第719話 入りたくない〜!

「うわぁ〜。

レンガの古い屋敷ってマジであるんだね。

日本だと地震で崩れやすいから長持ちしないんだと思っていた」

蔓が這って幽霊屋敷っぽい雰囲気になっているが、目の前の屋敷は煉瓦で作られて新築当時はさぞかし高級に見えた家だっただろうと思われる建物だった。


「金持ちだから、ちゃんとお金をかけて耐震性を強くしたんだろうね。

地盤によって揺れやすいところとそうでも無い所もあるし。

自然と小高いここら辺なんかは地盤もしっかりしていてあまり揺れないのかも?」

碧が周りを見回しながら言った。


緩やかな丘っぽい土地の小高い部分にあり、下の方に町が見える。

ちょっと郊外で昔だったら辺り一面に畑とかがあった地域なのか、視界の左の方は今でも野原なのか収穫後の畑なのか知らないが建物がない平野っぽい感じで、右側は戸建てやマンションや高速道路などが見える郊外の風景だ。


ある意味、こんな幽霊屋敷もどきな古い煉瓦造りの家がポツンとあるなんて、意外だ。

まあ、金持ちだからこそ昔から持っている土地を無理に開発しないのかな?

と言うか、家を調べていた孫に不調が起きた事も考えると、家が呪われていると言うか悪霊憑きだとでも伝わっていた可能性が高そうだ。


退魔師を雇って祓えば良い話だが、何か外の人間にバレたくない醜聞があったのかも?


今になって退魔師を雇ったのは、昔の醜聞がどうでも良くなるだけの時の経過があったからか、それとも孫の不調が醜聞よりも大きな問題だと思われたのか。

まあ、過去に関する見栄よりも今生きている孫の方が重要なのは当然だよね。

人間として正しい選択肢ではある。


とは言え。

「ここまでオドロオドロしい見た目の家って初めてかも」

煉瓦の黒ずんだカビっぽい汚れとか、枯れた蔓とそれに絡まるまだ生きている蔓が一面を覆っている壁とか。

何かこう、マジで幽霊屋敷として売り出しているのかと思いたくなるほど雰囲気が暗い。

煉瓦造りの建物って地震大国の日本での実用性はさておき、見た目はお洒落なのが多いのに。


「悪霊憑き?

それとも建物を呪う事って出来るのかな?」

碧もちょっと首を傾げながら建物を見上げた。


「建物はなんかこう、怨念でも滲み出てきそうな見た目だよね。

目を瞑っていると特に穢れた感じはしないけど」

見た目が確実に呪われているだろって感じなのに、実はそこまで瘴気は感じないんだよねぇ。

ただ、ここまでカビっぽく黒ずんでいるって事は湿気て居るだろうから、虫が沢山湧いていそうで・・・。


「ある意味、良くぞこんな怪しげな家に入ろうと思ったよね、お孫さん。

街中にあったら近所の子とかが度胸試しに忍び込みそう」

碧が家の側面を見に行きながら言った。


確かに。

流石にちょっと住宅地から離れているので子供が遊びにくるのには距離がありすぎるかも知れないが。

つうか、子供が度胸試しに入る場合って何処かの窓ガラスや鍵を壊して中に入るのかな?

それとも外壁に触れて終わり?


子供の度胸試しの作法は知らないが・・・ここに入る気になったお孫さんはある意味度胸があるかも?

まあ、実際に幽霊とか呪いとか信じていないのだったら気にせずに入ったんだろうけど。


「なんかこう、これだけ外がカビてそうな見かけだったら、家の中もカビだらけとか害虫だらけな気がするんだけど、

先に入院中のお孫さんの方に行くべきだったかな?」

碧のG避けで例えGが居ても排除できるが、世の中それ以外にも沢山虫がいるんだよねぇ。

ここにだったら色々と居そうだけど、生きた虫諸々を捕まえるのはちょっと無理。


寒村時代はムカデだろうがGだろうがガンガン叩き潰して外に捨てていたんだけどねぇ。

生まれ変わって清潔な虫のほぼ居ない暮らしに慣れ、ちょっとそこら辺は軟弱になった気がする。


「まあ、どちらにせよこっちも浄化する依頼があるし、来る必要はあるからね。

先にこっちを綺麗にしちゃってから病院に行けばお孫さんの体調が改善しているか分かる可能性も高いしさ」

碧が慰める様に言った。


そうなんだよねぇ。

家付きの悪霊なり特殊な設置型呪詛なりでこっちを浄化したら治る場合だったら、体調の改善が分かるのに数十分から数日掛かるかも知れない。なので先にこっちを終わらせた方が待ち時間ゼロで依頼完了になるかもと期待してこっちを先にしようと話し合って決めたのだが・・・。


こうもジメジメ薄暗い感じでいかにも害虫が居そうな所だと、入りたくない気分がヒシヒシと湧き出してくるんだけど〜。

先に虫を駆除する業者を雇っちゃダメかな?!


「大丈夫、ちゃんと殺虫スプレーも持って来てるから!」

碧がさっとバッグの中から大振りなスプレー缶を取り出して見せてくれた。


「おお、凄い!

・・・私の分は?」


自己防衛手段は私も欲しい!

持ってくる事を思い付かなかったのが悪いんだけどさ。


「・・・しょうがないね、私が先に入るよ」

碧が言いつつ、屋敷の鍵を取り出した。


ああ〜。

外からガッツリ大規模死霊術でもかけて、ネズミのゾンビにでも全部害虫を始末させたらどうかなぁ・・・。


死霊術ってカルマにあまり良い影響は無いけど、ネズミ程度だったら大丈夫じゃない??



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