第714話 力技で!
「世代交代に失敗したらしきお寺にしては綺麗に整備されてるね」
もう一つの結界の核があると思われるお寺に来てみたら、思っていたよりもボロくない。
まあ、高級住宅地の端にあるお寺なんだからそれなりに由緒ある寺なんだろうし、檀家も金払いは良い筈だよね。
「う〜ん、表面だけって感じじゃ無い?
多分ここって地域のお祭りみたいのを定期的にやるっぽいからしっかり収入源もあるしそれなりに敷地をメンテ出来ているんだろうけど・・・あまり心が籠った感じがしないな」
碧が周りを見回して微妙そうな顔で言った。
「そうなの?
落ち葉がちゃんと掃いてあるし雑草もそれ程ないからちゃんとしてそうじゃない?」
お寺と普通の庭園や公園では必要なケアが違うんだろうけど、見た目は綺麗に整備されている。
「ちゃんと心身を清めて真摯に毎日祈っている場ってこう・・・空気が凛としていると言うか、清らかと言うか、神域っぽい感じがあるんだけど、ここはそれが薄い気がする。
多分、世代交代した住職が霊とかを感じられない人で、それを補えるだけの信仰心が無いんじゃないかなぁ」
「え、霊とか感じられないと住職とか宮司ってダメなの?」
元々、宗教なんぞ実質人の弱みに漬け込む詐欺だと思っていたから、口さえ上手ければ霊力なんて関係ないと思っていたんだけど。
流石にこれは真面目に悪霊祓いもする宮司を続けてきた藤山家の人には言えないけどさ。
「お寺も神社も、神仏に死者の魂の安寧を祈る為に存在するんだよ?
悪霊祓いも出来なきゃダメに決まってんじゃん。
まあ、実際には出来ないところは神社もお寺も増えてきたけどさ」
呆れた顔の碧に言われた。
そっかぁ。
悪霊祓いは退魔協会がやるって思っていたから神社やお寺は気休め的な存在だと思っていたけど、本来は神社やお寺でしっかり死者の安寧を祈れていたら退魔師なんて必要なくって、例外的な状況に対応する為に退魔師はいる感じなんだね。
現実は微妙だけど。
取り敢えず。霊力があまりなく、信仰心も足りないと神域っぽさが失われるらしい。
で。
敷地内を歩き回ったところ・・・。
「住民の信仰心と住職の霊力を使って結界を維持していたのが、どっちも褪せちゃって出力不足に陥って術が変質したっぽい?」
もう一方の結界は御神木さまを切り倒した時に潔く(?)穢れの浄化を最初から諦めていたが、こちらは時の流れと共に衰退して自然劣化した様だ。
結界内を清めるだけの力が無くなり、結界の中だけでも綺麗な状態にキープしようとして単に穢れを押し出すだけな結界に変わっていったっぽい。
術が劣化してこんな風に変わることなんて、マジであるんだね。
前世では魔素が多い世界だったせいか、ちゃんと魔力が補填されない術は空気中の魔素に洗い流される感じでそのうち自然に消えたのだが、こちらはなまじ魔素が薄いせいか術を洗い流す作用が弱く、術の残骸が変に効果を持ったまま変質して残るっぽい。
なるほど、京都が古い結界で収拾がつかなくなる訳だ。
「核が何処にあるのか分からないけど、どうする?」
碧が聞いてきた。
「術を魔力で焼き切っちゃえば良いと思うよ。
術のある程度以上を魔力で洗い流しちゃえば完全に機能停止するでしょ」
核に魔力をぶつける方が楽だが、取り敢えず敷地内の術の魔力を別の魔力で消し去っちゃえば結界を維持出来なくなるはず。
普通だったら結界を勝手に消そうなんてしたら管理者が怒って攻撃(物理的なり魔術的なり法的なり)してくるだろうけど、ここは管理できるだけの能力なり意欲なりがある人がいないっぽいから、適当に風景を楽しんでいる風にベンチに座ってガシガシ魔力をぶつけていけば多分オッケーでしょ。
「それで良いんか〜。
なんかこう、大雑把だね」
碧がちょっと呆れた様に言ってきた。
「ある意味、コンピューターのチップの部分を取り出して破壊する代わりに、ハードドライブを外のカバーごと熱して溶かす様な感じ?
もしくは全体をそのまま粉砕するとか。
力技だけど確実性は高いよ!」
毎日魔力を大量に使う仕事があるんだったらそんな魔力の無駄遣いは出来ないが、今は退魔協会の依頼が無ければお守りを作る程度にしか使われない魔力なのだ。
無駄遣いしても問題はない。
マンションの穢れ落としは結界が無くなった影響を見極めてからの方が良いから、元々数日待ってからやる予定だったし。
「じゃあ、こっち側半分は私の霊力で洗い流すから、あっち半分は凛がやるって事で良い?」
碧が敷地の半分を大雑把な感じに手で示した。
「うん、それで良いっしょ」
最後に何か残っていたら仕上げとして潰せば良いし。
偶には何も考えない力技も、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます