第713話 まずは一つ解除。

「取り敢えず、樹霊と結界のリンクを外すね」

霊や魂は黒魔術の範疇だ。

霊にリンクさせた術の該当部分だけを削ったり修正したりするのも比較的容易い。


かなり脆くなっている術なので碧なり元素系魔術師なりが破棄を意図しながら魔力をぶつけるだけでも壊せるだろうが、力技でやると樹霊が巻き添えになる可能性が高いからね。


ここはそっとリンクを外し、術をやんわりと解除しよう。


長い間御神木さまとして親しまれてきたのに金目当てな外部の人間にあっさり伐採され、しかも接木して延命だけされて下の町の人間を害するような術の核にされた哀れな樹霊なのだ。

せめて今後は公園で遊んでいる子供やご老人が日向ぼっこしている様子をのんびり穏やかに眺めて過ごせるようにしてあげたい。


今時の子供が公園で遊ぶのかは不明だが。


最近は住宅街にある公園とかを通っても、鬼ごっことかボールで遊んでいる子供なんか殆ど見た記憶がない。

たまに子供がいると、纏まって座って携帯型ゲームで遊んでいる事が多いし。


はっきし言って、不健康だよねぇ。

まあ、私も公園で遊んだ記憶なんてあまりないけど。

幼児ぐらいの頃は母親と散歩に来たとか、週末に父親とキャッチボールしに行った可能性はあるけど・・・兄ならまだしも私は『娘』だからキャッチボールは違うと父親が思ったのか、あまりボール遊びもやった記憶はない。


鬼ごっこや隠れん坊をするほど近所に仲の良い子供が居なかったし。

住宅街の開発された時期の関係で、住民の平均年齢が私の親の世代よりもう10年ぐらい上だったせいで子供も私よりも上の年齢が殆どだったんだよねぇ。


近所の公立の小学校も昔の方が学級数が多かったのが下駄箱とかに残っている古いシールの跡とかで見て取れたし。


ここら辺なんかも、青木氏が子供の頃に再開発したんだったらその時期に入居した人が多いだろうから平均年齢が高そう。

まあ、二世帯住宅にして孫を呼び寄せた家も多いかもだけど。


少なくとも、平日の朝なせいか現時点では公園に人影はない。

私がゆるい人避けの術を掛けたせいもあるけど。

でも、この程度だったら日常的に公園で時間を過ごす人だったら入ってくる筈だから、やっぱりあまり公園が使われていないんじゃないかなぁ。


御神木さまも可哀想に。

下の町の方は穢れが多くて住民が疲れちゃったり出ていっちゃったりするせいでこちらまで遊びにくる人が居ないのかも。

もしくは御神木さまの子とも言える、接木したこの木の存在に気付いていないのか。


まあ、今後は変に穢れを押し出す事に力を使わなくて済むので、普通に木の清浄化効果が発揮できるようになって公園が清々しく感じる人が集まるかも?

元は御神木さまなのだ。

そこらの街路樹とかよりはずっと効果が高いだろう。


そうなると、これからは発生した穢れが普通に残って自然にゆっくり散っていく様になる高級住宅地の住民も、清らかな空気を求めて公園に集まる様になるかも?


そんな事を考えつつ、丁寧に樹霊を結界の術から解放した。


「うっし、樹霊さんは結界の術から外れたから、後はこれを壊しちゃおう。

もう動力源が無くなったからどうせ殆ど効果は無いだろうけど、変な結界が残らない方が無難だろうし」

それこそ京都のごちゃごちゃ残る結界だって動力源が無い古いのが多い筈なのだ、

それでも碧が歩いたら頭が痛くなる効果があるのだから、術って言うのは残しておくと悪い効果だけは発生させる気がする。


「残っているのを力技で壊せばいいの?

だったらそっちは私がやるよ」

碧が言って、魔力(彼女的には霊力なんだろうけど)を込め始めた。


まあ、魔力の量だけだったら碧の方が多いぐらいだからね。

そっちの力技は任せるか。


「そんじゃお願い〜」


「よっしゃ。

ふん!!」

碧にガツっと魔力を叩きつけられ、何かが割れる様な微かな音と共に完全に結界が消えた。


よしよし。


「じゃあ、次はあっち側の高台だね。

お寺が世代交代時に知識か能力の引き継ぎに失敗したらしいけど・・・問題は核が何処にあるかだねぇ」

碧がちょっと憂鬱そうに行った。


神社とお寺ってある意味競合相手だから、お寺関連であまり良い思い出が無いのかな?


「敷地内には入れるだろうから、近付いて力技で壊せるかやってみよう。

無理そうだったらこちらは成功報酬なしのキャンセル扱いで良いって話だし」

まあ、それでも出来れば両方の高台の術を解除出来る方が良いんだけどねぇ。


何を術の核にしているかと、どこに安置しているか次第かなぁ。




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