第718話 怪しい?
「ただいま〜」
退魔協会からのメールの添付資料を読もうとタブレットを弄っていたら、碧が帰ってきた。
「おかえり〜。
なんか退魔協会から依頼の電話が来たよ。
呪いか悪霊かどっちかが原因の体調不良になった孫を持つ爺さんからの依頼で、原因になった呪いか悪霊の祓いと屋敷の浄化をお願いしたいだって。
これって悪霊か呪いか分からないって適当な理由をつけた治療依頼だったりするのかな?」
まだ資料を読めていないが、原因がどちらか分からないと言う時点で怪しい気がする。
退魔協会の調査員が調べている筈だろうに。
碧を使った治療に関しては、政治家関連とかだったら退魔協会が脱法(どころか違法)行為になろうと仲介しかねないのは既に分かっているからねぇ。
「あ〜まぁその可能性もある、かもねぇ。
普通に悪霊とか呪いとかでもガツっと一撃で衰弱する様な攻撃だと『霊的ダメージを受けた』しか分からない事もあるっちゃああるらしいよ」
碧がタブレットに手を伸ばしながら応じた。
「でもだとするとそれって原因の悪霊なり呪いなりを祓ったら治るの?
祓って治るって事は被害者と加害者が繋がっているって事なんだから、どっちが原因か分かりそうなものだけど」
そして繋がっていないなら、原因を祓っても治らないと思うが。
それこそ、車に轢き逃げされて骨折しても、轢き逃げ犯を捕まえたところで骨は治らない。
体にナイフが刺さったままな様な状態だったら抜かないことには治療が出来ないと言うのは分かるが。
調査員はどう言う報告を出したんだろ?
やっと退魔協会からのメールの添付書類の解読・解凍に成功し、ファイルを開けた。
最近は情報漏洩対策だとかで送られてくる添付ファイルが全部圧縮した上で暗号化されるようになり、タップするだけでは読めなくなってウザいんだよねぇ。
どうせ人が知りたがる様な大した秘密なんてないんだし、送る側が誤送信しない様に気をつければ良いだけだろうに。
読む側に手間を掛けさせる機密保持手法は遠慮してもらいたいところだ。
タブレットだと別のメールで送られてくる暗号キーを上手く選択してコピーするのも中々面倒なのに。
夏ならまだしも、肌が乾燥してくる冬だと皮膚の油分が少ないせいか、イマイチ画面に触れても反応が鈍いんだよねぇ。
お陰で何度もタップし直したり、指に息を吹きかけて暖めたりと色々する羽目になってマジで面倒。
「う〜ん、被害者から継続的な霊力の消失が確認できるが何処に流出しているのか追跡できず、だって。
調査員が無能だったっぽい気も微妙にするけど、霊的攻撃だから悪霊か呪詛かではあるだろうと言う事でどちらにせよ依頼としては成立すると見做して態々凄腕の調査員を再度送り込むのではなく、さっさと退魔師に依頼を回しちゃったみたいね」
素早くメールを開封できたらしき碧がざっと添付書類に目を通して言った。
碧の肌はいつの時期でも指先まで艶々スベスベで乾きすぎて困るって事がないから、タブレットでの暗号化キーの選択・コピーも素早く出来るんだよねぇ。
顔は流石に私もそれなりに美容液とかポーションもどきとかを使ってケアしているんだけど、どうしても頻繁に洗う指は冬はカサカサになっちゃうんだよなぁ。
流石にひび割れしてくるぐらい酷くなったら碧に治してもらうんだけど、ちょっと乾燥して指先が滑りやすいって程度では態々治癒を頼む程でもないかなぁと遠慮しちゃうんだよね。
それはさておき。
なるほど、被害者の孫とやらは何か継続的に霊力・・・と言うか実質生命力を抜き取られる様な攻撃?を受け続けている、と。
調査員で攻撃元が特定できないからそれなりに高位な攻撃だと見做したのか、報酬は高いめなランクになっている。
まあ、依頼主が金持ちだと言うのもあるんだろうけど。
過去に親族が使っていた古い屋敷って要は穀潰し扱いだった次男とか三男とか出戻りの娘とかを幽閉していた家を放置しておけるほどの歴史のある金持ちって事なんだろう。
それって幽閉されていた人間の悪霊なんじゃないの?
まあ、もしかしたらその人物が復讐しようと思って研究していたヤバい術なんて可能性もゼロでは無いかもだけど。
でも、呪いを掛けた人間が死んだ呪詛って死後に触れたせいで発動する事なんてあるのかな?
イマイチそんな昔の忘れ去られた呪詛系の話は縁がなかったから知らないなぁ。
そう言う一族の人間でも役立たずと見做したら幽閉する様な家系だったら、今でも色々と人でなしな行動をしていて恨みを買っている可能性は高そうだし。
とは言え、暫く使っていなかったらしき屋敷を調べていて倒れたって言うのは外部の人間が仕掛けた復讐にしては変かな?
「それってその繋がっている先の悪霊なり呪詛なりを祓って、孫とやらの体調不良が治らなかったら依頼失敗って事になるのかな?
体調不良のタイプによっては碧から治療してもらう事を期待してない?」
なし崩しに治療をさせられる様な前例を作るのは不味いと言う気もするが。
「どうだろ?
まあ、その孫とやらと話して人柄が気に入ったら助けてあげても良いし、気に入らなかったら入院して点滴でも打って貰えば治るんだからそれで良いでしょって投げるよ。
時間経過で回復するなら依頼は達成した事になるから」
肩を竦めながら碧が応じた。
そっか。
場合によっては来年まで依頼報酬の振り込みを待つ事になるかも知れないけど、それでも構わないし、問題ないか。
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