第712話 確信犯だった
「うわぁ・・・これって御神木さまを切り倒した時に、穢れを浄化せずに他所に押し付ける術に変えたんだね。
確信犯じゃん」
結局、高台の浄化結界の残骸2つの撤去とマンションの浄化をそこそこの金額で受ける事になった。青木氏が取り纏めてきたけど、誰が出資したんだろ?
低い土地部分の町内会とか、マンションの管理組合とかかね?
お寺の前にあるせいで、呼ばれてきた事故物件扱いなマンションが一番穢れが酷いが・・・高台の下にある地域の他の家やマンションもそれなりにどれも穢れで薄汚れている。
数年おきに穢れや穢れに誘発された悪霊の浄化を数十年続ける位なら一回で原因を取っ払う方が総合的には安上がりだろうけど、今年の収支は赤字になるんだろうなぁ。
いやぁ、快適生活ラボ初の7桁台の報酬に目が丸くなったわ〜。
まあ、退魔協会の依頼だって3つ足せば100万円に届くのもあるけど、危険性があるとか緊急依頼とかで報酬に上乗せされている場合ならだからねぇ。
ちょっと特殊とは言え危険性も緊急性も無いこの依頼でこの値段になるって言うのは、退魔協会の普段の中抜きが酷いのか、それともちょっとした口止め代込みなのか・・・。
微妙に気になったけど、違法行為はしないと言う条件で受けた。
流石に誰かの屋敷の敷地内に侵入して核になる何かを壊さないと結界を撤去できないなんて状況だったら、依頼は完了出来ないって事で破棄させて貰わないとだからね。
青木氏が自分の持ってきた依頼でやる羽目になった違法行為をネタに私らを強請ろうとするとは思わないけど、違法行為なんて言う弱みを自らに科す気は私も碧もない。
まあ、碧を脅迫するバカは居ないと思うし、居ても天罰デフェンスで直ぐに引き下がるだろうけどさ。
それはさておき。
取り敢えず先ずは御神木さまらしき大樹があった方の高台に来て結界の残骸を調べているのだが・・・元々、その大樹が浄化結界の中心だったせいで完全に無くなると結界の残骸すら残せなかったのか、工事の後にその場所を小さな公園にして、そこそこな大きさに育った木が術の核になっていた。
「どう言う事?」
碧が聞いてきた。
「この木、元の御神木さまだった大樹からの
術の核にする為に残したんじゃ無いかな?
小さな苗木じゃあ出力なんぞ無かったんだけど、御神木さまに連なるモノだから土地の魔力を組み上げやすかったみたいで、それを使って穢れを結界の外に押し出す機能にしたんだって」
木の霊なんて初めて見たが、接木から育った木に寄り添う感じで大樹の樹霊の残滓みたいのが残っていて教えてくれた。
流石、元御神木さまだね。
「浄化するのに出力が足りなくって変な感じに術が変質したんじゃ無いんだ?」
碧が首を少し傾げながら聞いてくる。
「いや、完全に意図的に術を作り直してるよ、これ。
出力が足りないから一部だけ浄化するって言うならまだしも、浄化機能そのものが無いね。
最初から、浄化するだけの出力はないって諦めて他に押し付けるだけの術にしてる」
地形的に、高台のこちら側だけがカバーされているし、西の方の高台には別の術があると分かっているのだ。
下にある庶民の住処の方に穢れが流れ込んで不都合が起きても構わないと言うかなり身勝手な術だ。
「マジか〜。
よし、術を壊しちゃおう!
例え今でも術の存在を知っている人が残っているとしても、そんな他者に穢れを押し付ける術を破棄したからって被害者を批難できる訳が無いんだから」
碧がグッと拳を握って言ってきた。
「常識的に考えて穢れを他所に押し付けるなんて許されないけど、法律的にそこらって決まってるの?
日照権とか排水の管理とはきっちり法律で決まりがあるけど、穢れとかって法律が微妙に不明そうだけど」
一応退魔師を規制する法律は何処かにあるそうだが、ネットで検索しても見当たらないんだよねぇ。
「平安時代の律令法で定められて権力者の変遷と共に適当に随時法の中に組み込まれてきたから、時折『はぁ?!』って言いたくなる様な古い決まりが残っているけど、基本的に他者を害するのは駄目ってなってはいるよ。
この術だってうっかり知らない間に変質したのだとしても本来なら賠償責任があるし、確信犯なら懲罰的な刑もある筈なんだけど・・・術師はまだしも、依頼者は呪詛と同じで『気休めのつもりだった』で逃げられちゃうんだよねぇ」
溜め息を吐きながら碧が言った。
呪詛と違って穢れは自然発生もするから、この結界からどれだけの被害が生じたかの数値化は難しい。
そうなると現実として青木氏とかが私らに金を払う羽目になっているけど、賠償責任なんて追求出来ないんだろうなぁ。
「しょうがないね。
この結界を消して、あとはカルマに任せるしかないか」
是非ともこの結界内にこんな術を掛けるように依頼した野郎が住んでいることを期待しておこう。
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