第716話 時間感覚の違い

「意外とこっちは穢れが増えてないね」

もう片方の高台にある高級住宅地に辿り着き、結界の核だったお寺へ向かいながら碧がコメントした。


「だね。

どっちも似た様な場所だろうと思ったんだけど・・・もしかしたら、携わったデベロッパー会社が違うのかも?

きっと自社で売り出した高級住宅地って社内の管理職とか幹部がそれなりに手を回して買っていたんじゃ無い?

そう考えると、御神木さまを切り倒して浄化結界をあんな風に変えるような会社の人間だったらあちこちで恨みを買っていても不思議はないよね」

デベロッパー会社でもそれなりに会社のカラーがあるらしいから、何処でも同じだけエゲツない事をやっているとは限らないのだろう。


利益率とかを考えるとどこも同じ様な感じになるかと思っていたけど、近所のお姉さんがマンションを買おうかと探していると話していた時のリサーチ結果によると、おっとり殿様商売系なところとか、ガシガシな関西のアグレッシブ系とか、それなりに違いはあるらしい。


・・・考えてみたら、デザイナーズマンションを建てたりするのがどこなのか、聞いておけば良かったな。

不動産なんて間取りとローケーションの方がデベロッパー会社よりも重要な気がするから、会社なんぞはあまり重視する必要があるとは思っていなかったけど、下手をしたら同じマンション内とか住宅街に住む社内の人間が恨みを買いまくっているかもと言う可能性を考えると、あまりアグレッシブな会社の物件は買うのは危険なのかも?


穢れや悪霊の浄化が出来るウチらにはあまり関係ないけど。


のんびり高台を回り、お寺に辿り着いたがここも特に目につくほど穢れは溜まって居なかった。

良かった。

多少宗教団体としては足りないところがあるにしても、人に恨まれる様な事はやっていないようだ。


こないだ来た時とほぼ全く違いが無い様子を見るに、結界が取っ払われたのも気付いていないみたいだが。

それはそれで良いのかねという気もしないでも無いけど。

問題が起きたら、退魔協会を頼ってもらうしかないね。


「こっちの方は比較的安心だね〜。

さっきの住宅地はなんかこう、近い将来に夜遅くは出歩きたくなくなりそうな雰囲気だったから。

あとは、マンションの穢れを祓えば終わりだね」

自転車を一旦止め、周りを見回しながら碧が言った。


「だねぇ。

考えてみたら不動産業界は悪霊とか穢れの存在を知っているのに、敢えて御神木さまを伐採したあっちのデベロッパー会社ってかなり不思議な気もするね。

それこそ下手をしたら祟る可能性だってあっただろうに」


神に連なるものは怒れば祟る。

御神木さまと言われる程の大樹だったらその可能性だってあっただろうに。


「ああ言う悪辣な事をやる業者はちゃんと祟りを避ける為の術師にも伝手があるんでしょ。

実際に、接木して劣化バージョンの結界に変えた術師が居るんだし」

碧が指摘した。


確かに。

となると、今回の術が消えて穢れが溜まっていっているのもそのうち対処するのかな?

流石に同じ術を再度掛ける事は無いと思いたいが。

明らかにそれはやったら法的にも許されんでしょうと言いたいところだが、現代日本の法制度じゃあそんな行動を罰する事が出来るかはかなり微妙だからなぁ。


退魔協会も露骨に関係のない他者へ害のある穢れを押し付ける様な術を請け負うなんて事はしないと思うが・・・数十年前は誰かがやったんだから、そう言う後ろ暗い術を非公式に請け負う人間はいつの世にも居るのかも。


ある意味呪詛に近いのに、呪詛じゃないから呪詛返しが効かないのが残念だ。

「考えてみたら、マンションの穢れ落としに行く前にもう一度あの御神木さまの接木のところへ寄っても良い?

ちょっと樹霊さんに、変な術を掛けられそうになったら祟ってやれって唆しておこうかと思うんだけど」


「ええ〜?

祟らせて良いの?

カルマ的に不味くない?

樹霊だって転生するんじゃない?」

碧が微妙そうな顔をして指摘した。


「・・・どうなんだろ。

魂があるって事は転生するのかも?

接木とかしてガンガン元の木から子供を増やした場合、魂のカウントがどうなるのかちょっと気になるけど。

まあ、だったらちょっとゴムが伸びて跳ね返るみたいな感じの術で自業自得を経験させるぐらいに自衛してはどう?って提案する程度にしておくか」

どの程度そこら辺の対応が樹霊に出来るのか知らないけど。

クルミか私に連絡とってくれたら変な術をかけられ時にそれの解除はするよって言っておこうかな。


樹霊って時間感覚が人間と違うから術師を追跡するのは無理ぐらいなタイミングになる可能性は高いだろうけど、少なくとも変な実害が出る前には術の解除が出来る・・・と良いなぁ。







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