がする。


と言うか、異世界の幻獣寄りな種族と人間が混血出来る事自体が意外過ぎるけど。

幻獣寄りだとそこら辺が意外と緩いのかね?


「・・・もしかして、白雪姫っぽく死んだように眠る人魚にキスしたら変則的な使い魔契約が結ばれちゃったとか?」

混血に関して考えていたら、碧が別の問題(?)点に関して言及した。


そう言えばそうだよね、使い魔契約のミステリーもあったっけ。

キスでの使い魔契約も本人の才能と何を考えながらキスしたかによっては有り得るのかもだけど・・・死体の如く眠る相手にキスするなんて、若い男って顔が良ければ性格なんぞ二の次なのかね?





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